ある人たちは言う、「人生とはマラソンのようなものだ」。しかしそれは違う。俺が思うに、「人生とは42.195kmハードルのようなものだ」。
人が生きていく上で、待ち構える数多の障害。つまづき挫折し、それを何かのせいにしないとやりきれない時もあろう。俺など人の3倍転んでばかり。
そして思う。「くそっ、何で俺はゲーセンのパンチングマシンが強いんだ」。
さすがに30を過ぎてからはめっきり足が遠ざかっているが、中高時代から俺はゲーセンのパンチングマシンが強かった。
さて、大学浪人1年目の冬。俺は浪人仲間の友人A氏と受験勉強の息抜きに、ささやかながら居酒屋で2人忘年会をしていた。
べろんべろんに酔っ払った居酒屋からの帰り道、そこに見知らぬゲーセン発見。お開きにはまだ少々時間が早い。俺らはゲーセンで遊んでいくことに。
「おっ、あれやってみようぜ」、A氏が指さす先にあったのはパンチングマシンであった。
これは少々困ったことに。その時俺は右手を痛めていたのだ。これ以上悪化したら、最悪右手でペンを持てなくなるかも知れない。それが受験生にとって致命傷になることは言うまでもない。
そうこうしている間にA氏がマシンにパンチ、スコアは95。さすが80kg越えの巨漢にして中高と剣道部でならした体育会系パワーファイターA氏、軽々とハイスコアを出しやがる。
掻き立てれる闘争心、しかし如何せん右手を壊す訳にはいかない。
結局俺は、左手でパンチを打つことに。「左手は初めてか、まあ到底A氏に勝てないだろうがな」。そして俺の左手パンチ、スコアは105。なんと俺は利き腕ならぬ、左手でA氏に勝ってしまったのだ。
そしてその時だ、A氏は俺に悪魔のような言葉を吐きやがった。「まきしま、お前はパンチングマシンが強い。パンチの勝者はお前だ。けれど3カ月後、人生の勝者は俺だ」。
かくして3カ月後、A氏は見事に早稲田大学に合格。一方俺はA氏の予言通り受験全滅、見事に2浪が確定したのであった。
それから時は流れて2浪の果て、俺は何とか日本大学に合格。そして大学1年の冬、俺は、高校の友人たちと5人で居酒屋で忘年会。
たらふく飲み食いした後に、やはり立ち寄ったゲーセン。そして店内の最奥の一角、忌々しき因縁のパンチングマシンがあるではないか。
忘れていたはずのA氏の言葉が甦る。「まきしま、お前はパンチングマシンが強い。パンチの勝者はお前だ。けれど3カ月後、人生の勝者は俺だ」。
都市伝説にすら成り得ぬくだらないジンクス、そんな妄言に振り回されるなんて俺はどうかしている。
結局俺ら5人全員でパンチングマシンを打つことに。パンチのスコア及びその当時におけるそれぞれの社会的立場は以下の通り。
B氏 スコア80 1浪・東大
C氏 スコア93 現役・理科大 三菱東京UFJ内定
D氏 スコア108 1浪・東工大
E氏 スコア113 2浪・早大
まきしま スコア134 2浪・日大
あの悪魔の予言、「まきしま、お前はパンチングマシンが強い。パンチの勝者はお前だ。けれど3カ月後、人生の勝者は俺だ」。それが物の見事に反映されてるじゃねえか。
人が生きていく上で、待ち構える数多の障害。つまづき挫折し、それを何かのせいにしないとやりきれない時もあろう。俺など人の3倍転んでばかり。
そして思う。「くそっ、何で俺はゲーセンのパンチングマシンが強いんだ」。