取得時効の「所有の意思」~固定資産税と自主占有~ | 法律を科学する!理系弁護士三平聡史←みずほ中央法律事務所代表

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大学では資源工学科で熱力学などを学んでいました。
科学的分析で法律問題を解決!
多くのデータ(事情)収集→仮説定立(法的主張構成)→実証(立証)→定理化(判決)
※このブログはほぼ法的分析オウンリー。雑談はツイッタ(→方向)にて。

Q 私は自分の所有の建物に長年住んでいます。
  敷地は登記上別の人の名義です。
  時効で土地も私の所有になるのでしょうか。


誤解ありがち度 3(5段階)
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A 「所有の意思」が認められるかどうかが重要です。
  「固定資産税の負担」がポイントです。


【自主占有(所有の意思)】
私は自分の所有の建物に長年住んでいます。
敷地は登記上別の人の名義です。
時効で土地も私の所有になるのでしょうか。

→「所有の意思」が認められる必要があります。

「取得時効」という制度は,10年または20年の占有継続により,所有権を「取得」できる,というものです(民法162条)。
では,10年(または20年)居住し続けていればその敷地について取得時効が完成するかと言えばストレートにはいきません。
「所有の意思」が必要です。
ご質問の事例では,「土地も自分で所有している」という意思で占有し続けていた,という状態ならば土地について取得時効が完成します。
「自分で所有する意思で占有する」ということを「自主占有」と呼びます。

[民法]
(所有権の取得時効)
第百六十二条  二十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。
2  十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。

【所有の意思と固定資産税】
自主占有であることはどのように立証するのでしょうか。

→「所有者でなければしないような行動」がポイントです。

実際に取得時効を主張する場面では,単に「心底,私が所有する土地だと思っていました」と言うだけでは不十分です。
「所有者でなければしないような行動」が決め手となります。
その典型的なものは「固定資産税の負担(支払)」です。
より具体的に言えば,固定資産税や都市計画税は「登記上の所有者」に課せられます。
そこで,「占有者(居住者)が,登記上の所有者に固定資産税分の金銭を渡して,登記上の所有者が実際に納付する」という状態になっているのが一般です。

【使用貸借の通常の必要費としての固定資産税】
固定資産税を払っていても「所有者としての行動」ではないこともあるのではないでしょうか。

→土地を貸している,ただし,土地の固定資産税は借主が払っている,というケースもあります。

取得時効が成立するためには,自分で所有している意思(自主占有),が必要です。
逆に言えば,土地を借りている,という場合は,何十年占有が継続しても取得時効は完成しません(当然ですが)。
「借りている」と「自分で所有している(つもり)」を区別する典型的な事情は「固定資産税の負担」です。
では,これでキレイに区別できるかというと,不明瞭なこともあります。
親族間で土地を「無償で貸す」ということはよくあります。
この場合,「無償」とは言っても,土地の固定資産税は借主が払うことが多いです。
民法の条文上もそのように規定されています(使用貸借における「通常の必要費」;民法595条1項)
そこで,固定資産税を負担している者が誰か,ということが「所有の意思」認定のヒントになりにくい場合もあるのです。

[民法]
(借用物の費用の負担)
第五百九十五条  借主は、借用物の通常の必要費を負担する。
(略)

【所有の意思と固定資産税に関する裁判例】
「貸し借り」ではなく,固定資産税を居住者が負担している場合は,「所有の意思」と認められることになるのでしょうか。

→固定資産税の負担は重要な要素ですが,これだけで決まるわけではありません。

実際の裁判例における認定の様子をもって説明します(引用は後掲)。
<裁判例における所有の意思の認定と固定資産税の負担>
1 固定資産税の負担によって,所有の意思が推定(認定)された例
 →東京地裁平成21年9月15日
2 固定資産税の負担がなかったことが,所有の意思を否定することにならない,とされた例
 →最高裁平成7年12月15日
3 30年近く公租公課(固定資産税)を負担していなかった→所有の意思を否定(贈与の例)
 →大審院昭和10年9月18日

このように「固定資産税の負担は,所有の意思の推定の重大要素」であることは間違いないです。
ただし,同時に,これだけで決まるわけではない,ということも言えます。

[東京地方裁判所平成20年(ワ)第4715号土地所有権移転登記等請求事件平成21年9月15日(抜粋)]
2 本件各係争地について原告による時効取得が認められるかについて
  (1) 原告が,相続開始時点で,本件各係争地を自主占有していたといえるか(争点(1))について
   ア まず,本件係争地1について検討するに,上記認定のとおり,亡Aは,分筆前の○○○○番の土地の払下げを受け,本件杭から南側の部分を本件土地1とともに畑として耕作していたこと,原告は,本件土地1を相続により取得し,昭和57年までには亡Aが畑として利用していた部分を駐車場として整備していたこと,原告は本件係争地1及び本件土地1の合計面積に基づいて算出された固定資産税を本件土地1の固定資産税として支払っていたことが認められるのであって,これらの事実によれば,原告の相続後の本件係争地1の原告による事実的支配が外形的・客観的にみて他人の所有権を排斥して占有意思を有しなかったものと解される事情は認められず,原告は,昭和55年10月9日時点で,所有の意思をもって本件係争地1を占有していたものと認められる。
   イ 次に,本件係争地2については,上記認定のとおり,亡Cが,亡Aから本件土地2を相続で取得する以前である昭和46年4月ころには既に本件土地2と一体として駐車場として利用されており,原告は,本件土地2を亡Cから相続により取得した後,亡Cが生前管理していた旧駐車場よりも敷地を南側に後退させて本件第2駐車場を整備したこと,その位置は現在の本件第2駐車場の位置と変わりがないところ,現在の本件第2駐車場には本件係争地2が含まれていること,原告は,相続後,本件係争地2及び本件土地2の合計面積に基づいて算出された固定資産税を本件土地2の固定資産税として支払っていたことが認められるのであって,これらの事実によれば,原告の相続後の原告による本件係争地2の事実的支配が外形的・客観的にみて他人の所有権を排斥して占有意思を有しなかったものと解される事情は認められず,原告は,昭和59年7月16日時点で,所有の意思をもって本件係争地2を占有していたものと認められる。

[最高裁判所第2小法廷平成6年(オ)第1905号土地所有権移転登記、土地持分移転登記請求事件平成7年12月15日(抜粋)]
原審の(2)の判断は、A及び上告人らが本件土地の登記簿上の所有名義人であったC又はEに対し長期間にわたって移転登記手続を求めなかったこと、及び本件土地の固定資産税を全く負担しなかったことをもって他主占有事情に当たると判断したものである。まず、所有権移転登記手続を求めないことについてみると、この事実は、基本的には占有者の悪意を推認させる事情として考慮されるものであり、他主占有事情として考慮される場合においても、占有者と登記簿上の所有名義人との間の人的関係等によっては、所有者として異常な態度であるとはいえないこともある。次に、固定資産税を負担しないことについてみると、固定資産税の納税義務者は「登記簿に所有者として登記されている者」である(地方税法三四三条一、二項)から、他主占有事情として通常問題になるのは、占有者において登記簿上の所有名義人に対し固定資産税が賦課されていることを知りながら、自分が負担すると申し出ないことであるが、これについても所有権移転登記手続を求めないことと大筋において異なるところはなく、当該不動産に賦課される税額等の事情によっては、所有者として異常な態度であるとはいえないこともある。すなわち、これらの事実は、他主占有事情の存否の判断において占有に関する外形的客観的な事実の一つとして意味のある場合もあるが、常に決定的な事実であるわけではない。
 本件においては、原審は、A又は上告人らの本件土地の使用状況につき、(ア) Aは、それまで借家住まいであったが、昭和三〇年一〇月ころ、本件土地に建物を建築し、妻子と共にこれに居住し始めた、(イ) Aは、昭和三八年ころ、本件土地の北側角に右建物を移築した、(ウ) Aは、昭和四〇年八月ころ、移築した右建物の東側に建物を増築した、(エ) 上告人Bと結婚していた上告人Gは、昭和四二年四月ころ、Aが移築し、増築した建物の東側に隣接して作業所兼居宅を建築した、(オ) 上告人Gは、昭和六〇年、Aが移築し、増築した建物と上告人Gが建築した作業所兼居宅とを結合するなどの増築工事をして現在の建物とした、(カ) C又はEは、以上のA又は上告人Gによる建物の建築等について異議を述べたことがなかった、との事実を認定しているところ、AはCの弟であり、いわばA家が分家、C家が本家という関係にあって、当時経済的に苦しい生活をしていたA家がC家に援助を受けることもあったという原判決認定の事実に加えて、右(ア)ないし(カ)の事実をも総合して考慮するときは、A及び上告人らが所有権移転登記手続を求めなかったこと及び固定資産税を負担しなかったことをもって他主占有事情として十分であるということはできない。なお、原審は、本件土地の固定資産税につき、Cらに対していつからどの程度の金額が賦課されていたのか、A又は上告人らにおいていつそれを知ったのかについて審理判断していない。

[大審院昭和10年9月18日(要約)]
贈与によって所有権取得を信じていたとしても,現在に至るまで登記名義が他人となっており,公租公課も他人が納付しているのを30年近く放置しているなどの場合には,特別の事情のない限り自主占有があったものとはいえない

【占有取得の原因事実による所有の意思の認定】
借りているのか,所有している意思なのか不明な場合はどうやって判断するのでしょうか。

→占有開始時の「経緯」が決め手となります。

最高裁の判例上,次のような基準が示されています(後掲)。
<所有の意思の有無の判断基準>
占有取得の原因たる事実によつて外形的客観的に定められる

つまり,占有(居住)を始めた時点で,必ず経緯があるはずです。
ある人から「譲り受けた」とか「賃貸借契約を締結した」とかです。
このような経緯として出てくる外形的・客観的な原因(きっかけ)に着目するのです。
<占有取得の原因と所有の意思>
「譲り受けた」タイプ→自主占有
 例=贈与,売買
「貸し借り」タイプ→他主占有
 例=賃貸借,使用貸借

[最高裁判所第1小法廷昭和45年(オ)第315号占有回収等請求事件昭和45年6月18日(抜粋)]
占有における所有の意思の有無は、占有取得の原因たる事実によつて外形的客観的に定められるべきものであるから、賃貸借が法律上効力を生じない場合にあつても、賃貸借により取得した占有は他主占有というべきであり、原審の確定した事実によれば、前示の賃貸借が農地調整法五条(昭和二一年法律第四二号による改正前のもの)所定の認可を受けなかつたため効力が生じないものであるとしても、上告人の占有をもつて他主占有というに妨げなく、同旨の原審の判断は正当として首肯することができる。

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