65歳からの老齢厚生年金に謎の加算が付くのは何なのか。 | 年金アドバイザーが教える!楽しく学ぶ公的年金講座

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知れば知るほど奥深い年金制度!
僕も日々勉強ですが、一人でも多くの方に年金の事を知って欲しいと思います。
年金は…正確に書くように努めてはいますが、少しでも年金の事を知っていただければ幸いであります。
一緒に年金について考えてみませんか?

こんばんは!
年金アドバイザーのhirokiです。
 

今日も引き続き基本テーマに焦点をあてます^^
それにしても、かなり疲れた状態で書いて頭が時々フリーズしました(笑)

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1.過去に厚生年金や共済記録がある人が65歳になると付いてくる謎の加算。
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今日はですね、65歳から老齢厚生年金に加算される経過的加算についてお話ししようと思います。
 
経過的加算は差額加算ともいいます。
 
 
年金を知ろうとする時に、皆さん嫌がる部分でもあります。
 
 
名前からして難しそうですもんね。
 
 
僕も嫌でした^^;
 
 
そんな経過的加算は老齢厚生年金を支給する時は付いて回る加算なので、ここで覚えて欲しいと思います。
 
 
まず、経過的加算(差額加算)とはなんぞ?って話ですよね。
 
 
 
これは昭和60年改正(昭和61年4月1日施行)まで遡るんですが、この60年改正が行われるまでは年金制度って厚生年金、共済年金、国民年金と独立した制度でした。
 
 
 
で、その時の厚生年金の年金の内訳は報酬に比例して年金額が決まる報酬比例部分の年金+加入期間に比例して年金額が決まる定額部分という年金の2階建ての給付でした。
 
 
 
つまり、「厚生年金=報酬比例部分年金+定額部分」という中身になっていました。
 
 
1階部分の定額部分の上に2階部分の報酬比例部分を乗っける形。
これを終身支払う。
 
昭和61年3月31日までに年金受給できるようになった人は今現在もその内訳で支給されてます。
 
 
制度が変化する前日である昭和61年3月31日までに年金を貰えた人はその形で今も年金が支給されている人はそれなりにいます。
こういう人達は旧法の年金受給者といいます。
 
その人たちは国民年金から支給される老齢基礎年金という年金は受給されていません。
 
令和5年現在に老齢の年金だったら97歳以上くらいの人が該当します。
 
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2.昭和61年4月1日から年金の形が変わった。
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さて、昭和61年4月1日(新年金制度)になると何が変わったのか。
 
まず、記事冒頭で言った厚生年金、共済年金、国民年金は昭和61年3月31日(旧年金制度)まではみんな独立した年金制度だったと言いました。
 
それが新年金制度になるとすべての人が国民年金の被保険者になりました。
 
サラリーマンであろうが公務員であろうが、自営業であろうが主婦であろうがどんな立場の人であろうが国民年金の被保険者になりました。
 
そして65歳になったらみんな平等にその国民年金から共通の老齢基礎年金を貰いましょうという事で統一したんです。
 
 
その時に、厚生年金は昭和61年4月1日で1階部分の定額部分は廃止したんです。
なぜかというと、厚生年金の1階部分を支給していた年金(定額部分)から老齢基礎年金がその役目を担う事になったからです。
 
 
つまり、「厚生年金=報酬比例部分年金+定額部分」だったよって言いましたが、昭和61年4月1日以降に新規で年金が貰えるようになった人は「老齢厚生年金(報酬比例部分)+国民年金(老齢基礎年金)」と内訳が変わりました。
 
 
みんなが国民年金に加入し、65歳になったらみんな共通として老齢基礎年金を貰おうという事になったから、現在厚生年金や共済組合に加入してる人も同時に国民年金に加入してるんだって言われるんです。
 
ちなみにサラリーマンや公務員は給与に比例して保険料を納めているので、報酬に比例した年金(老齢厚生年金)を老齢基礎年金の上乗せとして同時に受給する事が出来ます。
 
 
余談ですが、昭和61年4月1日に共済組合も1階部分は共通の基礎年金にするという話に便乗してきて(昭和50年代から官民格差の指摘も強くなってきたし、国鉄共済組合も破綻寸前だったからという理由もある)、共済年金も老齢基礎年金の上に報酬比例部分の年金を支給する形に厚生年金と合わせました。
 
共済組合の年金は厚生年金のように報酬比例年金+定額部分という内訳ではなく、完全に報酬に比例する年金のみでした。
 
昭和61年4月1日以降に新規で年金を貰う人はすべて、「老齢厚生年金(報酬比例部分)+国民年金(老齢基礎年金)」となります。
 
 
これが今の年金の形。
 
 
このように見てみると、従来は定額部分が担っていた部分を老齢基礎年金にバトンタッチしたような形になってますよね。
 
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3.昭和61年4月から年金の形が変わったけど、従来の年金との差が発生した。
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そうすると、昭和61年4月1日以降の年金からは定額部分は消滅して、国民年金の老齢基礎年金が代わりに支給されるわけですが、この定額部分から老齢基礎年金に代わる時に「差額」が発生してしまうんですね。
 
 
改正して、定額部分→老齢基礎年金となった時に差が出てしまったんです。
 
 
それは計算式が異なるから。
異なる計算式であり、更に定額部分が老齢基礎年金より多かったので、65歳から老齢基礎年金を支給すると年金総額が減ってしまう。
 
 
この差額を埋めるのが経過的加算(差額加算)。
 
 
 
また、定額部分は全ての厚生年金期間を含めて計算しますので、加入が早い人は中学卒業したらすぐ労働に就いた人も居れば、加入が長い人は今現代は最大70歳まで加入ができるわけです。
加入が長い人は50年ほどになりますね。
 
 
しかし、国民年金に加入するのは「20歳から60歳までの40年」と決まっているから、定額部分の代わりに国民年金を支給するね!って言ってもまた差額が出てしまう。
 
 
 
定額部分の代わりに支給される事になった国民年金(老齢基礎年金)とはいえ、こうなるとまた差額が生じてしまいますよね。
計算式も違うし、加入期間も違う。
 
 
そういう差を経過的加算(差額加算)で埋める。
 
 
 
というわけで、1つ事例。
 
 
1.昭和33年1月17日生まれのA男さん(令和5年現在は65歳)
 
・何年生まれ→何歳かを瞬時に判断する方法!(参考記事)
 
https://ameblo.jp/mattsu47/entry-12341168299.html
 
 
 
20歳になるのは昭和53年1月からですが、大学生だったため昭和55年3月までの27ヶ月間は国民年金には加入しませんでした(平成3年3月までは昼間学生は任意加入でした。ただし、この期間はカラ期間)。
 
昭和55年4月から昭和56年5月までの16ヶ月間は国民年金保険料を支払い、昭和56年6月から令和3年3月までの478ヶ月間は厚生年金に加入しました。
 
 
なお、昭和56年6月から平成15年3月までの262ヶ月の平均標準報酬月額は36万円とします。
平成15年4月から令和3年3月までの216ヶ月の平均標準報酬額は47万円とします。
 
 
ちなみに、A男さんは60歳到達月である平成30年1月以降も厚生年金に加入している人です。
20歳から60歳前月までは国民年金に強制加入の期間だから、平成29年12月までの厚生年金期間は国民年金にも同時に加入の状態です。
 
 
さて、A男さんの年金記録をまとめてみましょう。
 
・カラ期間→27ヶ月
・厚年期間→478ヶ月
・国民年金保険料納付→16ヶ月
 
全体の期間としては521ヶ月有りますが、カラ期間は年金額に反映しません。
 
 
ちなみに老齢基礎年金は20歳になる昭和53年1月から60歳前月の平成29年12月までの記録でしか計算しません。
 
A男さんの生年月日からだと63歳(令和3年1月)の翌月分から厚生年金が貰えますが、それは割愛して65歳(令和5年1月)の翌月の年金からのを計算しましょう。
 
 
まず老齢基礎年金から計算してみましょう。
 
・老齢基礎年金→795,000円(令和5年度67歳到達年度までの人の満額)÷480ヶ月(20歳から60歳まで)×453ヶ月=750,281円(1円未満四捨五入)
 
なお、453ヶ月というのは16ヶ月の国民年金保険料納付期間と、20歳月から60歳到達月の前月までの厚年期間(昭和56年6月から平成29年12月までの439ヶ月)の合計。
 
次に老齢厚生年金。
 
まず、65歳から支給される老齢厚生年金(報酬比例部分)→36万円÷1000×7.125×262ヶ月+47万円÷1000×5.481×216ヶ月=672,030円+556,431円=1,228,461円(1円未満四捨五入)
 
 
というわけで年金総額は、老齢厚生年金(報酬比例部分)1,228,461円+老齢基礎年金750,281円=1,978,742円(偶数月に2ヶ月分329,790円←1円未満切り捨て。切り捨てた端数は2月支払いでまとめて支払う)
 
これで終わりかというとまだです。
 
今日のテーマである差額加算が支払われていません。
 
 
・経過的加算(差額加算)1,657円(令和5年度定額単価)×478ヶ月(上限480ヶ月)ー795,000円÷480ヶ月×439ヶ月(20歳から60歳までの国民年金同時加入中の厚年期間)=792,046円ー727,094円=64,952円
 
この式が何を意味してるかというと、1657円(定額単価)×厚年期間478ヶ月というのは昔の定額部分の計算式です。
すべての厚年期間を使ってますね。
 
それに対して右側の式は老齢基礎年金を計算する時の厚年期間は国民年金同時加入中である20歳から60歳までの期間しか使わないので、その範囲内の439ヶ月しか使っていません。
 
昔の定額部分は厚年期間全体を使って計算していたのに、定額部分からバトンタッチした老齢基礎年金に使う厚年期間は20歳から60歳の間でしか老齢基礎年金に反映してくれない…。
 
 
これだと昔の計算より不利になってしまうので、定額部分の計算と老齢基礎年金の計算の39ヶ月分の差額を差額加算として支給しています。
 
 
よって、先ほどの金額1,978,742円+差額加算64,952円=2,043,694円(2ヶ月分340,615円)という事になります。
 
 
この人の生年月日だと定額部分が支給される人ではないですが計算しないといけない。
 
 
ちなみに、定額部分の加入月数上限が480ヶ月かというと、国民年金加入上限も480ヶ月だし国民年金自体が定額部分からバトンタッチされた年金だからそれとの整合性を保つため。
公平にできるところは公平にしたわけですが、従来の計算式とか加入期間の違いから出てくる差額は上記のように計算して、65歳前と65歳後で年金に差が出ないようにされています。
 
 
なお、A男さんの生年月日の人は63歳から報酬比例部分のみの受給が始まり、65歳からは老齢基礎年金と差額加算の受給が始まりました。
 
定額部分が支給される人ではありませんが、現在も上記のような計算を用いて差額を支給しています。
 
 
 
※追記1
厚年加入者は国民年金第2号被保険者といい、自営業者などは国民年金第1号被保険者、2号被保険者の扶養に入ってる人を国民年金第3号被保険者と言います。
 
この中で2号被保険者だけが20歳前から加入が出来て、60歳から最大70歳まで加入が出来ます。
 
よって、2号被保険者だけ長く加入できるのにその分が老齢基礎年金に反映されたら、1号や3号の人達に対して不公平になるので厚年や共済加入してる人も20歳から60歳までの期間を老齢基礎年金の計算の基礎としています。
 
 
※追記2
20歳から60歳までの厚年期間で支払った保険料18.3%(これを労使折半)は厚生年金だけでなく、老齢基礎年金にも反映します。
しかし、例えば60歳後の期間は老齢基礎年金には反映しませんよね。
 
つまり保険料を18.3%支払っても、貰える年金は老齢厚生年金のみにしか反映されない事で不公平ではないかとの批判があります。
 
しかしながら差額加算は国民年金保険料を納めたのと同じ効果があります。
 
事例では39ヶ月分の差額加算64,952円が出ましたが、39ヶ月で国民年金(老齢基礎年金)を計算すると、795,000円÷480ヶ月×39ヶ月=64,594円となります。
 
なので、差額加算が老齢基礎年金の代わりになってるわけですね。
 

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※まぐまぐ大賞2022の語学資格部門1位と知識教養部門3位を受賞させていただきました。
本当にありがとうございました!

・まぐまぐ大賞2022(語学資格部門1位)
https://www.mag2.com/events/mag2year/2022/list.html?cid=language&aid=238



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https://www.mag2.com/events/mag2year/2022/list.html?cid=knowledge&aid=162



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まぐまぐ大賞2020・2021・2022受賞。
途中で登録されてもその月の発行分はすべてお読みいただけます。
https://www.mag2.com/m/0001680886



2月22日の第282号.妻と別れて厚生年金記録を分割してもらったが、再婚後の遺族厚生年金にはどう影響するのか。

3月1日の第283号.海外居住中や60歳から65歳までの年金に加入していない時の障害年金事例はやや特殊。

3月8日の第284号.年金積立金の現在の役割と進行する高齢化への対応、そして年金積立金の重要な歴史。


2月1日の第279号.年金の価値を維持するための年金額変更の歴史と、65歳前後の違い(1)を発行しました。

2月8日の第280号. 年金の価値を維持するための年金額変更の歴史と、65歳前後の違い(2)を発行しました。

2月15日の第281号. 障害厚生年金2級と3級の65歳以上で悪化した場合の取り扱いの大きな違いと計算事例。

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