第22話 野外劇場 | 虹のふもとに眠る宝は何だと思う?

虹のふもとに眠る宝は何だと思う?

小説家デビューを目指し地道に執筆活動を続けるyuuma(立花 佑)の日記です。2017年からWebライター始めました&杉山貢大農園のお茶ネット販売&ハーブ畑作り&アルファポリスにて小説掲載中〜!

「お取り込み中申し訳ありません」
 三人の兵士が一人の少年を拘束しながら、野外劇場の中庭にやってきた。
 装飾が施されたタイル広場の中央には、円形の噴水が風になびいて激しい水飛沫を立てていた。
 灯篭の回りに集まる諸侯達は突然の訪問者に、やむ終えず会議を中断させた。


「この者が劇場に侵入していたところを捕らえました、彼の持ち物の中にこれが」
 兵士が差し出して来たのは一枚のカードだった。

「シルバーム兵の身分証、傭兵か。偵察にでも来たのだろう、そいつの面を見せろ」
 諸侯の一人が連れてくるよう指示すると、拘束された少年は抵抗することもなく大人しく明かりの下に姿を現した。


「ヴレイ……?」
 諸侯の陰に隠れていたロインとルピナが少年の正体を見て声をそろえた。

「彼は見方です、拘束を解いてくれませんか」
 ロインの要求なら仕方がないといった面持ちで諸侯達はヴレイの拘束を解くが、用件があるならここで話すよう命令した。


 自由になったヴレイは改めて身分を明かし、自分には敵意がないことを説明した。
「掴まらない限り君達に会えそうになかったからな」
 憮然な笑みを見せてから、ヴレイは剣呑な表情へと変化させた。

「シルバーム城内で軍艦を見つけた。城を崩すには持ってこいの主砲だ、王軍の他に傭兵部隊がいる、軍勢の数はおそらく向こうの方が多いだろう。どこまでお前達の援護が出来るかわからないけど、あいつに従うつもりはない」

 ロインの肩を叩いて毅然とヴレイは頷いた。

「その話本当だろうな、お前が王軍に内通していない保証はあのか」
 訝しげにヴレイを威嚇する諸侯はロインとルピナの前に立ち塞がった。
「心配はない、軍艦の場所を教える、潜入ルートは確認済みだ、信用できないなら俺を拘束しろ」

 戦に関して素人とは思えない精悍な相貌に対して、諸侯は反論できなかった。


「ここで少し俺からの要望を言わせてもらうと、民間人を巻き込むな、一部の兵は街へ回して民間人の護衛に当たらせろ、戦力が減ってもだ。それとノイゼストは怪しまれている、これ以上派手な行動はやめろ」
「は、はい」
 強引な命令にもかかわらずロインはヴレイの凛然とした指揮を見て素直に返事をした。
 思わず息を呑んだ諸侯達は彼の威厳に圧倒されてしまっていた。

「じゃあ俺はシルバーム城に戻る、他言はしない、君達の健闘を祈るよ」
 諸侯と握手を交わしてから中庭を去ったヴレイは、飛獣を連れて野外劇場の表まで出てきた。 

 正門広場で出発の荷支度を整えていると、ルピナが駆けつけて来た。
「ロインはまだ皆と打ち合わせしているわ。あの、ありがとう、協力してくれて、私達だけの情報じゃあ先の見えない作戦を立てることになっていたわ」
 
 ルピナの素直さにヴレイは歯がゆさを感じながら、砂金を手の平に盛り飛獣に与えた。
「乗りかかった船だ、無視できないだろ」
 口元に笑みを見せたヴレイは砂金の入った袋を荷物の中にしまい、飛獣にまたがった。

 冷えた夜風が吹いて、しばらく静かな空気が流れた。
「向こうで会える?」
「さあ、お前達を見付けられたら援護するよ、艦に潜入するんだろ」
 決然としたルピナの頷きに、安堵したヴレイは「じゃ、向こうで」と言い残して飛び去っていった。


* * *


 ノイゼストの宿をチェックアウトし、城に戻ってからシリウスの部屋を訪ねたが留守だった。
 夜通し艦を見張っているのかと思ったヴレイは、以前シリウスがまか不思議な力を使い、城内を詮索して見つけ出した、例の場所に行くとやはり彼はいた。


「あれ、連合軍の見張りはどうしました」
「連合軍に俺の知り合いがいた。おそらく夜明けと共にノイゼストを発つだろう、仲間が艦に潜入するから俺はその護衛をする」

「なるほど、私はすっかり連合軍の協力をしていたわけですね」
「すまなかった、共犯みたいなことをさせて、もしシリウスがザイドにこの事を知らせに行っても、それは仕方がないことだ、シリウスは仕事をしただけだからな、それにあんたは俺が敵だと知っても後ろから不意打ちするようなマネはしない」


 真っ直ぐ軍艦を見つめていたヴレイは「ねっ」と賛同を求める視線をシリウスに向けた。
「変わりましたね、私と初めて逢った時は全身に棘が生えたような有様だったのに」
「その時はあんたを信用してなかったからだ」
「そうでしたね」とシリウスは鼻で笑った。

「それよりこのまま様子を見て、動きがあれば潜入だ」
「連合軍が責めてくれば自然にここにも情報がくるでしょう、いざという時は二手に別れましょう、君は外に出たいでしょうから、こっちは私が」


 組んだ奴がこいつで良かったと思い始めてから、やっとこの国の深刻さに気付いたヴレイはセイヴァで初陣を迎え撃った時にも増して緊張していた。これから本当に戦が起きてしまうのだろうか、そんな茫漠なイメージだけが付きまとう。

 連合軍の居場所を詮索したことも、彼らに残した言葉も、今思えば軽率だったのかもしれないと悔やんでしまう。それでも今は自分の任務より、目の前のことに集中しようとヴレイは拳を固く握った。


「シリウス寝てないだろ、時間を決めて交代しよう、寝たほうがいい」
「助かります」
 自分はまだ大丈夫だからと、シリウスを先に寝かせた。
 
 様子を窺い始めて数時間経った頃、ドック内がにわかに騒がしくなり始めた。高見の狭い通路から見下ろしていると、その変化が色濃く分かった。

 吹き抜けになったケージ全体に明かりが点けられ、軍艦の姿が露になった。

「騒がしいですね。夜が明けたんでしょうか」
「連合軍のお目見えか」

「そう考えるのが自然ですね。ルベンスが何か情報をつかみ、軍を動かし始めたのでしょう、行ってください」
「ありがとう、シリウス」

 相方の姿が見えなくなってからシリウスは内壁に据え付けられた梯子を降りた。常勤兵に職務質問されるとシリウスは身分証を提示し、うまいこと話を作って侵入を試みようとしたが、傭兵というだけでかなり警戒されてしまった。


 常勤兵から脱せずにいると、ドック内にけたたましい警報音が響き渡った。
 駆け回る整備員と乗り込む軍人とでドック内は人でごった返した。もはやシリウスを引き止めていた常勤兵もそれどころではなくなって、乗艦許可を下ろしてしまった。

「ありがとうございます」
 シリウスが乗り込んだすぐ後に、艦の正面の壁が真ん中からゆっくり開かれた。緩やかな勾配を作る射出口から地上の空気が流れ込んでくる。

 駆動音をドック中に響かせ軍艦は地上へと上った。




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