保健所、動物愛護センター、動物指導センター、動物管理センター、名称は統一されていないが、全国には犬猫を収容し、殺処分を実行する多くの行政施設が存在する。犬猫を殺処分する施設イコール悪の施設、単純にそう考える人が多いためか、行政施設は毎日のように苦情の電話の対応に追われる。苦情を受けてもしかたのない施設も多いだろう。しかし、すべての施設がそうなのか。はたして、そう単純なものだろうか。
「これでまた助けることができる」
「あっ!ちょっと待って、これ持っていって帰りに飲んで!」
行政施設に収容されていた子猫約30匹を引き出して、車を走りだそうとしたときだった。その施設の長であるセンター長が1本の栄養ドリンクを持って追いかけてきた。
「いつもありがとう。これでまた助けることができるよ!」
センター長が息を切らしながら駆け寄ってきて、お礼を言ってペコリと頭を下げた。そんなことがあったのは1度や2度ではなかった。
ねこかつがこの行政施設から猫の引き出しをはじめたのは2017年のことだった。前年度の2016年、この施設の猫の殺処分数は1600匹以上だった。引き出しをはじめた当初、収容された子猫たちは、収容されたまま段ボールの中に置かれ、収容されたその日の夕方には、そのほとんどすべての子猫が殺処分機の中に入れられ窒息死処分されていた。
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職員が子猫にミルクを与える
ねこかつが引き出しをはじめたと同じ年、ちょうど時を同じくして、このセンター長のもと、殺処分ゼロへ向けたセンターの改革がはじまった。
「助けるために、何をしたらいいですか?」
センター長やセンター職員から何度も質問を受けた。
「ボランティアが引き出す前に、センターに収容された子猫たちにミルクを1回あげて欲しい。子猫が冷えないように温めて欲しい」
まずは、そんな要望を出した。すると、事務室で職員さんたちがミルクをあげてくれるようになった。子猫の季節には1日20~30匹もの子猫が収容される。ピークには日に50匹も収容される日がある。管理職の職員さんやセンター長もミルクをあげるのに加わった。
「毎日引き出しに行くのは難しい。なんとか数日センター内で子猫や乳飲み子の世話をできるようにしてくれないか」
それまで物置として使われていた部屋が子猫の世話をする部屋にあてがわれた。
「心配な子猫は家に連れて帰って診てるんですよ」職員さんが笑って話してくれた。
猫の殺処分数が一気に減少
この年、この施設に関わったボランティアたちが例年以上にがんばったこともあったが、センター長以下センター職員たちが血のにじむような努力をした結果、猫の殺処分数は前年度の1600匹以上から400匹以下に一気に減った。
そして、その次の年には、生きられる猫の命を強制的に絶つということはなくなった(交通事故など瀕死の状態で収容された猫を注射で安楽死する場合や自然死などがあるため、統計上の殺処分数はゼロではない)。
こうした改革が評価されたためか、動物愛護法改正に関する国会議員の勉強会にセンター長とともに講師として呼ばれたことがあった。
私からは、殺処分をゼロにするためには何をすべきか話をした。センター長からはセンターでどのような改革があったか話があった。国会議員や有識者の人たちを交えた公の場である。淡々としたやりとりが続いた。