先日観た1975年制作作品のリメイクかと思いきや、リブート版だった。
なので、本作の中では前作の事件(ひかり109号事件)が起因となるストーリー展開となっている。
宇都宮に住み東北新幹線を日常的に使っている身としては、今回JR東日本全面協力でE5系はやぶさが舞台となっているのは、親近感が沸く。
結論から言うと、樋口真嗣監督らしいスケールの大きなスペクタクル作品となっており、2時間15分という尺が全く長く感じられない一級のエンタテインメントに仕上がっている。
新青森発東京行きのどこにでもある新幹線の日常風景から、爆弾が仕掛けられたという犯人からの犯行声明が出るまで、そしてそこから爆弾の存在を車掌の高市(草彅剛)が乗客に知らせてパニックとなるところまでが実にスムーズに、緊迫感をもって進んでいく。
JR東日本の新幹線総合指令所と、はやぶさ60号との連絡がテンポよく描かれるあたりはスペクタクルもののスペシャリストである樋口監督の真骨頂。
草彅剛は旧SMAPの中で役者としては最も上手いと思う。
冷静ながら内に秘めた強い意志を感じさせる、職務に忠実でプロ意識を持った車掌を好演している。
1975年版では千葉真一が演じた運転士は、のんが演じている。
女性運転士というのが時代を感じさせるが、彼女の凛々しい眼、表情がスリルを高めてくれていて、さすがの演技力だ。
そして総合指令所では笠置総括指令長を斎藤工が演じる。1975年版では宇津井健だった。
ただ今回の作品で最も印象に残ったのは、乗客の女子高生・小野寺柚月役の豊嶋花だ。子役時代から注目の実力派であったが、今作の柚月役は間違いなく彼女の女優としての成長を実感させるキャストとなったろう。
物語終盤、彼女が犯人であることを自白してからの演技は圧巻だ。
虚無を身にまとったような立ち居振る舞いと、前半部で友達と他愛もない話で笑顔を見せていた少女はどこに行った?と思わせる感情の無い眼。
ラストシーンの救急車の中で川越刑事(岩谷健司)との会話など、非常にセンシティブな演技を求められる役だったが、完璧といえる芝居であった。
この作品での豊嶋花の演技は完璧だった。
こういったパニックものは、大いに恐怖心を煽りつつも嘘くさくならないようにしないといけないので、やはり演者の芝居が重要である。
その点では配役も絶妙であった。
尾野真千子、黒田大輔、要潤、大後寿々花、松尾諭といった実力派、細田佳央太、大原優乃、中山ひなのら若手もキャストされている。
またそのほかでは幅広い演者が名を連ねていて、それぞれが迫真の演技で物語を盛り上げるのに一役買っている。
尾野真千子の変幻自在ぶりは、さすがの一言。
松尾諭は「拾われた男」では草彅剛と兄弟役で共演していてドラマファンとしては嬉しいキャスティング。
ほかには坂東彌十郎、六平直政、ピエール瀧、田中要次(元JR東海職員・・・)、尾上松也、今野浩喜、森達也、大場泰正、田村健太郎など。
渋いところでは、NHK「作りたい女と食べたい女」での好演が印象に残る西野恵未、同NHKの「3000万」で注目された木原勝利らも出演している。
森優作も出ていたと思うが、前田愛がクレジットにあったがどこに出ていたかわからなかったが、どうも松尾諭を治療する医師役だったようだ、、、ちょい役すぎてわからんわ。。。
東海道新幹線と違い、のどかな田園風景が多い東北新幹線、美しい日本の里山が映し出されるのも見どころ。少しずつ東京に近づくにつれて宇都宮も通過するだろうか、と見ていたものの、物語終盤の緊迫したシーンだったこともあり何事もなく通過。
ただ樋口監督の地元の古河はしっかり映っていた。。。笑
1975年版の中のエピソードを伏線として使い、今回の作品の犯行目的につなげた脚本は面白い。前作では戦後経済が急成長する中、多くの社会的な歪みが生まれ、過激派が活動する混とんとした中から事件が起こり、翻弄される人々が描かれていた。
今作は、人々の無関心が生む現代社会に生きる人々の孤独や絶望が背景にあるという見せ方となっている。
また前作では最終的には爆弾は除去されて爆発事故が起きることなく大団円を迎える(ただし高倉健演じる犯人たちは皆死亡)が、今回は派手に新幹線は爆発するものの、死人は一人も出なかった。
ラスト近くで命を天秤にかけた決断を迫られるなどのシナリオで緊迫感を維持したのも、時代の違いを感じずにはいられなかった。
ただ、余計なことを考えなくとも良質なスペクタクルを楽しみたいのなら、特にお勧めの一品だと言える。1975年版も併せて観るとさらに楽しめると思う。