昨日は、娘の遠足だった。
島の周遊コース(3キロくらい?)を周るのだと言う。ほとんど山道を歩く遠足ー。
3年前、故郷に帰ってきて間もない冬、母が行方不明になった。
いなくなったのは朝の10時ごろ。
2時間も帰ってこないなんて・・・絶対におかしい。
家族総出で探した。
町にはいない。誰も見ていない。
「山に入ったのか?」
「海に落ちたのではないか」
色んな想像が打撃となって立っていられなかった。
父と、娘と一緒に山を歩きに歩き、探しに探した。
「なんてことだろう!どうして目を離したんだろう・・・!」
午後1時を回り、冷たい雨が降り始めた。
消防隊の海底捜索が始まろうとしていた。
「もう会えないんだろうか・・・・・・・・。
私、最後にお母さんに見せた表情はどんなだっただろう・・・?」
歩いていても宙に浮いているみたい。
昨日むかついた事が、なんてちっぽけな事だったのか。
昨日恐れていた事が、ちっとも怖くない。
4人でご飯を食べられる事がどれほどの幸福だったのか・・・。
お母さん・・・!
しかし娘がふと言った。
「おばあちゃん、生きてるよ。寂しがってるのが解る。
あきらめないで探そうね、ママ。」
その時・・・
あるおじさんが家に駆け込んできた。
「南風子ちゃん!わしは山のふもとの公園でおっしょさんを見た。
その時、ちょうど腹が減って時計を見たんだ。
そしたら12時だった。だから、海に落ちているはずなんてない。落ちるもんか。
そして、ひざが悪いから遠くへ行っている筈もない。きっと半径1キロ以内だ。」
ピンポイントでの捜索が始まり、何と・・・すぐに見つかった。
その時間に、その公園に人がいることはめったにないのに、たまたま草引きをしてくれていたおじさん。
絞り込んでの捜索がなければ、雨の氷点下の日だけに、夜になると生存は難しかったという。
一生懸命島に尽くしてきた母を、ささやかな形で島が守ってくれた・・・そんな気がしてならなかった。
そして、チャンスが与えられたのは家族だ。
認知症の母をどこまで愛していけるか、そんな母だからこそ幸福を感じさせてくれると
気づかなければならないときが来ていた。
後で聞くと、母は、何と孫が心配で出かけたと言う。
やっぱり愛だったんだね。
昨日、娘は、おばあちゃんを探して叫んで歩いた道を、どんな気持ちで歩いたんだろう?
「お弁当全部食べたよ!」と走って帰ってきた娘は、本当にたくましい島っ子になったな・・・!と感じた。