平成元年(1989年)、世はバブル絶頂期!
日本は誰もが経験したことのない好景気に湧いていた。
そんな中、僕は映画やドラマの制作進行をやっていた。
映画が制作中止となり、山梨県の大月から電車に乗って
東京へとんぼ返りしていた。
実をいうと内心嬉しくて、ひとり電車の中でニヤニヤしていた。
先日、映画の打ち上げで出会ったスタイリストと二人きりで
食事に行きたいと思っていた。大月に2週間近くいたら彼女と会うどころじゃない。
制作中止のお陰で、彼女とデートのチャンスができた。
その頃の僕ら駆け出し業界人にとって、スタイリストという存在は、
羨望の的であり、誰もが憧れを抱く存在だった。
実は映画の打ち上げの時、彼女とトークで大盛り上がりしていた。
酒に酔った僕は不覚にも店のカウンターで
寝てしまったっていた。
ハッとなり起き上がると、横の席に例のスタイリストが座っていた。
「大丈夫?」とさりなげく水を注いでくれた。
僕は一気に飲み干し、軽く礼を言った。
お互い自己紹介して再び酒を飲み始めた。
何気なく出身を聞くと、福岡だった。
妙なもんで、東京で同じ九州出身者と会うと異常に親近感がわく。
どこか一歩彼女と近づいた気がした。
彼女はスタイリストとして、CMや映画の仕事もこなしていた。
自分もそこそこ映画を観ていたつもりだったが、彼女も相当なもんだった。
絶対観ていないような映画にもすべて打ち返してきた。
ただ映画が好きなガリ勉タイプではなく、スタイリストならではのファッションにも長けていて、
すべての会話が楽しい。
気が付けばあっという間に2時間が経過していた。
上京してから4年、これほど無邪気に、そして素直に話せた女性は初めてだった。
一瞬にして僕の心を鷲掴みにしていった。
なんだろうはっきりとはわからないが、間違いなく運命的なものを感じた。
別れ際タクシーに乗る彼女に、電話番号を教えてといって名刺をもらった。
名刺を見ながら、「これはただの恋で終わらない」そんな予感がした。
11月、松田優作の突然の死が報じられている中、僕は彼女に電話した。
呼び出し音が鳴り、ガチャリと彼女の声が聞こえた。
「もしもし」
「あっ俺、覚えてる?」
「ああ・・・」
夜中ということもあり、少しこの間と雰囲気が違った感じがした。
僕は単刀直入に食事に誘った。
「いますごく忙しいから、来週末だったら大丈夫かな」
「じゃあ来週金曜日、下北沢駅前のドトール前に6時」
「OK」
彼女は快諾してくれた。
携帯電話もメールもない時代、約束は時間と場所をはっきり決めておかないと
いけなかった。
僕は静かに受話器を置いた。
「やった!やった!やった!」思わず叫んだ。
窓の外には小田急線の最終電車が通り過ぎて行った。
静かになったベッドの上で眠りに就いた。
24歳、淡い恋の始まりだった・・・
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