免責規定(約款)の有効性~消費者契約法との整合性~ | 法律を科学する!理系弁護士三平聡史←みずほ中央法律事務所代表

法律を科学する!理系弁護士三平聡史←みずほ中央法律事務所代表

大学では資源工学科で熱力学などを学んでいました。
科学的分析で法律問題を解決!
多くのデータ(事情)収集→仮説定立(法的主張構成)→実証(立証)→定理化(判決)
※このブログはほぼ法的分析オウンリー。雑談はツイッタ(→方向)にて。

Q 約款上「免責」と規定されており,賠償請求は否定されることになるのではないでしょうか。

誤解ありがち度 3(5段階)
***↓説明↑***
1 一般の方でもご存じの方が多い
2 ↑↓
3 知らない新人弁護士も多い
4 ↑↓
5 知る人ぞ知る

ランキングはこうなってます
このブログが1位かも!?
ブログランキング・にほんブログ村へ

↑↑↑クリックをお願いします!↑↑↑

A ストレートに「免責」を規定する約款の条項もあります。
  これも,事情によって無効となります。


【約款の免責規定の有効性(ファーストサーバ事件)】
約款上「免責」と規定されており,賠償請求は否定されることになるのではないでしょうか。

→「免責」の約款があります。しかし,ファーストサーバ社の「過失」の程度の解釈や消費者契約法によって,無効となることもあります。

約款35条は免責のルールが規定されています。
「システムの不具合によるデータ破損・紛失」(4項),「本サービスに関連して生じた・・・損害」(6条)について「一切責任を負いません」と規定されています。
その一方,8項において,次の2つについて,適用されないと規定しています。

<免責規定の適用除外(いずれか)>
・ファーストサーバ社に重過失がある場合
・契約者が消費者契約法上の消費者(後掲)である場合

逆に言えば,「重過失なし(=軽過失の範囲内)」かつ「契約者が消費者ではない」という場合にだけ,「免責」の規定が適用されることになります。
ただし,「重過失なし」と判断される可能性は低いと思われます。
「免責」の規定がストレートに適用される(=責任ゼロ)という結論になる可能性はほとんどないでしょう。
なお,「約款」とは別に,消費者契約法上も,似ている規定があります。

<消費者契約法8条1項2号>
「(故意・)重過失」による損害賠償責任の一部免除→無効

ファーストサーバ事件では,「約款」と消費者契約法8条1項2号がパラレル(同等の内容)となっているのです。
現実的にはどちらを適用しても結果は同じ,ということになりましょう。

<ファーストサーバ社の約款>
第35条(免責)
1~3(略)
4 当社は、システムの過負荷、システムの不具合によるデータの破損・紛失に関して一切の責任を負いません。
5(略)
6 当社は、本サービスに関連して生じた契約者および第三者の結果的損害、付随的損害、逸失利益等の間接損害について,それらの予見または予見可能性の有無にかかわらず一切の責任を負いません。
7(略)
8 本条第2項から第6項の規定は、当社に故意または重過失が存する場合または契約者が消費者契約法上の消費者に該当する場合には適用しません。

第36条(損害賠償額の制限)
本サービスの利用に関し当社が損害賠償義務を負う場合,契約者が当社に本サービスの対価として支払った総額を限度額として賠償責任を負うものとします。

[消費者契約法] 
(定義) 
第二条  この法律において「消費者」とは、個人(事業として又は事業のために契約の当事者となる場合におけるものを除く。)をいう。
2  この法律(第四十三条第二項第二号を除く。)において「事業者」とは、法人その他の団体及び事業として又は事業のために契約の当事者となる場合における個人をいう。
3  この法律において「消費者契約」とは、消費者と事業者との間で締結される契約をいう。
4(略)

(事業者の損害賠償の責任を免除する条項の無効)
第八条  次に掲げる消費者契約の条項は、無効とする。
一  事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除する条項
二  事業者の債務不履行(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものに限る。)により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除する条項
三  消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為により消費者に生じた損害を賠償する民法 の規定による責任の全部を免除する条項
四  消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものに限る。)により消費者に生じた損害を賠償する民法 の規定による責任の一部を免除する条項
五  消費者契約が有償契約である場合において、当該消費者契約の目的物に隠れた瑕疵があるとき(当該消費者契約が請負契約である場合には、当該消費者契約の仕事の目的物に瑕疵があるとき。次項において同じ。)に、当該瑕疵により消費者に生じた損害を賠償する事業者の責任の全部を免除する条項
2(略)

【過失の程度;「重過失」or「軽過失」(ファーストサーバ事件)】
データ消失は「重過失」に当たるのでしょうか。

→類似するケースについての公的判断(裁判例)が見当たらないので難しいですが,「重過失」に該当すると判断される可能性が高いと思われます。

まず「重過失」の解釈ですが,判例上確立されています(後掲判例)。
ファーストサーバ事件における,メンテナンス作業におけるミス,については,その個々の細かい作業について,「どのような注意をすればデータ消失が防げたか」「予見できたか」ということを判断することになります。
内容が専門的であり,また,法的判断の先例が豊富にあるわけではありません。
「判断の揺れ」も大きいと言えます。
関連する裁判例がいくつかあります。
いずれも,ミスの具体的内容,約款等の個別事情がファーストサーバ事件と異なります。
ただし,重要な参考事例です。
以下,裁判例やそこから読み取れる基準をまとめます。
結論としては,ファーストサーバ事件では「重過失」が肯定する判断となる可能性は高いと思われます。

<責任の有無と直結する要素>
「メンテナンスの実行上のミス」のような積極的な行為の有無

<類似裁判例1>
機器の経年による劣化・破損→データ消失
ポイント;サーバ運営者の積極的な行為が介在していない
結論;責任否定

<類似裁判例2>
ハードディスクの経年による破損(クラッシュ;完全なデータ破損ではない)
→この時点でバックアップは可能であった
→(外部に)バックアップしなかった
ポイント;サーバ運営者の対応によってはデータ消失を防げた
結論;責任肯定

[最高裁判所第3小法廷昭和27年(オ)第884号損害賠償請求事件昭和32年7月9日]
(失火責任法但書の「重大ナル過失」の意義に関して)
通常人に要求される程度の相当な注意をしないでも、わずかの注意さえすれば、たやすく違法有害な結果を予見することができた場合であるのに、漫然これを見すごしたような、ほとんど故意に近い著しい注意欠如の状態を指す

[東京地方裁判所平成18年(ワ)第23958号損害賠償請求事件平成21年12月4日]
(重過失の解釈;株取引誤発注事件)
 (3) 以上の事実を総合すると、修正との関係で求められる回帰テストの確認を怠ったことだけでは重大な過失があるとまではいえないにせよ、被告は、その完全無欠性の確認ではなく、認知できた不具合件数の推移からの推論によって、その提供判断を行って本件売り注文のような注文に関しては取消注文が奏功しない被告売買システムを取引参加者に提供した上、有価証券市場の運営を現に担っていた被告の従業員としては、その株数の大きさや約定状況を認識し、それらが市場に及ぼす影響の重大さを容易に予見することができたはずであるのに、この点についての実質的かつ具体的な検討を欠き、これを漫然と看過するという著しい注意欠如の状態にあって売買停止措置を取ることを怠ったのであるから、被告には人的な対応面を含めた全体としての市場システムの提供について、注意義務違反があったものであり、このような欠如の状態には、もとより故意があったというものではないが、これにほとんど近いものといわざるを得ないものである。
 (4) 以上の次第で、被告には、午前9時35分以後、本件取消注文の結果が実現しなかったことにつき債務不履行があり、それ以後に約定した株式に係る損害については被告の重過失による債務不履行と因果関係が認められる損害として、被告は、この限度でその賠償責任を負う一方、それより前の時点において既に約定した株式に係る損害については本件免責規定により免責されることとなる。

[東京地方裁判所平成20年(ワ)第24300号損害賠償請求事件平成21年5月20日]
(類似裁判例1)
第4 当裁判所の判断
 1 争点1(記録の消失防止義務及びその違反の有無)について
 (1)原告らは,レンタルサーバ契約は第三者のプログラム又はデータに関する寄託契約の性質を持つとし,これを根拠として,被告はレンタルサーバ業者として本件サーバ上に記録を保管するすべての者に対して善管注意義務を負い,具体的には本件サーバの記録を消失させないようにする義務を負うとし,その前提に立って,被告が本件サーバに保存された原告らの記録を消失させたのは上記消失防止義務に違反すると主張する。
 しかしながら,被告はねこじゃらしとの間で共用サーバホスティングサービスの利用契約を締結しているだけであって,原告らとの間には契約関係はなく,本件サーバに保存された本件プログラムや本件データの保管について寄託契約的性質があるともいえないから,被告が契約関係にない原告らに対し本件サーバに保存された記録について不法行為法上の善管注意義務を負うとする根拠は見いだし難い。そうすると,被告がレンタルサーバ業者であるとの一事をもって,契約関係にない第三者に対する関係で当然に本件サーバに保管された記録について善管注意義務を負うとか,記録の消失防止義務を負うということはできない。
 (2)次に,被告と原告ら双方の事情を踏まえ,被告が第三者である原告らに対しプログラムやデータの消失防止義務を負うかどうかについて判断する。
 被告は,本件利用規約中に責任制限規定(40条)及び免責規定(41条)を定め,契約者その他いかなる者に対してもサーバに保存されたデータの滅失についての責任を負わないことを条件とするとともに,9条で,「契約者は,第三者が本件利用規約を遵守することに同意する場合に限り,第三者に対して本サービスを利用させることができ,契約者は第三者がサービスを利用することについてすべての責任を負うこととする」旨定めた上で,料金を設定して契約者から料金の支払を受けて上記サービスを提供し,契約者の提供先である第三者に対しても被告の上記サービスを提供していることは前記「前提事実」記載のとおりである。このように,被告の提供する共用サーバホスティングサービスは,契約者だけでなく,契約者の提供先である第三者もこれを利用することができるが,その場合には,本件利用規約上,第三者が本件利用規約を遵守することに同意することを条件としているのであるから,被告は,契約者の提供先である第三者に対しても本件利用規約の免責規定が当然に及ぶものとして上記サービスを提供していることは明らかである。
 他方,①被告の本件利用規約の内容はホームページで公開され,第三者にも広く開示されていること,②被告の本件利用規約の内容は他のレンタルサーバ業者の利用規約の内容とほぼ同じであり,他の業者も利用規約を契約者に通知するだけでなく,広く第三者に公表していること,③ねこじゃらしは被告との間で本件利用規約に基づいて被告の共用サーバホスティングサービスの利用契約を締結して上記サービスの提供を受けており,ねこじゃらしが被告の上記サービスを第三者に提供するに当たり,利用契約中に免責規定を設けていることは前記「前提事実」記載のとおりである。これらの事実を総合勘案すると,ねこじゃらしとの間で被告の共用サーバホスティングサービスに係る利用契約を締結した第三者も,その内容の詳細はともかく,被告の本件利用規約の免責規定が存在することを知っているものと推認される。そうすると,原告IBPは,ねこじゃらしとの間で被告の上記サービスに係る利用契約を締結したのであるから,本件利用規約に免責規定が存在することを当然の前提として上記サービスを利用したものということができる。
 以上のとおり,被告は本件利用規約の免責規定を前提として契約者及び契約者の提供先である第三者に対して共用サーバホスティングサービスを提供しており,他方,第三者である原告IBPも上記免責規定を前提として被告の上記サービスを利用していたのであるから,被告は,原告IBPとの間で契約を締結していないものの,同原告との関係においても免責規定を超える責任を負う理由はなく,したがって,本件プログラムや本件データの消失を防止する義務を負うとはいえない。また,原告ら代理店は,原告IBPを介して被告の上記サービスを利用しているから,被告との関係では原告IBPと同様の地位に立つというべきであり,被告は原告ら代理店との関係においても本件プログラムや本件データの消失を防止する義務を負わない。
 実質的に考えても,被告は本件利用規約に責任制限規定や免責規定を設け,これを前提として料金を設定して契約者から料金の支払を受けて共用サーバホスティングサービスを提供している。他方,原告IBPは,ねこじゃらしの免責規定によりねこじゃらしに対して本件プログラムや本件データの滅失,毀損について責任を追及することができない。しかも,サーバは完全無欠ではなく障害が生じて保存されているプログラム等が消失することがあり得るが,プログラム等はデジタル情報であって,容易に複製することができ,利用者はプログラム等が消失したとしても,これを記録・保存していれば,プログラム等を再稼働させることができるのであり,そのことは広く知られている(弁論の全趣旨)から,原告らは本件プログラムや本件データの消失防止策を容易に講ずることができたのである。このような原告ら及び被告双方の利益状況に照らせば,本件サーバを設置及び管理する被告に対し,原告らの上記記録を保護するためにその消失防止義務まで負わせる理由も必要もないというべきである。
 (3)原告らは,このほかにも被告に消失防止義務違反があるとして種々の主張をするので,検討しておく。
 ア 原告らは,本件利用規約41条(免責規定)について,善管注意義務をほぼ免責するものであるから公序良俗に反し無効であるとか,本件利用規約40条の場合だけを想定しており,他の場合を想定していないという制限解釈をすべきであるなどと主張する。
 しかし,被告は免責規定を前提として料金を設定して契約者及び契約者の提供先である第三者に対し共用サーバホスティングサービスを提供しており,他方,被告の上記サービスの利用者は契約者であれ第三者であれプログラムやデータの消失防止策を容易に講ずることができたことは前示のとおりであり,これらの事情に照らせば,免責規定が公序良俗に反するとか上記制限解釈をしなければならないなどということはできない。
 イ 原告らは,仮に免責規定の適用があるとしても,被告が負担するプログラム等の消失防止義務はレンタルサーバ業者としての基本的な注意義務であり,被告はこれに違反しているから,被告は本件事故につき重大な過失があったと主張する。原告らの上記主張の趣旨は,必ずしも明らかではないが,免責規定(本件利用規約41条)のただし書の適用があることをいうものとも解される。
 しかし,証拠(乙19から21まで)及び弁論の全趣旨によれば,被告は共用サーバホスティングサービスを提供するために,サーバとして広く使用されているヒューレットパッカード社製のラックマウント型サーバ「HP ProLiant DL380 G4」を選定したこと,被告は,平成18年4月12日にヒューレットパッカード社の代理店であるキヤノンマーケティングジャパン株式会社から「HP ProLiant DL380 G4」22台(本件サーバ)を購入し,同月17日に納入・据付を完了したこと,本件サーバは「vs37.pro.arena.ne.jp」のサービスに提供され,同年6月13日から使用を開始し,本件事故が発生した平成20年1月15日まで使用されたもので,この間の使用期間は約1年7か月であり,耐用年数の範囲内であること,被告はサーバ管理施設において入退室管理,空調管理を行った上で,本件サーバの保守・管理を行ってきたことが認められる。これらの事実を総合勘案すると,被告には本件サーバの設置及び管理につき格別の落ち度があるとはいい難い。他に本件サーバの障害事故につき被告に重過失があることを認めるに足りる事情ないし証拠はない。

[東京地方裁判所平成12年(ワ)第18468号、平成12年(ワ)第18753号損害賠償請求等平成13年9月28日]
(類似裁判例2)
(5)本件作業
ア 被告は,当時,官庁関係のホームページにハッキング,クラッキングが多発していたことから,被告がサーバーを提供するホームページのデータが外部からの侵入により破壊されたり書き替えられたりする事故に対処する必要があると判断し,平成12年2月22日,サーバーのセキュリティを強化するため,本件作業を実施した。
 被告は,本件作業において,原告の本件ファイルのほか他の利用者のファイルを含め約百数十件のファイルについて,他のディレクトリに移し替えた。
イ 被告は,本件作業に際し,特に本件ファイルのバックアップをとらなかった。
 なお,被告は,一般に,サーバー内のホームページのファイルについて,1週間に一度の割合でバックアップをとっていたが,本件ファイルについてはなぜかそのバックアップも残っていなかった。
ウ 被告は,本件作業後,各ファイルが正常に残っているかどうかにつき自動でチェックしたが,その際には,異常は感知されなかった。
 結局,本件ファイル以外のファイルについては,本件作業を経ても,消滅等の異常は認められていない。
(略)
3 争点(2)(被告の本件注意義務違反の事実及びこれと本件消滅事故との因果関係の有無)について
 前記第2の2の前提事実(5),(6),前記1(6)アに認定の事実及び弁論の全趣旨によれば,本件消滅事故は平成12年2月22日の本件作業の頃に発生したことは明らかである。
 したがって,本件において,被告以外の者が故意に本件ファイルを消滅させた可能性,不可抗力が働いて本件ファイルが消滅した可能性が証拠上具体的に認められない以上,被告が本件作業中の行為によって本件ファイルを消滅させたと推認するほかはない。前記1(7)ウに認定のとおり,本件消滅事故後,被告が,原告に対し,本件作業上で不具合があって本件ファイルが正常移行されなかったと推測される趣旨を述べている事実は,上記推認が相当であることを被告も自認していることを示すということができる。
 また,前記1(5)イ,(7)ウに認定の事実を総合すれば,被告は,本件作業に際し,本件ファイルのバックアップを適切にとっていなかったことが認められる。
 以上によれば,被告は,平成12年2月22日,本件作業中の行為によって本件ファイルを消滅させ,かつ,本件作業に際しそのバックアップも適切にとっていなかったことが認められ,被告の本件注意義務違反及びこれと本件消滅事故との因果関係が肯定される。

★明日に続く!★

<<告知>>
みずほ中央リーガルサポート会員募集中
法律に関する相談(質問)を受け付けます。
1週間で1問まで。
メルマガ(まぐまぐ)システムを利用しています。
詳しくは→こちら
無料お試し版は→こちら

<みずほ中央法律事務所HPリンク>
PCのホームページ
モバイルのホームページ
特集;高次脳機能障害

ランキングはこうなってます
このブログが1位かも!?
ブログランキング・にほんブログ村へ

↑↑↑クリックをお願いします!↑↑↑

労働・企業法務に関するすべてのQ&Aはこちら
個別的ご相談,助成金申請に関するお問い合わせは当事務所にご連絡下さい。
お問い合わせ・予約はこちら
↓お問い合わせ電話番号(土日含めて朝9時~夜10時受付)
0120-96-1040
03-5368-6030