残置動産の所有権放棄条項~ほぼ無効,少し有効~ | 法律を科学する!理系弁護士三平聡史←みずほ中央法律事務所代表

法律を科学する!理系弁護士三平聡史←みずほ中央法律事務所代表

大学では資源工学科で熱力学などを学んでいました。
科学的分析で法律問題を解決!
多くのデータ(事情)収集→仮説定立(法的主張構成)→実証(立証)→定理化(判決)
※このブログはほぼ法的分析オウンリー。雑談はツイッタ(→方向)にて。

Q 賃貸アパートのオーナーです。
  賃料を長期間滞納している居住者を退去させたいです。
  「契約終了後は動産をオーナーが処分できる」という条項があります。
  これにより,強制的に退去させれば良いのでしょうか。


誤解ありがち度 3(5段階)
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A 残置動産の所有権放棄条項はほぼ無効です。
  強行に行うと,損害賠償請求を受けるだけでなく,住居侵入,窃盗などの犯罪が成立します。


【賃料滞納時の明渡請求】
賃貸アパートのオーナーです。
賃借人が家賃を滞納しているので,解除の通知を出しました。
その後も,「引越し先を探すまで待ってくれ」と言って,なかなか退去しません。
どのような手続きを取れば退去させることができますか。

→明渡請求訴訟によって判決を得て,その後明渡の強制執行を行います。

実際に,まったく合理的な理由がなく,賃料が滞納となっていて,賃貸借契約の解除により契約が終了しているケースはよくあります。
この場合,オーナーは,別の人に賃貸するなどの行為が制限された状態になります。
当然,法律上は明渡請求が可能ですが,実際に裁判手続きで行う場合は,訴訟,執行手続きを行わなくてはなりません。
一定の費用・時間を要します。
現在は,弁護士費用は自由化されています。
建物明渡に慣れていない事務所では,従前どおりの高目の費用設定となっていることが多いです。
いずれにしましても,理不尽な相手(賃借人)が原因となっていることを考えると「割に合わない」という感覚をお持ちになるオーナーさんが多いです。

【残置動産の所有権放棄条項】
明渡の際に,無駄な費用・時間を抑えるためにはどうしたら良いでしょうか。

→賃貸借契約書に,予め,残置動産の所有権放棄条項を入れておくとベターです。ただし,効力としてはそれほど強くはないです。

賃貸借契約書に予め,次のような条項が入れられていることがよくあります。
<所有権放棄条項の例>
賃貸借契約終了後に賃借人が物件(部屋)の明け渡しに応じない場合には,賃借人は,残置動産の所有権を放棄する。
賃貸人は,鍵の交換及び残置動産の処分をすることが出来る。

この条項だけを見ると,これによって,賃貸借契約が解除された後は,裁判所を介さずに明渡が強行できるように思えます。
しかし,実際には,ストレートに所有権放棄条項が有効となることはありません。

【残置動産の所有権放棄条項の効力】
所有権放棄条項の効力はどのようになるのでしょうか。

→賃貸人が退去した後の,純粋な「放置された動産」を処分できる,という解釈になる可能性が高いです。

所有権放棄条項は次のように解釈されることが一般的です(裁判例後掲)。

<所有権放棄条項の解釈>
賃借人が退去後の残置動産をオーナーが処分・撤去できる
賃借人が退去していない場合は,オーナーは処分・撤去できない

つまり,賃借人が居住している限りは,オーナーは手を出せない,という意味です。
この解釈の理由は,仮に所有権放棄条項が有効だとすると,占有排除のためには裁判所の審査を経た厳格な手続きを必要とする,という法秩序を抜け駆けすることになる,というものです。
居住している状態に直接手を加えるのは過激過ぎる,ということです。
法的な理論としては,「自力救済の禁止」とか「公序良俗違反」(民法90条)ということになります。

[東京高等裁判所平成元年(ネ)第3350号損害賠償等請求控訴事件平成3年1月29日(抜粋)]
 右認定の経緯及び後記検討の結果(第三項3記載のとおり)によれば、本件建物に旋錠するについて控訴人が承諾したことはなく、しかも、本件建物の内部には控訴人がクラブの営業をしていた状態のままに什器備品類が残されていたのであるから、本件建物は依然として控訴人が占有していたものであるところ、被控訴人は被控訴人に無断で本件建物に立ち入って、本件建物内に残されていた物件中搬出して売却することが可能であるもの全部を売却して搬出させ もって控訴人の占有を排除したうえ、自ら本件建物を占有するに至ったものということができる。このような行為は、不動産に関する控訴人の占有に対する違法な侵害であり、かつ、残されていた物件についての控訴人の所有権に対する違法な侵害であることが明らかである。これらを合法的に行うには被控訴人に対する明渡し等の債務名義に基づく強制執行によることを要するものであり、被控訴人の右行為は、一私人である被控訴人が行った、債務名義に基づく強制執行に代わる行為であって、いわゆる自力執行(自力救済)に該当するといわなければならない。
 ところで、前認定のように、本件賃貸借契約の契約書には、賃貸借が終了した場合につき、借主は直ちに本件建物を明け渡さなければならないものとしたうえで、借主が本件建物内の所有物件を貸主の指定する期限内に搬出しないときは、貸主は、これを搬出保管又は処分の処置をとることができる、との記載があり、これによれば、本件賃貸借契約において右内容の合意が成立したことが明らかである。そこで、この合意が存在することによって、被控訴人の前記行為が違法性を欠くものといえるかどうかについて検討する。
 右合意は本件建物の明渡し自体に直接触れるものではなく、また物件の搬出を許容したことから明渡しまでも許容したものと解することは困難であるから、右合意があることによって 本件建物に関する控訴人の占有を排除した被控訴人の前示行為が控訴人の事前の承諾に基づくものということはできない。また、什器備品類の搬出、処分については、右合意は、本件建物についての控訴大の占有に対する侵害を伴わない態様における搬出、処分(例えぱ、控訴人が任意に本件建物から退去した後における残された物件の搬出、処分)について定めたものと解するのが賃貸借契約全体の趣旨に照らして合理的であり、これを本件建物についての控訴人の占有を侵害して行う搬出、処分をも許容する趣旨の合意であると解するのは相当ではない。これが後者の場合をも包合するものであるとすれば、それは、自力執行をも許容する合意にほかならない。そして、自力執行を許容する合意は、私人による強制力の行使を許さない現行私法秩序と相容れないものであって、公序良俗に反し、無効であるといわなければならない。これに対して、前者は、控訴人の支配から離れた動産の所有権の処分に関する問題にすぎず、これを他人に委ねることに何らの妨げもないというべきである。したがって、右合意は、前者のように解する限りにおいてのみ効力を有するものと解するのが相当である。
 そうすると、前説示のとおり、被控訴人による前示搬出、処分の行為は、本件建物についての控訴人の占有に対する侵害を伴って行われたものであるところ、右合意の存在によりその違法性が阻却されるものではないことが明らかである。

【オーナー自身による動産処分のリスク】
賃借人が退去していない段階で,所有権放棄条項どおりに,オーナーが部屋の中の物を処分した場合はどうなりますか。

→損害賠償を請求されるだけでなく,住居侵入罪や窃盗または器物損壊罪が成立する可能性もあります。

所有権放棄条項が有効とは言えない状態で,動産を処分した場合,不法に財産を取り上げた,ということになります。
賃借人は,財産を失ったことになるので,オーナーに対し,損害分について賠償請求ができることになります。
また,刑事的には,窃盗罪か器物損壊罪が成立することになりましょう。
さらに,部屋(建物)に入ること自体が許されないものであった,ということになります。
そこで,住居侵入罪も成立することになります。

【訴え提起前の和解による明渡猶予条項】
明渡の際のコストを極力抑える方法はありませんか。

→賃料滞納となった時点で,賃借人と協議し,契約解除+明渡猶予,の内容を訴え提起前の和解によって調書にしておくと良いでしょう。

仮に,契約を解除した時点で次のような条項を合意すれば,有効となる可能性が高いです。
<明渡猶予条項>
・明渡期限を設定
・その期限までに明け渡さない場合は,残置動産の所有権を放棄する

ただし,単に私文書として書面に調印した場合,「契約終了後でもまだ賃借人の占有はある」と考えられます。
そうなると「占有を排除するためには裁判所を介する必要がある」という解釈となる可能性がまだあります。
そこで,これらの合意内容を「訴え提起前の和解」という手続きを利用し「和解調書」にしておくと良いでしょう。
これは,裁判所の関与する手続きなので,後から,内容が無効と判断される可能性は一気に低くなります。
逆に,訴え提起前の和解の申立の際,裁判所としては,和解調書にはできない,と判断されるリスクもあります。
「和解調書」となった場合は,その後,明渡期限後も退去しない場合は,次のプロセスだけで済むことになりましょう。
<明渡猶予の和解調書に基づく手続き>
1 明渡の執行
2 (1の後)残置動産をオーナーが処分する

和解調書であっても,「1」の明渡執行自体をオーナーが自ら行うことはできないと考えられます。
しかし,次の2つのプロセスが省略できます。この部分がメリットと言えます。
<明渡猶予の和解調書のメリット>
次の2つの手続きを省略できる
・明渡請求訴訟を提起→判決を取得する
・残置動産の処分を裁判所を介して行う

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