懇親会終了後の労災認定~の巻~ | 労働法のポッケ~弁護士松崎基憲のゆるっと解説

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山を走っていると
どこにつながっているのかわからない
脇道を発見することがあります

そんな脇道に進入した結果
写真のような川辺に
たどり着きました



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さてさて、今回は、懇親会終了後に交通事故に遭遇して死亡した労働者について、労災認定がなされた事件をご紹介します。




事件の概要



事件の概要は、次のようなものです。


ある会社が、外国から受け入れている研修生の歓送迎会(18時30分開始)を開催することになりました。


従業員Bさんは、締切り間近の作業があったので歓送迎会には参加できないと断りました。


しかし、Bさんは、社長業務を代行していたE部長から参加を強く求められたので、仕事を中断しで歓送迎会に途中参加することになりました(20時ころ)。



歓送迎会終了後(21時過ぎ)、Bさんは、仕事を終わらせるために社用車で会社に戻るついでに、外国人研修生をアパートに送り届ける途中、大型トラックと衝突する交通事故に遭い、死亡しました。




業務災害の労災保険制度


業務災害の労災保険は、業務上の事由で負傷、疾病、傷害、死亡が発生した場合に、保険給付を取ることができる制度です。
(※通勤災害の労災保険は、今回は説明しません。)

「業務上」の事故でなければ、業務災害の労災保険は給付されません。

そこで、その事故が「業務上」なのか、「業務上」でないのかが問題になります。

交通事故の場合、「業務上」の事故と認められるためには、労働者が事業主の「
支配下にある状態」で事故が発生する必要があります。

今回の歓送迎会のような懇親会は、「私的な会合」などと言われ、事業主の支配下にはないため、労災認定がなされないことがあります。

ところが、今回の事案について、最高裁判所は、労災認定が必要だと判断しました。


なぜでしょうか?


その判断の理由を見ていきましょう。





~ 事件の特徴 ~



今回の事件にはいくつかの特徴があります。



①歓送迎会への参加等の要請


事故で死亡したBさんは、歓送迎会への参加を、当初は、断っていました。

しかし、E部長から「今日が最後だから」などと言われて、参加を強く求められました。

E部長は、さらに、Bさんの締切り間近(翌日が提出期限)の作業について、歓送迎会終了後に、E部長自身も手伝うと言っていました。


上司であるE部長にこのように言われたら、Bさんとしては、「歓送迎会に参加しないわけにはいかない状況」に置かれます。


このように見ると、Bさんとしては、歓送迎会への参加と、その後に職場に戻って担当作業を再開することを余儀なくされていると見ることができます。


Bさんが上のような行動をとることを余儀なくされるということは、会社から見れば、Bさんの歓送迎会参加とその後の職場に戻る一連の行動を、職務上、要請していたということになります。




②歓送迎会の事業活動への密接関連性


今回の歓送迎会は、外国人研修生を定期的に受け入れていたことと関連して、社長業務を代行していたE部長が発案したものでした。

そして、歓送迎会には、当時の従業員7名と研修生が全員参加していて、費用は会社の経費から支出されていました。


また、研修生の歓送迎会会場への送迎は、社用車を使って行われていました。


このような事情からすると、
今回の歓送迎会は、一部の従業員が自主的に開催している懇親会ではなく、研修のために会社が企画した行事のひとつである見ることができます。


ということは、この歓送迎会は、従業員の単なる「私的な会合」ではなくて、「会社の事業活動に密接に関連して行われていた」のだと考えることができます。



③研修生をアパートに送ることの要請


今回の歓送迎会の開催にあたって、E部長は、
歓送迎会終了後にE部長自身の運転で研修生をアパートに送っていくことを予定していました。


一方、歓送迎会に途中参加したBさんは、終了後に職場に戻ることになっていて、なおかつ、歓送迎会の会場から職場に戻る経路上の近いところに研修生たちのアパートがありました。


そこで、当初は、Bさんは、研修生を送ることを会社から要請されていたわけではなかったものの、歓送迎会終了のころには、E部長に代わって、Bさんが、研修生たちをアパートに送っていくことになったのだと考えられます。


そうすると、BさんがE部長に代わって研修生たちをアパートに送ることは、会社から要請されていた一連の行動の範囲内のものだったと見ることができます。





最高裁判所の判断


以上の①~③の事情から、最高裁判所は、今回の歓送迎会が事業場の外で開催され、お酒も出されていたというにもかかわらず、今回の事故当時、Bさんは、「会社の支配下にあった」と判断しました。


これにより、Bさんの事故死は、「業務上」の災害として、労災保険が給付されることになりました。



懇親会がすべて業務災害になるわけではない


今回のBさんの事故が労災認定されるのは、上のような特殊な状況があったからです。

したがって、終業後の懇親会に関連した事故がすべて労災認定されるわけではありません。

一方で、懇親会時の事故がすべて労災にならないというわけではないということがこの判例からわかると思います。


余談ですが・・・

今回、歓送迎会に参加したBさんは、お酒を一滴も飲んでいませんでした。

車で職場に戻る予定だったのですから、当然ですね。

しかし、もし、お酒を飲んでいたら、労災認定の判断はされなかったかもしれません。



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はてさて

今回も長くなりました。

全然ゆるっとしてませんでしたね~






また関係ない写真を貼っておきます~