この拙い日記からではにわかに信じがたいであろうが、こう見えて俺は子供の頃から作文だけは得意であった。もうこの際、「作文マスター」を自称してしまおう。全国クラスの賞には届かなかったが、小学中学と県内市内、大小様々な賞を獲ってきた。
しかし俺の生涯最高の受賞、それは教育委員会や文科省のお偉いさんが開催した公式の作文コンクールなどではない。高校2年の時に挑んだ「校内弁論大会」である。
校内弁論大会。各クラス代表30数人の中から一次選考を通過した6人が、あらかじめ用意した原稿を全校生徒の前で読み上げ、それを聴いた生徒が投票、総得票数で優勝を決める。いわば「作文読み上げコンクール」だ。
体育館のステージに立った時の溢れ出る高揚感、それは今でも忘れられない。張りつめた空気と聴衆の熱視線。そして俺が原稿を読み始める。肌で感じる全校生徒1200人の鼓動、呼吸。そして共感、爆笑、感動、それら全てが俺の一言一句に呼応し、ビリビリと伝わってくる。
結果、俺は2位以下に100票以上の大差をつけて優勝。それは俺の全く知らない所で全く知らない人たちが全く知らずに決めた賞ではない。あの時あの場所で、俺の文章を聴いてくれた皆が俺を選んでくれたのだ。
名もなき新人ミュージシャンが武道館やドーム公演を目指す、その気持ちは何となく分かる。数万人が自分の音楽で一体となる感覚、恐らくそれは最高に熱い。