令和という新たな時代を迎えた今だからこそ、
平成に起きたエピソードを書き残したい。
思い起こせば、僕にとって「平成は波乱のはじまり」だった!
「平成は波乱のはじまり!」エピソード5
1989年(平成元年)11月、落ち葉が路面を覆いつくし、
下北沢の街も秋めいてきていた。
小田急線の改札を抜け、南口には駅前劇場や本多劇場があり、
演劇の街として、多くの業界人が住んでいた。
御多分に漏れず、僕も業界人になった時からこの街に
住み始めた。
そしてついに例のスタイリストとの再会の時がやってきた。
彼女と約束の時間は、6時だった。
早めに仕事を切り上げ、南口のドトール前で待つことにした。
電車が到着するたび、人がドッと階段を降りてくる。
その度に、目をやり、時計を見る。
「本当に来るだろうか?来なかったらどうしよう」内心ひやひやだった。
また電車が到着し、人の流れがやってきた。
再びじっと目を凝らし見入る。
サラリーマン、OL、業界人風、いろんな人たちが降りてくる。
その中に、彼女が・・・「いたっ!」
スエードの帽子に、スエードのハーフコートを着ていて
さすがスタイリストといったスタイルだった。
自分の格好はというと汚いジーパンに、ダサいジャンパー。
「本当に来てくれたんだね」思わず僕は言った。
彼女は少し微笑んだ。
出会ってから1ヶ月半が経過していた。
「じゃあ行こうか」と僕らはあてもなく下北の街を歩き始めた。
南口の商店街、角にマックがあり、その先には小池栄子の実家のパチンコ屋。
なんだかいつもの風景と違って見えた。
何度か行ったことのある居酒屋を見つけ、そこに入った。
まずは再会を祝して乾杯した。
この1ヵ月半に起きた他愛もない話をした。
特に、大月で起きた大事件は、かなりウケてくれた。
とにかく僕らは最初からすべての話が弾んだ。
改めて今まで出会ったどの女性とも彼女は違う感性を持っていた。
楽しい話もいいが、今日は彼女に告白すると決めていた。
でも中々言い出せない。
2時間ほど居酒屋にいて違う店に行くことにした。
本多劇場がある東通りを歩き始めた。
通りの真ん中あたりにあるキネマ倶楽部という映画学校の先輩がオーナーの店があり、
そこに入ることにした。
店内には古い映画や最近の映画のポスターが貼られ、映画ファン常連の店だった。
再び乾杯した。ふと壁に貼られた「ベルリン 天使の詩」という映画のポスターが目に留まった。
「最近観た映画の中では、最高傑作だね」と僕が言うと、彼女も観ていた。
何百年も生き続けている天使は、人間たちの喜びや悲しみといった心の叫びを聞くことができる。
しかし天使は人間たちに助けの手を差し伸べることはできない。
そんなある日、天使は人間の女性に恋をする。しかし恋を成就するには人間にならなければならない。
天使は本当の恋を手に入れるため人間になり、その女性とゴールインする。
観終わった瞬間、館内から拍手が起き、感動に包まれた。
「俺もいつかこんな映画を撮りたい」と言うと、彼女はにっこり笑って言った。
「いつか撮れるんじゃない」
僕は猛烈に嬉しくなって、畳みかけるように言った。
「そのためには、君の力が必要。あらためて言うけど心の底から好き」
「・・・」
「付き合ってほしい」
「・・・」
少し沈黙があって、「いいよ」と彼女は言った。
「本当に?」と言うと彼女は小さく頷いた。
「じゃあもう一軒行こう」と店を出た。
酔っていて夜風が気持ちいい。
少し風が冷たくなっていた。
東通りを抜けると茶沢通りと交差していて、小田急線の踏切がある。
この先には、僕のアパートがあるが、風呂もトイレもないようなところに彼女を
連れていくわけにはいかない。
僕はタクシーを拾おうとした。
「どこに行くの?」と彼女が言った。
「タクシー全然つかまんない」
バブル絶頂期の週末ともなると、平気で2時間待ちなんてザラだ。
映画「バブルへGO!!タイムマシンはドラム式」(2007年公開)では、
劇団ひとりがタクシーに1万円札をチラつかせ、止めるシーンがある。
実際のところ、本当にそんなことやってる人見たことない。
しかし、マジでそんなことでもやりたい心境だった!
行先は、渋谷の円山町あたり。
「ここで決めなきゃどうする、俺?」
武田鉄矢ならタクシーの前に飛び出して、
「僕は死にましぇ~ん」なんて言うんだろうなぁ~。
そんなことどうでもいい、いまはただ、
「お願い!タクシー止まってぇ~」
時計の針は、午前1時を回ろうとしていた。
「マジでどうする?俺・・・」
to be continue episode6.