「八月や 六日九日十五日」――終戦から69年目の夏を迎えました。広島の原爆死没者慰霊碑には、「安らかに眠って下さい 過ちは繰返しませぬから」と刻まれています。戦争で亡くなった方々のご冥福をお祈りするとともに、平和を誓いましょう。

●最も大切な遺産は「平和」

相続のお仕事をしていて思うことがあります。それは、「私たちが子や孫に遺すべき一番大切な遺産は“平和”である」ということです。平和な社会を子や孫の世代に引き継ぐことが、先に死んでいく私たちの責務であり、最も大切な相続ではないでしょうか。子や孫の幸せを願うならば、日本を戦争のできる国にしてはなりません。

主婦の加藤照子さん(87歳)は、子や孫が集まった米寿祝いの席で、子どもたちへ「米寿を記念して」と題する手紙を渡しました。その一部を紹介します。

私が小学生のころ、出征兵士を日の丸の小旗を振って見送りました。その兵士が英霊となって白木の箱で帰還された時も、日の丸の小旗を振って迎えました。戦場で死ぬ時は『天皇陛下、万歳』と叫び、靖国神社に祀られることが栄誉と教育されました。国民は食べるものも着るものもなくて空襲の焼け跡に芋を植え、茎も葉も食べて飢えをしのぎました。
いま、戦争を知らない人がこの国の舵をとり、再び戦争のできる国に変えようとしています。どんなきれいごとを言っても戦争は殺し合いです。このままではあなたがたの時代に再び戦争になるかと思えば居ても立ってもいられません。怖くてなりません。(2014年6月30日 朝日新聞投書欄より)


ご自身の戦争体験から、子や孫のために平和を希求する照子さんの願いがひしひしと伝わってきます。戦後69年が経ち、戦争を経験した人が少なくなっています。高齢者の方は、ぜひとも平和の大切さを子や孫に伝えましょう。そして、子や孫へ平和を引き継ぐ「選択」をしていきましょう。

●相続と平和

ほとんどの専門家が「争続にならないように遺言をつくりましょう」と言いますが、それは違います。確かに遺言はあったほうがいいのですが、遺言さえあれば争続にならないというわけではありません。遺言があってもなくても、もめる家族はもめますし、円満な家族は円満なのです。

円満な相続のために大切なことは、次の2つです。

第1に、自分の心を常に平安に保つことです。普段から人を批判したり、人と争うことばかりしていると、相続で兄弟と争うことにもためらいがありません。普段から心を平安にし、温和で謙虚な人は、相続のときにも親に感謝して、兄弟と譲り合い仲良くわけ合うことができます。人は急には変われないのです。

第2に、家族が常日ごろから互いにわかち合い、助け合い、円満な関係を築くことです。「共に喜ぶのは二倍の喜び、共に苦しむのは半分の苦しみ」――嬉しいことも悲しいことも共有できるのが、本当の家族ではないでしょうか。家族の関係も急には変われません。

まずは自分の心の平安があって、家族の平安があり、円満な相続になるのです。家族の平和があって、社会の平和があり、世界の平和があるのです。家族や親族とさえ仲良くできずに、どうして他人や他国の人と仲良くできるでしょうか。

戦争のない平和な世界、差別や偏見のない温かい社会をつくるには、まず自分のまわりから平和にしていくことです。暗いと不平を言うよりも、進んで明かりをつけましょう。

●空はつながっている

今年(2014年)6月23日の沖縄戦没者追悼式で、石垣市立真喜良小学校3年の増田健琉(たける)くんが読んだ平和の詩「空はつながっている」の一節です。

どうしたら せんそうのない どこまでも続く青い空になれるのかな
せんそうは国と国のけんか
ぼくがお兄ちゃんと仲良くして 友だちみんなともきょう力して
お父さんとお母さんの言う事をきいて 先生の教えをしっかりまもる
そうしたら せんそうがなくなるのかな
えがおとえがおが 遠くの空までつながるのかな
やさしい気もちが 平和の心が 丸い地球を ぐるっと一周できるかな
・・・(中略)・・・
きっと せかいは手をつなぎ合える 青い空の下で話し合える
えがおとえがおでわかり合える 思いやりの心でつうじ合える
分け合う心でいたわり合える 平和をねがう心で地球はうるおえる


つながっている遠い空の下に暮らす仲間の平和を願い、まずは自分のまわりから平和を創っていこうという、健琉くんの優しい気持ちに胸を打たれます。

私たちも、子や孫のお手本となるような平和な生き方をしたいものです。そして子や孫へ平和な社会を相続できるよう、自分にできることをしていきましょう。

 一般社団法人日本想続協会
   代表・税理士 内田麻由子