既述の通り、俺はこの夏いっぱい入院していた。まあ全然大した病状ではなかったのだが、それでも健康を損ねると酷く不安で心細くなるというもの。俺が日常生活に復帰出来るのは、一体いつになるのだろうか。
しかし俺は周囲に弱音を吐いたり愚痴をこぼしたりは出来なかった。周りの患者は俺より遥かに高齢であったり重篤であったりして、身体の自由が利く俺などは、病棟の中では一番症状が軽い部類であった。何だか知らんが、俺は他の患者の着替えを介助したり歩行を介助したり、挙げ句の果てには悩み相談まで受ける始末だった。
夜、皆が寝静まった病室。俺は頭の中でミスチルの『終わりなき旅』を奏でながら一人泣きはらし、そしてつくづく思ったものだ。
「馬鹿か俺は、一体何をやっているんだ。わざわざボランティア活動をするために俺は入院したのか。けど自分でも気づいてる。俺が皆にしていること、それは本当は俺が誰かにしてほしいことなんだ。けれど俺がここで慰められることはない、励まされることもない。タダで配った優しさは、決してタダでは戻ってこない」
やがて一月の入院を経て、通院治療の許可が下りた。そしていよいよ退院の日。病棟を出ようとする俺に対し、その場にいた患者のほぼ全員が歩み寄ってきて盛大に見送り。それはさながら、ちょっとしたセレモニーであった。
「いや、そういうことじゃないから。俺がほしかった優しさは、何もこんな仰々しい形のものではないし…でもまあ、ここの生活もそう悪くはなかったよ。皆ありがとう」