金・劉夫妻の主張するところでは、伝統的シナ社会は

(1)皇帝が官僚機構を統制すること
(2)官僚機構を組織化する原理を儒教とすること
(3)官僚の主な人材供給源が地主階層であったこと

の3要素によるシステム化(同一化)がなされている社会構造だった。


儒教では、国家の秩序を家庭の秩序からの延長として考える。

家庭の秩序は、


宗法思想(家譜制) ・・・ 一族の長幼の秩序など

祠堂&家譜 ・・・ ※

族田 ・・・ 一族の土地・田畑

これを延長した国家秩序は、

儒家正統国家学説

官僚制 ・・・ 科挙のような儒家学説の教養に応じて政府により選抜された官僚

地主経済

家庭の秩序観が国家レベルの秩序観にコピーされているわけだ。

※ 「先祖を祭る祠(ほこら)」と「一族の一覧と家系図を儒教秩序に従って編集した書類」のこと

鮮卑はいくつかの集団に分かれていたが、そのうちの一つ拓跋部(註1)は4世紀に現在の山西省北部から内蒙古自治区南部を拠点にしていたが、漢人と胡人の統合を目指して、胡人の遊牧社会の解体に乗り出した。

農耕社会・漢人社会風のロジックで牧畜社会を包含する国家全体を統合しようという試みだった。以下のような施策がなされた。

(1)鮮卑語の姓名を改め、漢人風の姓名を名乗らせるようにした。(註2)

(2)胡人を定住化させ、農耕社会の集落と同様な集落組織を編成させた。

(3)農耕社会の政権が依拠していた地方有力者からなる貴族政治に、胡人の有力者が入り込んだ。(貴族としての官位をもらった)

(4)首都を中原の中心地(洛陽)へ移した。(註3)

5世紀前半に華北を統一した北魏は南へ遷都するにあたり、モンゴル高原の遊牧国家(註4)への備えとして北辺(現在の河北省・山西省の北辺、陰山山脈周辺)にいくつか駐屯軍を置いた。

しばらく1世紀弱、政局が安定した。

(註5)
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註1: 日本語での発音は「タクバツ」だが、中央~西アジアでは「タヴガチュ」と発音されたらしい。「タヴガチュ」という呼称は、北魏とその分裂後の東西魏のみならず北周・隋・唐の各王朝までを包含して意味する用語として、中央~西アジアで広く使われていたらしい。当時の中央~西アジアの人々が、シナ風の王朝史観にとらわれずに、隋唐政権の出自を正確に把握していたことを示している。

註2: 皇帝自らが姓名を漢人風に改めた。姓を「拓跋」から「元」に改めた。

註3: 最初の首都は現在の山西省大同市。ここの郊外には北魏時代の仏教遺跡がある。中国三大石窟の一つ雲崗石窟。(註6)

註4: 柔然(ジュウゼン)あるいは蠕蠕(ゼンゼン)と呼ばれた遊牧民の集団。

註5: 農地分配制度「均田制」と、戸籍・隣組制度「三長制」も、北魏期に始まった有名な改革だが、胡人の漢人社会への同化プロセスと直接の関係があまりないと判断しているので、ここでは説明しない。なお、「均田制」は唐まで受け継がれ、遣唐使経由で日本にも影響を与えた。「班田収授法」として歴史に残っている。

註6: 大同は内蒙古と山西の境界近くに位置する(註7)。遊牧民が本拠地たる草原からそれほど離れずに農耕社会を占領するには比較的適した地理的位置だと思う。しかし、農耕社会に基盤を置こうとすると端っこ過ぎる。草原に近いということは農業に適さない乾燥地ということ(註8)。洛陽への遷都は農耕社会に重点を置こうという政権トップの明確な意思表示だと見ていいと思う。

註7: 雲崗石窟はお薦めの観光地だと思うが、冬場はどうかと思う。モンゴル高原の南端ぎりぎりで海抜高度もあるから冬場はかなり寒いし、大同市内は暖房に石炭を使っているから煤がひどい。ちなみにここは炭鉱地帯だ。市内から石窟へ行くとき炭鉱のそばを通る。

註8: 雲崗石窟を出て懸空寺(崖の途中に建設された寺が観光名所になっている)を経て大同市に戻る途中、羊の群れとそれを追う牧民を見かけた。mattは山西省でしか見たことが無いが、山西省に限らず華北のかなりの部分はこういう「農耕地帯の中ところどころ牧民が羊を追う」地域らしい。モンゴル高原の牧畜地帯と華中の農業地帯とのちょうど中間が華北ということか。

FT.com 5月6日購読者用記事 http://news.ft.com/cms/s/6dd73448-bd8c-11d9-87aa-00000e2511c8.html

地中をドリルで掘削する際、単に鉛直下向きだけでなく、少しづつパイプの方向を横向きに曲げながら掘り進むことができるようになってきていることは、知識として知ってはいた。

この記事によると、その斜めに掘り進んでいる様子を3D画像で表示できるようになったらしい。それも遠隔地で。この記事では、メキシコ湾岸の油田での掘削の様子をオランダの事務所で3D画像解析している様子を取材している。

ぱっと考えて、

・地中の地層の様子をどうやって調べ、かつどう画像表示するのか

・掘削装置の先端が、地中のどの場所にある、とどうやって測定するのか

このあたりが技術的に難しそうな感じがする。3D画像処理技術の問題より、むしろ地震波による地層解析技術の問題か。

ともあれ、原油価格上昇で、生産性向上のための設備投資をする余裕が少しずつ出てきているのかもしれない。

衝動買いした本は... びっくりモノだった。

「中国 衝撃の古代遺跡を追う」(ハルトヴィヒ・ハウスドルフ&ペーター・クラッサ著、畔上司訳、文藝春秋刊、1996年)

この本はいわゆる「トンでも本」だ。「古代のシナに宇宙人がやってきた云々」と述べている。「3分の2は矢追純一、残りはグラハム・ハンコック」のノリだといえば分かりやすいかもしれない。買った後で読み込んでみて、しまったと思った。

この本の表紙カバーにカラー写真が載っている。見える範囲内でも古代の墳墓が9基数えられる。

ハウスドルフ&クラッサによると、この写真は西安近郊の咸陽空港から西安市に行く途中の高速道路上で車を止めて撮影したものらしい。

その道、まっと自身も通ったことがある。走りながら麦畑の向こうに黄土色の丘のようなものが見えた記憶が確かにある。記憶に残っているくらいだから、何となく古墳に似たイメージを覚えたのに違いない。実際、日本にも「方墳」がある。

「そうか... あの場所か...」

もう一度行ってみたいものだ。

ハウスドルフとクラッサは、これら古代の帝王の墳墓を「ピラミッド」と呼んでいる。確かに形状はそっくりだ。ピラミッドと聞いて思い出すエジプトのピラミッドとは異なり、例えばメキシコ・テオティワカンのピラミッドのような頂上の平らなピラミッドとよく似た形状だ。

エジプトやメキシコと関係があるのだろうか...?

金・劉夫妻によると、伝統中国社会の権力階層構造はこうなっている。


皇帝


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|       |       |
官僚  皇族・外戚  宦官


吏員


・官僚は地主階層出身者が大半

・官僚は地主として地方の有力者であるがゆえに官僚になれるのでもなければ、経済力があるがゆえになれるのでもなく、また世襲でもない。儒教的教養の高さによって選抜される。

・吏員は、中央政府(皇帝)によって選抜された官僚とは異なる。地方地方の政府ごとに採用された、地方実務レベルの公務員というべき存在。儒教的教養を評価されて選抜されたわけではない。

・これより下層には、基本的な納税者としての地主と自作農がいる。地主の下には小作人がいる。

すでにご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、「もっとSinology」をリンク先として追加しています。「ブックマーク」の一番下にあります。

前々回の投稿(5月2日の「罠」)で「UN安保理改革や海底油田などをネタに(註1)、日本が中共を刺激して中共内部で路線対立を起こさせるよう、アメリカが仕向けている」という内容の観測を書いた。

どうしてこういう考え方が出てくるかというと、「長崎国旗事件が文化大革命を起こさせた」という説を知っているからだ。

(a)日本が中共政権を承認する16年前の1956年、長崎県で開催されていた中国物産展で、日本人右翼が五星紅旗を破る事件が起こった。

(b)当時中共政権内では「日本と接近して、西側の経済援助を取り付け、経済開発を進めよう」という路線を推進する勢力がいた。(註2)

(c)しかし、この事件で、「日本と接近する路線など無理だ」という判断に中共が傾いてしまい、大躍進~文化大革命へと進んでしまった。

こういう説だ。

mattの知る限り、Gregory Clark 氏(元豪州外交官。現多摩大学名誉学長。現国際教養大学(秋田県)副学長)と長谷川慶太郎氏(日本個人投資家協会理事長)の2人がこの説を述べているそうだ。

この説が本当に正しいかどうかは、中共政権が倒れて内部文書が公開されるまでは判明しないだろう。mattは賛成している。日本の中共に対する影響力は、日本人が認識しているより、ずっと大きいと思っている。

アメリカがもしこのように思っているなら、「日本の外交政策を操作することにより、アメリカが当事者でない風を装いつつ、中共内部に路線対立を発生させることができる。うまく展開すれば、ソビエト共産党と同様、アメリカの覇権への挑戦を中共に諦めさせることへと繋げられるかも知れない」とアメリカ人が考えても少しも不思議ではないと思う。実際、今アメリカ人はその通り実行中だとmattは見ているわけだ。

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註1: 前回「日米安保の作戦行動範囲に台湾海峡を明確に含めたこと」を書くのを忘れていた。

註2: 劉少奇-鄧小平路線。劉は文革中に殺された。生き残った鄧は文革後資本主義導入路線を敷いた。

5月2日(月)の Insider Trading が誤っていたので訂正します。

胡錦濤ではなく、ただの胡氏(?)でした。5月2日の投稿に加筆して訂正してあります。

お騒がせしました。

リンク先「週刊アカシックレコード」は、ずっと以前から「北京五輪開催と合わせて台湾独立」論を展開してきている。例えば、<http://www.akashic-record.com/y2005/usjvsc.html > なんかそうだ。mattもこの見方はいい線行っていると思う。陳水扁の立場に立たされたら、mattならやりかねない。


北京五輪開催の是非と台湾独立運動とを関連付ける可能性のある具体的な政治上の動きをとうとう目にすることになった。しかも、アメリカ連邦下院での動きだ。


FT.com 4月29日購読者用ページ記事 <http://search.ft.com/search/article.html?id=050429001461&query=Beijing+Olympic&vsc_appId=totalSearch&state=Form >


Yahoo! Japan News 4月29日記事 <http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050429-00000016-kyodo-int >


まだ決議「案」の段階だから、この先どうなるか分からない。が、それでも、アメリカが中共をどう揺さぶろうとしているか、少しづつ手の内が見えてきたとmattは思っている。


(1)非居住者による人民元兌換を自由化させ、中国の資本市場のvolatilityを上げる準備をしておく


(2)北京五輪開催に合わせて台湾で独立運動を起こさせる


(3)日本に「歴史認識」や「海底油田」や「UN安保理」などの問題提起をさせ、中共内部で「対西側宥和路線 vs 強硬路線」なる路線対立を誘発させる


(4)東トルキスタン独立運動を支援する

久々にある本を読み直している。

「中国社会の超安定システム」(金観濤・劉青峰著、若林正丈・村田雄二郎訳、研文出版刊)

原著は1983年、日本語訳は1987年に出版されている。

「超安定システム」という言葉は、システム工学の用語だ。その意味するところは、ぱっと見とは異なる。

「システムが成長すると、内的要因によってシステム内の各要素の平衡が一気に破壊され、成長前の最初の段階に戻る。よって、長い目で見ると同じプロセスを繰り返すだけなので、一連のプロセスが実行される様子=システムが、全体としては極めて安定している」という意味だ。

著者の金・劉夫妻は、「伝統的中国社会は全体として超安定システムだ。歴代王朝は興亡を繰り返すだけで社会が進歩しなかったが、それはこの理論で説明できる」と主張している。