この女性が意識を失ったのは、「魂」を抜かれたからなのです。
当時、彼女には恋い焦がれた男性がいました。
どうしてもその人と恋人同士になりたくて、
町はずれの森 の中に住む魔女に会いに行ったのです。
その地方には古くから伝わる伝説がありました。
夜中に魔女に会いに行くと、願い事を聞いてもらえるというのです。
彼女はその伝説を思い出し、夜、暗い森の中に入っていきます。
もう何百年もこの森に入った人はいません。
痩せこけて、目だけがぎょろぎょろとした年寄りの魔女が住んでいます。
透視ができる魔女は、久しぶりに森に入ってくる人間を見て大喜びです。
女性は、自分の願いを叶えたくて、魔女に言われるままに魂を差し出すことを承諾します。
命は奪われないと言われ、魂なら・・・と安心したのです。
魂の何たるかをよく知らなかったのでした。
濃い紫色の羽根ペンと薄い石版が空中に現れました。
石版には何やら文字が刻まれています。
女性は羽根ペンで、自分の名前をサインしました。
魂を抜き取られた女性は家に戻ってほどなくすると、意識をなくしました。
そして、夢の中で、
つまり、現実とは違う世界の中で彼と恋仲になっています。
彼女の夢はそのような形で叶ったのでした。
黒マントの男性は、彼女の身にそのようなことが起きているとはつゆ知らず、彼女が回復しないのは自分が失敗したからだと思い込み、自分を責めていました。
(つづく)