無いようであるもの | 拝啓四十の君へ

拝啓四十の君へ

3歳男児の親としても、フリーアナウンサーとしても「こんなん聞いてないし!」と、絶望しては望みを繋ぐ日々です。それでも40歳くらいには戦闘記として懐かしめたら!
子育ては十人十色すぎるので、どこかでどなたかに届く事があればとても嬉しいです。

息子が3歳になった。一人で歩いて、走って、階段も昇り降りできるようになった。自分で食べ、着替えもできる(その気になれば)。日に日に語彙力がつき、「ママはここでまってて、座っててね。」「いまは洗い物しないで、(テレビの音が)きこえないから」と我が家の指揮官になった。私は焦った。息子がこれほどまでに様々なことを習得している間に、自分は何ができるようになっただろう。毎年発表される今年の漢字。私は去年に引き続き「無」が浮かぶ有様だ。
仕事が無い訳ではない。有難いことに司会やナレーション、ラジオリポートもさせてもらい、楽しさとやりがいもある。しかし、これは昔取った杵柄と言えば聞こえが良すぎるが、局のアナウンサー時代に得たスキル。退職してから重ねた日々の中に成長と呼べるものがあるだろうか。停滞は後退だ。かつて自分を鼓舞していた言葉が、今は首をじりじりと締め上げてくる。
2か月程前になるが、元日本ハムファイターズ投手、斎藤佑樹さんのトークショーの司会を務めさせて頂いた。
斎藤さんは、引退の2か月後にはご自身の会社を立ち上げている。「引退して少しゆっくりしたいな、とは思いませんでしたか?」と伺うと、返ってきたのは「止まったら終わりだと思ったので」。これが凡人との差だろうか。無我夢中で進み続ける人は、数年間五里霧中の人間には眩しすぎる。

私は前述のとおり、子どもの成長に比例して後ろ向きになるというおかしな構造の中にいるため、もちろん話の流れがあったからではあるが、こちらも聞いてみた。「前を向くにはどうすれば良いと思いますか?」プロ生活でもどかしい日々を過ごされた経験のある斎藤さんは、良い質問ですねぇ、と少し思案してから答えてくれた。池上彰さんも顔負けに違いない。
「自分で前を向くというより、周りの人に支えてもらっているので、それに応えたいという気持ちが背中を押してくれていました。」
同じ土俵で語るつもりは毛頭ないが、自分ではなく誰かのために頑張りたいという気持ちをここ数年は見失っていた。育児に時間をかけているうちに置いてきぼりになっているような気がして焦るばかりで、なんのために働くのか、「どんな母親を見せたいのか」がいつの間にか霞んでいた。仕事の技術面で上乗せできたものは無いかもしれない。しかし、自分の成長そっちのけで心を傾けてきたものならある。
「ママはうごかないで!どーぞって言ったら進んでいいよ!」
その思いに応えようとがむしゃらだった3年を経て、前進の号令が掛かった。




この背中を追いかけたいと思うような社長。芯のあるお話をたくさん聞かせて頂きました。