【能登半島地震】ライフラインの復旧状況と課題 | LaboFB・永山政広の防災ブログ

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能登半島地震発生から10日が経過し、人命救助と並行して途絶したライフラインの復旧作業が懸命に行われています。
しかし、厳しい状況と報道されているものの、どのように推移しているのかがよく分かりません。
そこで、各省庁が毎日発表しているデータ等を集計し、グラフ化してみました。

 

1.水道の状況

断水状況の数値発表が始まるのは1月3日からでした。それまでは各自治体が「調査中」の状態になっており、被害把握に苦慮している状況が伺えます。

断水は徐々に改善され、断水率は15%を切るようになってきました。しかし、これは石川県内の平均値を示しているので、実態を正確に表しているとは言えません。
そこで、1月11日現在の自治体別断水率を算出してみたのが次の図です。

注:「断水約1万戸」という輪島市の公表値と平時の給水戸数11,657戸を用いて、断水率85.8%と算出したのですが、今後、断水戸数を精査すると、これよりも数値が上がる可能性があります。

これを見ると、震源に近い北部の自治体が軒並み100%近い断水率であることが分かります。
震源から遠い県南部の加賀市、白山市、小松市等は断水が発生せず、また金沢市も一時500戸ほどに断水があったものの、20戸くらいに改善されています。これらの比較的被害が少ない地域に人口が集中しているため、石川県全体の平均断水率が低く表れているものと考えられます。

 

断水の原因は、水道管の損傷が一般に知られていますが、大規模な地震になると取水・浄水・配水の主要施設に被害が及んで、壊滅的な状態になってしまいます。断水率の高い自治体は、そうした事態が発生しているのかもしれません。
また、地震の揺れの周期が長いと配水施設の水槽が揺すられ、底部に溜まった沈殿物が舞い上がり、水質が悪化してしまうことがあります。施設自体に損傷がなくても送水を停止せざるを得ない事態も考えられるのです。

 

2.電力の状況

停電の復旧状況を表したものが次のグラフです。

断水より復旧は早いものの、1月11日現在で1万3千以上が停電状態となっています。
北陸電力のプレスリリースによると、停電地域は、珠洲市、輪島市、能登町、穴水町、七尾市、志賀町とのことで、断水率の高い自治体と同一です。
北陸電力によれば、送配電設備に次のような被害が生じているようです。

  • 送電設備 ……一部送電線路にて碍子割れ、素線切れを確認

  • 変電設備……一部変電所にて変圧器、開閉装置、ブッシング、避雷器、計器用変圧器の破損を確認

  • 配電設備 ……電柱傾斜:約1,150本、電柱折損:約300本、断線・混線:約750箇所

3.携帯電話網の状況

携帯電話網のトラブルも長期化しているようです。
不通になる原因としては、次のようなものが考えられます。

  • 基地局が揺れにより損壊

  • 基地局が停電により機能停止

  • 基地局への固定回線が断線

これらが単独で若しくは複合して発生すると基地局の送受信機能を失い、停波状態になってしまいます。次のグラフは各社基地局の停波数の推移をプロットしたものです。

徐々に改善されているものの、前述の水道や電力と同じく、飛躍的な進展は見られません。
また、トラブルの発生区域は、次の図のように震源に近い県北部に集中しています。

 

停波の原因として考えられる3つの要素のうち、最も影響を与えるのは停電ではないでしょうか。
次のグラフは、各社の停波数合計と停電の状況を重ね合わせたものです。

停波と停電は同じような勾配で推移していますので、相関関係は極めて高いと言えるでしょう。
また、1月1日よりも2日の方が停波数が増えていることに着目してください。停電状況にそれほど変化がないのに、このような傾向を示すのはどうしてでしょうか?
それは、停電とともに基地局に備えられているバッテリーや非常用発電機が作動して、しばらくは機能を維持するものの、やがてバッテリーや燃料が底をつき機能停止するからです。
このことからも、携帯電話網が電力に強く依存している実情が垣間見えるでしょう。

 

携帯各社では、基地局の機能回復を図るだけでなく、陸上移動基地局や船上基地局を配置し、機能を失った基地局のカバーに努めています。

 

4.過去の地震との比較

次の2つのグラフは、熊本地震(2016年4月14日)と北海道胆振東部地震(2018年9月6日)における停電状況と携帯基地局停波状況をプロットしたものです。

今回の地震と同様、停電と停波は、相関関係を示していますが、かなり早期に回復しているのがお分かりだと思います。
つまり能登半島地震は、これまでの地震に比べて復旧がかなり遅れているということです。
その原因として考えられるのが「もともと数少ない道路が地震により壊滅的な被害を受けたから」ではないでしょうか。

 

次の図は国土交通省が公表している道路の復旧状況です。

県北部地域は寸断箇所も多く、また、通行可能道路でも段差や亀裂等が発生しているため、片側交互通行だったり徐行を強いられたりして、十分な輸送量を担える状態とは言えません。
ライフラインの復旧には、応援部隊の派遣や資機材の搬送が欠かせません。道路網が麻痺してしまうと復旧に支障を与えてしまうことが図らずも証明されてしまったのではないでしょうか。

5.これからの課題

現代社会は通信ネットワークが発達し、遠距離でも間近に思えてしまうことがあります。しかし、それは技術がもたらす錯覚ではないでしょうか。
同じことが物流にも言えます。商品が早く確実に届きます。まるで近所の店で買うように……。それも物流ネットワークの恩恵がもたらす錯覚でしょう。
こうした便利さは、一つの強い揺れで簡単に壊滅してしまうこともあるでしょう。そのときになって初めて、私たちは広大な空間が存在していたことに気づくのです。

 

リモート技術が発達した現代において、すべてがリモート処理できるような錯覚に陥るかもしれません。しかし、現実には、その場に人間が赴いていかねばならないことが多数存在するのです。その最たるものが災害復旧でしょう。
 

今回の地震がもたらした道路網への打撃は、災害復旧の最大の壁となってしまいました。

能登半島の道路地図を目に焼き付けた後、我が国の各所に目を向けてみましょう。同じような道路事情のところが多数存在するのではないでしょうか。あるいはもっと厳しいところがあるかもしれません。
 

「もし自分の街で同じようなことが起きたら……」という発想で、現実を見つめ直す必要があると思います。
これまでの防災計画を根本的に練り直すことだって求められるでしょう。

また、発想を変えて、陸路だけに頼らず、新しい手段を開拓しておく必要もあると思います。
例えば――

  • 空路……空港が使用できなくても空輸できる手段(ヘリコプター、ドローン、飛行船など)

  • 海路……港湾施設が使用できなくても上陸できる手段(ホバークラフト、上陸舟艇など)

こうした代替え手段は一朝一夕に手に入るものではありません。
だからといって思考停止すべきではありません。
皆さんで知恵を出し合って安全な未来を描いていくべきではないでしょうか。
「自分は大丈夫だと思うな」
能登半島の厳しい現実が、そう語っているように思えてならないのです。