マフィアの重大な事件の目撃者を守る、証人保護プログラムを題材にした社会派のテーマを持った作品だ。マフィアの「血の掟」により、命を狙われる可能性の高い証人は、裁判で証言するまで、場合によっては、生涯に渡り、戸籍を抹消され、政府が用意した見知らぬ土地の住居で、用意された新たな戸籍の別人として暮らす事を強いられる。その代償の大きさと危うさを描く。
意外にも、保護される側の苦悩に触れている作品は少なかった。
この作品では、マフィアの殺人を目撃してしまった事から、証人保護プログラムの「恩恵」を受け、住み慣れた街を離れ、友人と連絡を取る事さえ許されず、見知らぬ土地で暮らす事を強制される。危険が及ばぬように、知人、友人たちに理由も告げずに失踪する事となる。
そして、マフィアのボスを『フルメタル・ジャケット』で強烈な存在感を見せた「微笑みデブ」ことヴィンセント・ドノフリオが、文字通りの怪演を魅せる。監督が熱望したと言う彼の演技は素晴らしく、本当に恐ろしい。
故フィリップ・シーモア・ホフマンのそれを彷彿とさせるが、彼よりもデンジャラスな雰囲気を持っている。この4人の素晴らしいアンサンブルがこの映画の魅力である。この新人監督が描くサスペンスは、実に魅力的である。そして、主人公がある重大な決断をした事から、意外な展開になる「そっち行くの?」感も楽しめる。こういう展開には、「コレジャナイ感」を感じ、失望する者もいるだろうが、こういう予想を裏切る展開は、オイラにとっては大好物で、大きな評価ポイントだ。
だが、それを差し引いても、この作品は秀作である。少なくとも、同時期公開されたトム・クルーズ主演作も同様に歴の浅い監督で、脚本家出身のクリストファー・マッカリー監督作『アウトロー』よりは、かなり良い出来だった。緊張感の出し方や俳優の使い方はどれも凌駕していた。今後の彼の作品には、注目して行きたいと思う。あれば、の、話だが…。