「使い込み」と財産分与~マイナスの財産分与~ | 法律を科学する!理系弁護士三平聡史←みずほ中央法律事務所代表

法律を科学する!理系弁護士三平聡史←みずほ中央法律事務所代表

大学では資源工学科で熱力学などを学んでいました。
科学的分析で法律問題を解決!
多くのデータ(事情)収集→仮説定立(法的主張構成)→実証(立証)→定理化(判決)
※このブログはほぼ法的分析オウンリー。雑談はツイッタ(→方向)にて。

Q 妻が私(夫)の収入を使いこんでいました。
  妻自身の借金返済とか高額なエステとか・・・
  財産分与として残ったわずかの預貯金を折半するということはないですよね。


誤解ありがち度 3(5段階)
***↓説明↑***
1 一般の方でもご存じの方が多い
2 ↑↓
3 知らない新人弁護士も多い
4 ↑↓
5 知る人ぞ知る

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A 支出が「不合理」なものであれば「なかったもの」として算定します。
  「不合理かどうか」つまり「必要性」は家計状態も含めて判断します。
  マイナスの財産分与,となることもあります。


【不合理な支出と夫婦共有財産を算定】
私(夫)と妻が離婚することになりました。
というのも,妻が私の収入の大部分を妻自身の借金返済でほとんど使ってしまっていたことが発覚したのです。
この「使い込み分」はどのように清算されるのでしょうか。

→不合理な支出については,なかったものとして扱うべきです。

例えば,妻自身が結婚前から負っていた借金などに,夫の収入による財産を充てたとすれば,これは「夫婦共有財産」の「本来の使い方」ではない,ということになります。
金額を挙げて説明します。
<具体例>
本来,1000万円の貯金が蓄積されているはず。
妻自身の借金に300万円を使った(返済した)。
現に残っている貯金は700万円。

この場合,財産分与の対象は,700万円,ではなく,1000万円,として扱うべきです。
そして,特殊事情がなく,分与割合が50%だとすれば,妻の分与額は500万円となります。
既に300万円は受領済みとして扱いますので,結果的な実際の支払額としては200万円ということになります。
以上はあくまでも形式的な計算です。
実際には,これら以外の事情についても考慮に入り,金額はさらに調整される可能性もあります。

【支出の「不合理性」判断基準】
妻が,妻自身の服・装飾品・エステなどに,内緒で多額をつぎ込んでいたことが発覚しました。
このような「無駄遣い」も,なかったものとして扱うのでしょうか。
「無駄遣い」かどうかはどのように判断するのでしょうか。

→支出金額・家計の収支・貯蓄・その支出の必要性・相手方配偶者の理解などから,「夫婦共有財産の使い道」として妥当かどうかを判断します。

「夫婦共有財産の使い道として妥当かどうか」ということを言いかえると,「必要な支出だったのか」ということになります。
所得税の申告における「必要経費」と同じ感覚です。
「必要だったかどうか」は,使い道だけでは判断できません。
例えば,エステで100万円を使った家計の収入・支出・貯蓄によって,「一般的な主婦の『女性磨き』として必要」なこともありますし「家計を破綻させた非常識な行為」になることもあります。
<不合理性(必要性)判断のための要素>
・支出金額
 少額であれば,趣味的なものでも「人間的な生活として必要」となりましょう。
・家計の収支
 収支が均衡しているような場合は,「極力倹約すべき」(趣味的支出は必要ではない)となりましょう。
・貯蓄
 十分に多額の貯蓄がある場合は,「許される趣味的支出の範囲」も大きくなりましょう。
・支出自体の必要性
 例えば同じ金額の「毛皮のコート」でも,1着目であれば必要性は認められやすいですが,10着目だと必要性はないと言えましょう。

【「持ち戻し」同様の処理の根拠】
財産分与というのは「現在実際に残っている財産」を対象に,分けるものではないのでしょうか。
「既に使われてしまった財産」も計算上「分与する財産」として扱うのは理論的におかしくないでしょうか。

→条文上も多くの事情を考慮することが明記されています。

「遺産分割」については,「不公平な財産の動き」を逆流させる方法が法律上明記されています(民法903条;持ち戻し,特別受益)。
しかし,「財産分与」には,持ち戻しに相当する条文はありません。
しかも,「財産」を「分与」する,とネーミングだけを眺めると,「既に使われてしまった金額」は財産分与の対象にできないような感覚になります。
ここで,改めて条文をきちんと読み込むと,財産分与の算定における考慮要素として「当事者双方がその協力によって得た財産の額」と記載されています(民法768条3項)。
「得た財産」とされています。
「得た財産のうち離婚時に残っている財産」とは記載されていません。
公平という視点も含めて解釈すると,「獲得した財産」(不合理な支出は無視する)となります。
なお,「合理的な支出は控除する」というのは当然です。
実際に,裁判例においても,「妻が無断で持ち出した夫名義の財産」を夫婦共有財産に含めて分与額を算定したものがあります(後掲)。

[民法]
(財産分与)
第七百六十八条  協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。
2  前項の規定による財産の分与について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、当事者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、離婚の時から二年を経過したときは、この限りでない。
3  前項の場合には、家庭裁判所は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める。

[東京高等裁判所平成4年(ネ)第3304号離婚等請求控訴事件平成7年4月27日(抜粋)]
そうすると,本件債券も,夫婦の共有財産とみなすべきものであるところ,それは美和子の婚姻費用に充てられたというのであるから,この債券は,財産分与に当たっては考慮しないのが相当である。
(略)
 してみると,財産分与に関しては,このA債券31万円も存在するものとして斟酌するのが相当である。
 そして,本件A債券については,特段の事情を認めるに足りる証拠はないから,これも夫婦の共有財産と認めるのが相当である。
(略)
(4)なお,弁論の全趣旨によれば,被控訴人が家出の際に持ち出した有価証券類は,殆どは処分されて現存していないことが認められるので,財産分与の計算の上では存在するものとして計算するが,分与に当たっては,金額を定めるに留めることとする。
(略)
 してみると,財産分与の対象となるのは,乙鉄工所株分だけであるところ,控訴人は,右認定のように,別居後,乙鉄工所からの住宅貸付の返済に際して売却処分しているが,住宅貸付債務を斟酌する以上,その株式も存在するものとして,財産分与に当たって斟酌するのが相当である。その処分額は,約140万円と推認される。
(略)
これに対し,被控訴人が取得する債券類は100万円相当であるから,前記共有財産に属すると認められ,かつ,被控訴人が持ち出した債券類の評価額との差額相当の1100万円については,主文で,控訴人に分与される旨を宣言し,その金額相当額の支払を命じることとする。

【マイナス(逆方向)の財産分与】
本来妻が受け取るべき財産分与の金額よりも多くの財産を使いこんでいた場合はどうなりますか。

→妻から夫へ,財産分与として金銭の支払が命じられることもあります。

つまり,本来財産分与としてもらえるべき財産よりも多くの財産を既に受け取っているということになります。
「過剰分」,つまり差額については「もらい過ぎ」ということになります。
計算上,分与額はマイナスとなります。
つまり,妻から夫へ「金銭を戻す」ということになります。
実際の裁判例でも,そのような判決・審判の例があります。

【財産分与と処分権主義】
妻から「使い込み分」を「逆流」させる(払わせる)ためにはそのような請求をしなくてはならないのでしょうか。

→審判・判決においては,当事者の請求(主張)がなくても,裁判所の判断で「金銭を戻せ」と命じることができます。

一般に,民事上の訴訟等においては,当事者が請求していないものを裁判所が命じてはならないというルールがあります。
「請求」一般については,行使する,しないは当事者の自由であるので,「裁判所が認め過ぎる」こともある意味「個人の選択する権利」を侵害していると言えるからです。
これを処分権主義と読んでいます(民事訴訟法246条)。
そうすると,財産分与の場合も,当事者が「財産を戻す」ところまでは請求(主張)していない場合は,「財産を戻せ」という判決をすると処分権主義違反にように思えます。
しかし,財産分与は家事審判事項です。
家事審判においては,単純なイエス/ノーという訴訟的な考え方ではなく,裁判所は,個々の家庭の事情に合わせて柔軟な処理ができるように設計されています。
そこで,処分権主義が排除(制限)されています。
具体的には,当事者の主張に拘束されず,裁判所が比較的自由に判断できることとされているのです(家事審判法・非訟事件手続法においては民事訴訟法246条のような規定がない)。
家事審判においては裁判所に大きな裁量が与えられている,という言い方もできます。

[民事訴訟法]
(判決事項)
第二百四十六条  裁判所は、当事者が申し立てていない事項について、判決をすることができない。

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