(つづく)
ある星で「どうするの、どうするの?」と慌てふためく人々がいます。
どうやら、そこはSさんの母星のようです。
地球へ行くときは、記憶を消すために薬を2包飲む決まりになっています。
ところが、せっかちなSさん。
担当者から「まず、これを飲んでください」と1包目を渡されると、それを飲んだ瞬間「準備は整った!」とばかりに、ぴょ〜んと飛び降りてしまいました。
担当者が薬棚から2包目を取り出し、「次にこれを…」と差し出したときには、もうSさんの姿はどこにもありません。
下を見下ろすと、ぐんぐん降下していくSさんの姿が…!
担当者は「どうしよう、どうしよう! まだ1包しか飲んでないのに!」とパニックになっています。
どうやらこの担当者は新人のようです。
慌てて先輩に助けを求めますが、もうどうしようもできません。
書き換えのストーリーを視ます。
今度は、担当者の隣に先輩がぴったりと寄り添っています。
そして、「いい? せっかちな人もいるからね、黙って渡すと、『これだけ飲めばいいんだな』って勘違いして、そのまま飛び降りちゃう可能性があるから、最初に必ず『全部で2包あります』って伝えるのよ?」と教えています。
さらに、ミスを防ぐための安全装置も用意されています。
地球へ向かう人たちは、寝袋のような柔らかいカプセルに入ります。この寝袋は、壁にしっかりとフックで固定されています。
2包すべて飲み終えると、カプセルの中央がスッと開き、そこから地上へと降下できる仕組みです。
もし1包だけ飲んで飛び降りようとしても、アラームが鳴り、フックが外れず降下できません。
こうして森に降り立った彼女は、湖のほとりで目を覚まします。
ふと目に映るのは、水にゆれる月の光。
「なんてきれい!」
もともと月が大好きでした。
が、宇宙にいた時は、月はただのエネルギーなので目で見ることはできません。
こちらの世界に来るとそれが可視化されています。
風に揺れ、波に映り、ゆらゆらと形を変える月。
Sさんはうっとりと見とれています。
(ここで、Sさんに「きっと水が好きですよね?」と尋ねると「はい、大好きです。そして子供の時からお月様も大好きです」と)
水に映る月の美しさに心を奪われながら、「あぁ、私、すごいところに来たんだわ」と、これからの地球生活にワクワクするSさん。
湖の中を泳いで彼女のそばへ寄ってきた魚たちにも「よろしくね!」
森の木々にも、「よろしくね!」
そう、彼女は万物とのつながりを取り戻したのです。
そして今は、望郷の想いよりも、これから始まる地球での暮らしを楽しみにしています。
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私がここまで話し終わると、Sさんが、突然「『アナスタシア』って知ってますか?」と聞いてきたのでびっくりしました。
(つづく)