元気で2012/9/15 | May1993-2022アーカイブ

May1993-2022アーカイブ

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通勤時。
ラッシュのピークが少し下がりかけてる時間。
まぁ、ラッシュといっても田舎のラッシュは主要駅に着くまではほとんどの乗客が座れるくらいの混み具合だけど。
ホームで毎朝必ず見かける老夫婦がいた。
共に八十くらいの年齢。
二人は仲良く手をつないで改札をくぐるんだけど、お爺さんがいつもお婆さんの半歩前を歩いて、お婆さんの手をしっかりとつないで先導してあげている。
夫婦といっても僕は話しかけた事がないのでもしかしたら身体の弱い姉かな?と思ったりもしたけど、口数少なくとも会話の口調や内容からはやはり夫婦だと思う。
お爺さんは、自分も歩くのがしんどそうなのに、それでもお婆さんの様子を見ながら歩く。
共に足が悪いのか…例えるならばゆっくり、ゆっくりと歩くペンギンのように、少し身体を左右に揺らしながらホームに向かう。
二人には軽いスロープも一仕事だ。
ベンチに座っている間も手をつないで、毎日必ず決まった時間に二人は電車に乗ってでかけていく。
何処へ行くのかな。
僕は勤務先に向かうには途中下車して別の線に乗り換えるので、二人が何処まで向かうのかは知らない。

二年ほど毎日同じ光景を見てきたけど、仕事の都合によってアボジと早朝に車で向かったり、少し遅めに出勤したりのバラバラな日が続いて、毎日の一定したペースは変わってきた。
で、しばらく老夫婦との電車に乗らなくなった。

一年ほどしてまたあの時間の電車に乗るようになった時。
ホームに行くとお爺さんしか座っていない。
お婆さんは風邪でもひいたのかな?と思ったけど、それからお婆さんの姿を見る事はなくなった。
入院したのか、寝込んでしまったのか、あるいは事情が変わって毎日向かってた場所に行かなくなったのか、足が弱って行けなくなったのか、鬼籍に入られたのか定かではない。

三年ほど経つけども、今でもお爺さんは毎朝同じ時間に一人でホームに座っている。
話す相手はなく、電車が来るまでじっと一点を見つめている。

先日、昼過ぎに帰る用事があって職場から家に向かう電車に乗った。
下車駅で降りると、お爺さんの帰宅時間と偶然同じだった。
近鉄百貨店の紙袋を持っている。
毎日阿倍野橋まで行ってはったのだな。
軽いスロープを降りるのも一仕事だし、小さな紙袋も一日の大荷物だ。
改札をくぐる時に駅員が話しかけて、お爺さんは軽く談笑する。
そして僕とは反対方向に帰っていく。

これからも元気でいて下さい。

金哲義