果たしてどれほどのアメリカ人が、いや我々日本人でさえも、この瞬間を予見し得ただろうか。15日、米マーリンズのイチロー外野手がパドレス戦で2安打。日米通算安打を4257本とし、ピート・ローズの4256安打を抜いて安打数の世界新記録を樹立した。これでイチローは名実ともに世界最高の安打王になると同時に、あの王貞治、長嶋茂雄をも凌ぐ日本球史最高のプレイヤーとなった。
しかし俺は、それが今一つピンと来ないのだ。王貞治、そして長嶋茂雄。1981年生まれの俺は、当然実際にピッチでプレーをする彼らを観たことがない。俺が知っているのは、後世に数多の野球人によって語られた”神格化”された王・長嶋である。そして彼らの現役時代を知らない俺でさえ、いや知らない俺だからこそ、王・長嶋は日本球界における”神”である、そう刷り込まれ疑いなくそれを受け入れた。そんな”神”と呼ばれし存在を、少なくとも彼らよりは身近な存在として幼い頃から観ていた”人間”イチローが並び追い越す。それについて、俺はどうしても認識の補正が追いつかないのである。
イチローが歴史として称えられ”神格化”されるのは10年後か、あるいは20年後だろうか。我々が見ているのはまさにその元年、後々語り継がれるであろう歴史的瞬間である。しかしいざ目の当たりにした時、これほどまでに実感が湧かないものであろうか。歴史の目撃者は、目の前のそれを歴史だとは思わない。