作品紹介
作者紹介
杉井光
電撃文庫の作品。友人の薦めがあり、私自身興味があり、後輩が持っているということだったので、奪……借りて読みました。電撃でミステリでしかもファンタジー要素が皆無だということで、非常に興味を持ちました。ラノベのミステリっていうと、以前レビューした「under」のように、ストーリーにプラスアルファの要素として、つまり変格として出てくる場合がほとんどだからです。エンタメありきのミステリですから、そこに魔法とか第五の力だとか、ファンタジー要素が入ってくるわけです。しかしこれにはそれがないとおっしゃる。あの、電撃でですよ? 整合性だとか、テーマ性だとかから一番遠くにいる存在のところです。(しかしながら、整合性もテーマ性もある作品にはきちんとあります。傾向として、ということです)そして実際に読んでみた感想は、期待以上の出来、といった感じでした。
以下、若干のネタバレ。
ミステリとしての完成度、おもしろさは、やはりそれでもエンタメが第一ですから、それほどでもなかったのですが、テーマ性がとても高いように感じました。そしてかなりのシリアス。(偏見かもしてませんが)電撃文庫作品に対して、シリアス、という言葉を使うと、人が死んで鬱展開になったり、エログロ的なことを指すことが多いように思いますが、この作品はそうではありませんでした。人が死んで、というか植物物状態になる、ということが起こり、そういう意味では鬱展開でしたが、それに対しての主人公の葛藤が、全編を通して描かれており、テーマ性が高く、この作品に対しての、シリアス、は、葛藤する主人公の様がシリアス、ということです。ですから、ラノベでなくとも、この作品は普通に通用するようだろうと思います。キャラクタも、最近のラノベっぽい一般小説よりはラノベっぽくなかったです。かわいい女の子が不自然にいっぱい、なんてことがなくて、一人は途中で事実上戦線離脱するので、女の子のヒロインは二人だけでした。私個人としては、不自然に女の子いっぱいってのはあざとくて冷めるので、こっちのほうがよっぽどヒロインに萌え萌えできます。
私の崇拝する作家の
一人である本多孝好
の作品に正義のミカタ
という作品があります。語り口もテーマも設定までもこの作品とそっくりでした。完結した人たちの輪(神様のメモ帳では、アリス率いるニートたち)の中に主人公が飛び込んでいくところや、麻薬犯を捕まえるために奔走するという話の筋など、そっくりでした。しかしながら、正義のミカタは、主人公の行動理念にヒロインを使っていなかったり、麻薬犯を味方として登場させ、犯人側の心情までも描いていたり、キャラクタ一人一人の背景がより細かく描かれていたりなど、この神様のメモ帳よりもより深く人間のドラマを掘り下げてられています。行動理念にヒロインを使わない、というのは、良い悪いの問題ではなく、(神様のメモ帳はラノベですから、むしろそうであるべきだと思います)易いか難いかの問題で、より難いということですが。では、難しいことをしていると作品として優れているのか、という話になると、それはエンタメという側面、芸術としての側面を併せ持つ小説の性質上、結論が出ることではない、というかぶっちゃけ人によりけりだと思いますので、置いときます。
話がそれました。神様のメモ帳の話に戻します。
話のテンポは大分早かったです。特に前半。それがいい意味か悪い意味かというと、一長一短という感じ。150ページぐらいまでにキャラや背景の紹介と、主人公をニートたちになじませたりと、これから話の本筋へと向かう準備を終わらせています。急に話が展開するので、一気に読んでしまえるという意味ではいいかもしれません。ですが反面、いろいろ詰め込みすぎ感があって、読んでいて疲れる、という欠点もあり、そしてなにより、キャラクタがストーリーに動かされています。ご都合主義、予定調和、作者の意図が透けて見える。私が最も嫌いなパターンの一つです。こういうことをされてしまうと、どうしても白けてしまいます。私は、普通の人よりこのとに関して過剰に反応してしまうところがあるので、たいていの人は私ほどは不満に思わないかもしれません。しかしこのことは、ひいては、話についていくことに必死、もしくはだいたいの雰囲気だけを読み取るという態度になってしまい、つまり感情移入がし難くなってしまいます。そして、この展開の直後に控えているのは、ずっとこの作品のヒロインの一人だと思っていたキャラの、自殺。急展開過ぎて何が何やらです。読者にヒロインの死を残念に思ってもらってなんぼのこの後の展開なのですが、これでは作者の独りよがりになってしまいます。というか第一巻の序盤でヒロインを死なせて、それを主人公の行動理由にするということ自体いかがなものかと思います。これが二巻三巻と、巻数を積み重ねた上でのことなら効果は絶大だと思いますが。もっと別の方法で問題提起するべきだったと思います。
