食べることが好きで、外食好きの私が今一番愛してやまないお店が、地元深谷市内の居酒屋「雷文(らいもん)」 です。夜の9時過ぎに、週3~4回は軽く飲むために訪れているでしょうか。


 雷文は串焼き、串揚げがメイン、その他、極々普通の料理を“適正な”価格で提供する個人経営のお店です。しかしそんなお店ですが、この厳しい業界の中毎晩沢山のお客さんで賑わってます。


 私もその雷文にいつしか魅せられた1人。賑やかな店内のカウンターの片隅で深谷の地酒、菊泉の普通酒を煽りながら


「なぜこの店はこんなに好かれているのだろう」


「いや、その前にどうして自分はこの店が好きなのだろう・・?」


としばしば考えてしまうのです。


「人に好かれる食とは何か」


 この雷文にはそのヒントがあり、それは自分の(もやしを提供する)仕事にも必ずとりいれるべき事項なのだと思うからです。


以前もマスターの言葉の中から、


「こだわらないことにこだわる」  


「自分の目が届かないと嫌(マスター談)」  


と、いったいくつかの重要なヒントをいただきました。自分の身の丈を知り、食の基本を外さない言葉に思わず私も姿勢を正したものです。


そして今回、ふとしたことで新たな発見がありました・・・・。それは25日の大豆もやし試食会 でのことです。


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「あら。どれも美味しいわね」


と小柄な年配の女性のお客様が、試食に出した6種類の県産大豆もやしを丁寧に食べてくれました。ずいぶん好意的な方だなと思ってたときに、その方が私に話しかけてきました。


「いつも息子がお世話になってます」


「・・・え?」


「雷文の・・・K(マスターの名前)の母です」


「あっ!・・・」


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 初めてマスターのお母様に会ったその時、以前マスターと交わした会話が蘇りました。雷文の人気メニューである“もつ煮”について話した時です。


『自分が修行した店(寄居町の金太郎)のもつ煮は有名だけど、実はこのお店のとは違うんですよ』


『え?そうなんですか?』


『ここのは“お袋がつくったもつ煮”なんですよ。自分はそっちの方が好きで。だからこの店がオープンした頃はずっとお袋に作ってもらてたんです。今は自分が覚えて同じようにつくってますけどね。それとこの店のお通しですけど、あれも全部お袋がつくってるんですよ』


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 私は雷文が愛されている理由のひとつが何となく見えました。マスターは確かに寄居町の居酒屋の名店で修行してきましたが、実はその最も深い部分には『母親の味』がしっかりと刻まれているのです。マスター自身もそのことを自覚して、お客に最初に出す料理(お通し)はすべて母親の手作りを、そして人気のもつ煮は母親から受け継いだものを提供していたのです。でもマスターはそんなことは普段からペラペラと言いません。誰も知らない・・・それでも彼の出す料理から「何か幸せなもの」が人に伝わっているのではないでしょうか。


マスターの姿勢には自分の味の基礎をつくってくれた母親への感謝と敬意がこめられています。味の敬意と継承。普通だけど何か惹きつけられる雷文の料理の秘密はこの部分だと思うのです・・。


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「じゃあこれ買って行きますね」


「どうもありがとうございます」


 大豆もやしを何袋かかごに入れて、マスターのお母様はお店の野菜売り場へと向かいました。せがれが頑張ってやっている雷文の今晩のお通しは何にしようか・・・・と「幸せな気持ち」で食材を選んでいるのかもしれません。


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