税理士の内田麻由子です。弁護士の武内優宏先生との共著『誰も教えてくれなかった「ふつうのお宅」の相続対策ABC』が、セブン&アイ出版より8月30日に発売されます。
これ1冊で、相続に関する法律・税金の基礎知識と、さまざまな「ふつうのお宅」の失敗事例・成功事例が学べる、とってもお得な書籍です。
●「はじめに」より
シニアのみなさまの関心事といえば「3K+3S」ですね。「3K」は「健康・家族(特に孫自慢?)・家計」、そして「3S」は「趣味・仕事・社会貢献(ボランティア)」です。なかでも健康は一番の話題です。「自己紹介 趣味と病気をひとつずつ」という川柳(「シルバー川柳」ポプラ社)もありました。
健康長寿は万人の願いですね。生涯現役でピンピンコロリを望む人も多いのですが、ある医師に聞いた話によると、実際にピンピンコロリで死ねるのは20人に1人だそうです。ご存じのとおり、日本人の平均寿命は男性80歳、女性86歳です。ところが健康寿命は、平均で男性70歳、女性74歳です。つまり、平均寿命から健康寿命を差し引いた「健康ではない期間」が、男性では約10年間、女性では約12年間もあるのです。65歳以上の高齢者のうち、4人に1人が認知症またはその予備軍であると推定されています。
長寿化に伴い、相続も「老老相続」になっています。90代の親から70代の子への相続もめずらしくありません。賢い相続対策をするためには「元気なうちに、早くスタートすること」が大切です。相続対策は、遺言や生前贈与、不動産の売却などの法律行為を伴います。法律行為ですから、認知症が進んで意志能力がなくなってしまうともうできません。認知症にならないまでも、病気になってしまったり、高齢になり体力や理解力が低下すると、相続対策どころではなくなってしまいます。「まだ元気だから相続対策など早い」のではなく、「元気だからこそできるのが相続対策」なのです。
相続対策をするならば、気力と体力のある60代のうちに、遅くとも健康寿命の平均である70代前半にはスタートしたいもの。自分一人の考えで決めてしまわずに、家族でよく話し合うことも大事です。健康に気をつけることはいいことですが、同時に、健康なうちにやっておくべきことについても、本書でご一緒に考えていきましょう。
近年、相続に関心を持つ人が増えています。その要因の1つは、平成27年からの相続税の大増税です。基礎控除額の4割縮小により、東京都内では約5割、東京国税局管内(東京都、神奈川県、千葉県、山梨県)では4割超のご家庭で、相続税の申告が必要になるという試算もあります。首都圏では、自宅のほかに預金が数千万円あれば相続税の申告対象となる可能性が高いと言えます。なお、本文でも触れますが、「相続税の申告が必要となる人」には、「特例を使い税額はゼロだが申告は必要な人」も含まれます。今後はふつうのお宅でも、しっかり相続税に備えることが必要です。
もう1つの要因として、エンディングノートの普及により、相続や遺言への関心が高まっていることが挙げられます。エンディングノートは、自分の考えをまとめたり、家族で話し合うためのツールとして活用するにはいいのですが、法的な効力はありません。また、自己流で作った遺言が法的に無効だったり、中途半端な遺言を遺したためにかえって争続になってしまうこともあります。「うちには大した財産もないから……」と思われるかもしれませんが、大した財産がない方がもめるのです。ふつうのお宅でも、いやふつうのお宅だからこそ、相続や遺言についての知識は必要といえます。
本書は3部構成になっています。
まず序章において、相続・遺言の法律と相続税・贈与税についての基本的な知識を、相続の専門家である弁護士と税理士が、やさしくわかりやすく解説しています。
次に、実践ケース編では、仲が良かったはずの兄弟なのにもめてしまった事例や、自己流の遺言が相続紛争の火種になってしまった事例、遺言があったのに相続税のことを考慮していなかった事例、生前贈与を上手に活用したり一次相続の分け方を工夫することで相続税を軽減できる事例など、ふつうのお宅で起こりうる、身近な相続の失敗事例・成功事例を数多く取り上げるとともに、相続対策のポイントについても解説しています。
最後に、終章では、円満な相続のために大切なことについてお伝えしています。相続には「財産の相続」と「心の相続(想続)」があります。子や孫の幸せを願い、伝え遺したい想いは何でしょうか。本章をヒントに、ぜひ考えてみましょう。
相続について知っておきたい大切なことがぎゅっとつまった本書が、読者のみなさまの円満な相続の一助になりましたら望外の喜びです。
平成26年8月
税理士 内田麻由子