その時、突然ノイズが走り、すべてのモニター画面が真っ黒になった。

「???」
カークは何が起きたのか理解出来ず、とにかくマウスをクリックし続けたが、全く何も映らない。

(ヤバい、フランシスが帰って来る前になんとかしないと-!!)
カークが動かないモニターと必死に格闘していると、突然何も起きなかったように、再び映像が映った。

「あれ?」
しかしカークの目には、さっきまでの物とはどこかが違う。
「オレこんなに戻したっけ?」

気になって再生して見たが、いくら先に進めても、他の映像は出てくるのに、さっき見たはずの美女トリオや小さな女性や白銀の青年が映っている場面だけは、どの監視カメラの映像からも見つけることが出来なかった。

(一体何が起きたんだ?)

一部の人間に関する映像だけが勝手に消えるなどあり得ない。
誰かに消されたと考えるのが普通だ。
だがセキュリティーの厳重な警察のコンピューターにそんなことが出来るのは…。

カークはしばらく考込んで、ハッと気づいた。

どうやら早くも事件のことがアルディ家の耳に入って、某諜報員による揉み消し工作が行われたらしい。

警察署内のホストコンピューターのデータにまでハッキングして、都合の悪い場面だけを何の痕跡も残さずこんなに短時間で消去していくとは…。

恐るべしアルディ家、恐るべしマドモワゼルchan。

カークが恐れおののいていると、ドタバタと騒々しい足音が近づいてきて、ノックもなしにドアが開き、
「カークさん、買って来ましたよ!!」
フランシスがペリエの瓶を何本も抱えて息を切らせて駆け込んで来た。




カークが複数のカメラからの映像を同時にモニターで再生してマリナの行く先を追いかけると、彼女はトコトコと短いストライドで歩き続け、例の人だかりの出来ている交差点までやって来ると、三人組のいる道路を挟んで向かいの一軒のショコラショップの中へ入って行った。

さらに早送りし続けると、やがて一台のコンパクトルノーがその店の前に停車し、白銀の髪を日の光に輝かせながら長身の青年が降りて店に消え、しばらくして小さな女性を腕に抱いて店から現れると、彼女と車に乗り街中へと消えて行く。

それと時を同じくしてもう一台車が交差点に横付けされ、美女三人組が乗り込んで発車すると、見物人達も諦めて次々立ち去り始めた。

すぐに何事もなかったかのようにいつもの平穏な街並みが延々と続いたが、よくよく目を凝らせば、強盗犯とおぼしき大きなバックの男達が駅に向かう人の中にまぎれていた。


カークはバレないようにとりあえず中央のモニターの画面をフランシスが停止させた場面まで戻して、ハアーッと大きなため息をついて頭を抱え込んだ。

今日は厄日に違いない。
何故よりによって犯罪現場のすぐ側に、アルディ家がらみの人間が勢揃いしているのだろう。

いくら今回の事件と全く繋がりはないとはいえ、シャルルは誰もが知る有名人、マスコミや敵対する人間に嗅ぎつけられでもしたら、どんな大スキャンダルにも発展しかねないのだ。

カークはあまりのことに仮病でなく本当に眩暈がしてきた。



「見てください、この女性、イヤホンをして周囲に目を配りながら襟元のマイクで誰かと交信しています。
隙のない身のこなしといい、軍か諜報機関で訓練を受けた人間に間違いありません」

フランシスは自信満々にそう言ったが、無関係の敏腕諜報員を発見するとは、刑事としての目のつけどころは果たして良いのか悪いのか…。

疑問に思うカークをよそに、フランシスは続けた。

「今回の強盗事件と関係あるとしたら、大規模な組織的犯行の疑いが…ってカークさん、本当に大丈夫ですか!?顔色が真っ青ですよ!!」

カークはとっさに机に突っ伏して一芝居打った。
「うう、急に気分が…冷たい水をくれ…」

カークの小芝居を真に受けて、フランシスは仰天して叫んだ。
「水、水ですね!!何がいいです!?」
「…レモン風味のペリエ…」

「わかりました!すぐ買ってきますから待ってて下さいね!!」
フランシスは大慌てで部屋を飛び出して行った。

彼の足音が遠くなったのを確認すると、カークは体を起こしてため息をついた。

署内でペリエを置いてあるのは地下の売店だけだ。
これでしばらく彼は戻ってこないだろう。
許せ、フランシス。

心の中で謝りつつ、カークはフランシスにさっき停止にされたままの画面をマウスで早送りで再生し、ひとり呟いた。

「やっぱりな…」