雨合羽のゆくえ | 拝啓四十の君へ

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3歳男児の親としても、フリーアナウンサーとしても「こんなん聞いてないし!」と、絶望しては望みを繋ぐ日々です。それでも40歳くらいには戦闘記として懐かしめたら!
子育ては十人十色すぎるので、どこかでどなたかに届く事があればとても嬉しいです。

 雨合羽を買わなければと思っている。なぜなら、息子の保育園送迎に必要だから。保育園は家から歩いて行ける距離のため、恥ずかしながら2歳半になった今も雨の日は抱っこ紐で登園している。正しくは、抱っこ紐で縛り付けて、無理矢理連れていく。まだ11キロと小柄なことは、ここまでで唯一の親孝行と言って良い。毎朝なだめ透かして自転車に乗せるより手っ取り早く、自分も濡れないため実はこれが最善なのではとも思っている。そんなだから、自転車用の雨合羽は一向に我が家にやってこないのだ。

 そんな私が雨合羽と聞くと、いの一番に浮かんでくるのが、高校時代。通っていた高校では、自転車通学の生徒の傘差し運転に頭を悩ませていたこともあってか、学校指定のカッパをつくることになった。私は遠方からバスで通学していたため、雨合羽とは無縁だったにも拘らず、未だに忘れられないのはお披露目されたカッパが名実ともに衝撃的だったからだ。全体の色は、絵の具の青そのものであり、背後には真っ黄色のアルファベットで高校名がプリントされていた。徳島県立城東高等学校なので「JOTO」。雨の日でも視認しやすく、一目で城東高校生と分かるようという意図がこれでもかと伝わってくる。その派手合羽には、ご丁寧に名前もつけられていた。「城東高校のカッパ」なので、「ジョッパ」。

 体育館の壇上で教師は言った。「他校の生徒が、『カッコいい!私たちもジョッパが欲しい!』」と言われるものにしたい」と。「君たち全員が身に付けていればそうなるに違いないのだ!」と。体育館は水を打ったようだった。生徒の顔に一様に滲んでいたのは、名前、色合い、教師の言葉、どれをとってもうまく嚥下できない戸惑いだったように思う。

 あれは全校集会での白昼夢だったのだろうか。なんせ、他校どころか着用している生徒を在学中に見た記憶がない。そこで、「城東高校 ジョッパ」と検索してみた。Wikipediaに記載があったことに驚いたが、目を丸くしたのはその内容だ。「雨具としての効果がないことが指摘されすぐに廃止された」らしい。真偽は分からないが、この衝撃をもってジョッパは私の記憶により深く刻まれてしまった。

 梅雨入り前に雨合羽を買おうと思う。高校時代には縁のなかった雨から守ってくれる上等のカッパを。