数日後。
新学期が始まって、初めての授業の日。
一時間目の授業は美術だった。


「今日は第一回目の授業ってことでみんなには隣の人と向き合ってお互いの似顔絵を書いてもらおうかな??」

その体格に似合わない美術の先生である野呂の一言で授業は始まった。


"初めての授業だから似顔絵って・・・小学生かよ・・。"


悠は以外と美術は得意だったが人の顔を書いたりするのは苦手だった。
苦手というか恥ずかしかった。

"やべー、名前がわかんねぇ。"

しかも、今隣に座っている女の子は今まで話したこともなく、名前すらしらない子だった。

名前を知らないのは悠が悪いのだが・・・。


HRで自己紹介があったのだが、眠気にまんまとKO負けをした悠は一人の自己紹介も聞いていなかったのだ。
さらに、美術の授業は移動教室ということもあり、いつもと隣の席に座っている人が違う。


そんなことを考えている悠と正反対にその子は淡々と似顔絵を完成させていく。


この時間。
悠は淡々と似顔絵を書いているその子をぼーっと眺めていて、ほとんど鉛筆を動かすことはなかった。
あいつ俺のことどう思ってんのかなぁ~・・・。

怒ってるよな~・・・。


そんなことを考えながら教室に入るといきなりその"あいつ"と目が合ってしまった。




少しの間の後・・。

何かを言いかけた剛は悠があいさつをする前にぷいっと前を向いてしまった。


だよなぁ~。
一応予想してた通りだけど実際きついな~。


そんなとき、秋元が教室に入ってきた。

それから、新学期に入ってからの心得みたいなことを言っていたみたいだけど、何一つ耳に入って来なかった。




「ねぇ!」

「なんだ、みなみか・・・。
どうした?」

「同じクラスの女の子にその反応?」

「へぇ、同じクラスだったんだ。」

クラスの名簿に剛の名前を見つけてから、ぼ~っとしていたので同じクラスのほかの人の名前なんて確認する余裕なんて悠にはなかった。


「それよりさぁ、剛と話せた??」


「無理だった・・・。
思ってた通りの反応だったよ・・・。」

「そっかぁ。」


「みなみさ~ん。
そんな暗い顔すんなって、もうちょいで腕も治ると思うし!!
それに、みなみの暗い顔はなんか気持ちわりーしな!!」




「なんだよそれー!!
せっかく人が心配してんのにー!!」


そんな帰り道。
悠の気持ちは少し楽になっていた。
医者にまだバスケが出来るかもしれないと言われた翌日。



病室には担任である秋元とみなみがいた。

「・・・なので、他のバスケ部のみんなには言わないでここにいる先生と高橋さんと僕だけが知っている秘密にしてほしいんです。」


悠はインターハイの予選をひかえているみんなには変な心配をかけたくないからと秋元に伝えた。


「わかった。
だが、お前が入院している間のことはどう説明するつもりでいるんだ??」

「そこは・・・・・・・つまらなくなった日常を抜け出すために一人で旅出たってことにします。」
悠はにやけながらそう言った。

「なっ・・・。」

「みんなのためにも先生には俺のことはそう伝えてもらいたいんです。」



「・・・・・わかった。」
続けて言った悠の表情が先程と違って真剣なので秋元はそう返事をすることしかできなかった。







その翌日、秋元は部室に集めた部員たちにこう伝えた。
「佐藤悠はつまらない日常を抜け出したくなったらしく一人で旅にでたと佐藤の両親から連絡があった。」


驚きのあまり部員達が絶句してる中・・・
一人。声を上げる者がいた。
「先生!
一人旅って・・・。
それは本当ですか!?」
吉垣剛だ。


「あぁ、本当だ・・・。」

「なにか理由があるんじゃないんですか?」




小さい頃からずっと一緒にインターハイを夢みてきた剛にとって親友である悠が予選を前に旅に出るなんて考えられなかったのだ。




だが、何の反応も示さずに黙っている秋元から剛は何かを悟ったのか剛は静かに部室を出て行った。







「どうしたんだよ・・・・。悠。」
つぶやいた。