チセは走るのをとにかく嫌っていた。
中学の間に[走り方]を教えてあげたかったのだけど、なかなかゴニョゴニョと予定も合わず…。
陸上というのはまず
「走るだけで何が面白いねん?」
と言われるのが常だった。
[走る]事は全てのスポーツの基本だ。
全てのスポーツの基本だから[生きる基本]でもあると
小学校6年の時にアボジに言われて僕は陸上競技を始めた。
僕は陸上のセンスがなくて、結局は記録も伸びずに他の運動部にも負け続けてた。
そんな僕が言うのもおかしいけど
走るには技術が要る。
走る技術を覚えれば、やはり記録は伸びる。
走りを嫌うチセの走り方を見た時に
「部活で走り方を誰も教えないのか??」
と、ちょっと愕然となった。
それでも決して遅くはなく、そこそこは走るのだけれど
走り方を覚えれば、彼女が負担に感じるほどの疲れはないし、記録も伸びれば走るのが好きになって
身体も軽くなって、それは演技にもプラスになるんだと信じていた。
演劇部員たちが青春真っ只中の体重を気にしだしたので、
よし!これを機に!
と走る事を提案した。
走りを嫌うチセも乗ってきたので、走り方の時間を取り入れた。
朝鮮舞踊部員というのは陸上をする者が手に入れたいフォームを、全員ではないが、持っている。
肩の力が抜けていて、姿勢が良くて、ロシアバレエのスプリングを持っていて、爪先の蹴力がある。
ソエもリファも短・長の違いあるけど、やはり姿勢は良くてある程度走れる。
ところがチセの力の入れ方、分散のしかたは、言うなれば…
「スズメの涙の日当を、もらえばもらった分だけ使い切って、貯蓄はゼロで、借金をしているのに、日々そこそこ生きている」
ような走り方だった。
だから
力の無駄遣いを辞めて、力を内に貯蓄して、力が分散しないように教えた。
2日間の時間の中で
今日の最後に走ってみると。
わぁ!
まだまだだけど、グンっとフォームが良くなった!!
バスケを辞めて随分なるので、記録は落ちているかも知れない。
でも
何か[走る]手応えは彼女も感じたようで
「走るって楽しいな!」
と笑顔で言った。
今日が長続きするか、いっときの熱なのか
それはわからない。
でも
楽しいんだよ!
しんどいけど!
楽しいんだよ!
演じる事も、書く事も、創る事も
しんどいけどな!
ホントにホントにしんどいけどな!
でも
楽しいんだよ!
君らの楽しい顔がこれまた
楽しいんだよ!
金哲義