東日本大震災・横浜から埼玉県北に帰る男(その9) | まきしま日記~イルカは空想家~

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ちゃんと自分にお疲れさま。

運転手
「ははは、お客さん、久喜なら8,000円で行っちゃうよ」


そう、貧乏人の俺は、
タクシーなど乗ったことがない。
大宮から久喜までタクシーでいくらかかるか、
そんなこと知る由もなかった。


タクシーに揺られながら、
運ちゃんと延々と話していた。


何を話したかなど覚えていない。
しかし普段、
俺が知らない人に口を開くことなどあり得ない。
泣きたくなるほど心が満身創痍だったのだろう。


久喜駅でタクシーを降りた午後8時半。
家まではチャリで30分。


最後の力を振り絞りチャリを飛ばす。
俺にはある目論みがあった。


「昆布には大量のヨウ素が含まれる!
昆布でヨウ素を摂取すれば、
被爆症状を軽減できる!
それを父、母、妹、祖母、友人たちに伝えるんだ!!」


すがる藁にもなり得ない。
福島がチェルノブイリと化していれば、
もはや手遅れなのは分かりきっていた。


しかしそんな希望とも呼べぬ希望が、
体力的・精神的にとうに限界を越えた俺を、
そしてチャリを漕ぐその足を、
かろうじて支えていた。


請い焦がれた自宅まであと10分!!


(続く)