20XX年4月9日 14:37
■優しい人
今朝の配達中の話。
あるマンションの前で
新聞を積み直していた。
すると前方にリズムを取りながら
歌っているヘンな人が目に入った。
ピンクの上着に白のズボン。
頭をすっぽり覆うふかふかの白い帽子。
ウォークマンで曲を聴いているようだ。
田舎ではこんなに派手で
陽気な人に会ったことがないので
目を合わせたくないけれど少し見てしまう。
そして彼を気にしている瞬間に
ガシャーンと自転車が倒れた。
―――あー!またやった!
毎日のように自転車を倒しているので
冷静に自転車を戻そうとした。
しかしさっき残りの新聞を
全て積んだばかりで重い!
必死に持ち上げるも、
坂道だしなかなか起き上がらない。
するとヘンな人が走って近づいてきた。
「ダイジョウブ~?」
「すみません、ありがとうご…」
顔を見た瞬間にハッとした。
某超人気アイドルグループの〇〇君だった。
帽子が髪型を隠しているけれど、似てる。
絶対にそう。
だって私も好きだもの。
彼は軽々と自転車を戻してくれた。
「ありがとうございます!」
「いいえ!」
声も一緒。でも亀戸?
芸能人がいるのって渋谷じゃない?
(田舎的発想)
彼は自転車を戻すと
落ちた新聞を拾い集め、
乱れた新聞も直してくれた。
私はまじまじと見てしまった。
目の形も眉毛もほくろも
そのまま〇〇君だ。
「もう大丈夫?」
「はい!大丈夫です!
本当にありがとうございました!」
「じゃあね!頑張ってね!」
私はお礼以外の何も
言うことが出来なかった。
彼はまた歌いながら姿を消した。