お金の本質とブロックチェーン~松田学の論考~ | 松田学オフィシャルブログ Powered by Ameba

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日本を夢の持てる国へという思いで財務省を飛び出しました。国政にも挑戦、様々な政策論や地域再生の活動をしています。21世紀は日本の世紀。大震災を経ていよいよ世界の課題に答を出す新日本秩序の形成を。新しい国はじめに向けて発信をしたいと思います。

●お金にはなぜ価値があるのか

私たちは毎日、日常生活でお金を使っていますが、そもそもお金って何なのか、あなたは考えてみたことがあるでしょうか。一万円札を手にすれば、それで一万円分、買物ができる。だから、誰もが一万円札をたくさん手に入れるために一生懸命働く…。もちろん、自分はお金のために働いているのではない、とおっしゃる方も多数いらっしゃるでしょう。でも、その方たちも、お金がなければ食べていけないし、生きていけない、家族を養うこともできない。

 生きていくために、社会生活を営むために、絶対に必要なお金。でも、一万円札は物理的にはただの紙切れです。銀行預金も、よく考えてみたら、通帳の預金残高は、物理的には単なる印刷された数字。金塊なら、きっと価値があるだろう、食料なら食べることができる。でも、紙や印刷された数字それ自体は、本来は何の価値もないし、それで生きていくこともできないものです。

では、なぜ、人々はお金を欲しがるのか、必要なのか。

それは、単なる紙でも、印刷された数字でも、それが経済的な価値を持つと、社会の誰もが思い、「誰もがそういうものとして受け取るだろうと誰もが思っている」と、誰もが思っているからです。お金とは、社会における一種の「共同幻想」ともいえます。ちょっと理屈っぽくなりますが、それ自体に何か明確な根拠があるわけではないのに、そういうものだからそういうものなのだ、と思うことを「自己循環論法」と言います。

実は、人間社会がサルなどの動物社会とどこが違うか、といえば、自己循環論法で成り立つものを3つ使うことで成り立つ社会だということにあると言われます。

一つはお金。誰もがお金だと思うから、お金になります。もう一つは法律。誰もが守るだろうと思うから守る。さらにもう一つは、言語です。「馬」という言葉がありますが、ウ、マ、と発音しても、それは物理的には、それによって起こされる空気の振動に過ぎません。でも、誰もが、その振動を耳にして、これはあの動物の「馬」なのだとみんなが思うから、「馬」という言語が成り立っているわけです。

もちろん、ドルや円などのお金は、その価値を国が保証してくれる「法定通貨」だから、誰もが受け取ると誰もが思うという面があります。しかし、その国が経済政策に失敗して、かつて物価が1兆倍にもなった第一次大戦後のドイツや、インフレ率が何百%にもなった最近のベネズエラのような国になってしまうと、法定通貨でも価値はほとんどなくなり、誰もが受け取るお金ではなくなります。共同幻想は崩壊してしまいます。

法律も国による強制力はありますが、誰もが守らなければならないという暗黙の前提が崩れて、みんなが守らなくなれば、どんなに国が強制力を発揮してもキリがないでしょう。

●中央管理者への信頼で成り立つ現在のお金

現代社会でお金への「共同幻想」が成り立っているのは、国であれ、銀行であれ、それを責任をもって管理する中央管理者がいて、その中央管理者をみんなが信頼しているからです。その信頼が崩れ去れば、お札は単なる紙切れに、預金は無価値になってしまいます。

では、こんにちの国や銀行のような中央管理組織ができる以前は、お金は何を信頼して成り立っていたのでしょうか。前回、お金には紙や硬貨といったモノを使う貨幣方式と、数字や文字を記載した台帳を根拠にする台帳方式の2種類があると述べました。

多くの方々は、原始時代にお金が誕生したとき、それは貝殻や石のようなモノ、つまり貨幣方式から始まったと思っているのではないでしょうか。その後、経済が拡大し、文明が発達すると、まだ十分に経済の仕組みや国の信用が確立していない間は、金や銀や銅など、誰もが価値があると思うモノで貨幣が造られるようになり、共同幻想がなくても広くお金が流通できる時代に入っていきます。こうした重い貨幣では不便ですから、やがて、国や王様、領主様たちは、金や銀と交換できる証書として紙幣を発行するようになります。

中央銀行制度ができて以降も、20世紀の後半まで、紙幣の価値を最終的に保証するのは、それが金と交換できる兌換(だかん)紙幣であるということでした。これを「金本位制」と言います。第二次大戦後は、アメリカのドルだけが金との兌換を保証されることになり、各国のお金はドルと交換すると、それをアメリカの中央銀行に持ち込めば金と交換してくれることになっていました。

しかし、金本位制だと、金の量が経済の拡大に追い付かなくなります。ついに1971年のニクソンショックで、アメリカはドルと金との交換をやめました。その後は、お金の価値を最終的に保証するのは国であり、その国の経済政策や銀行制度がしっかりしていることだということになりました。これを「管理通貨制度」と言います。紙幣や硬貨といった貨幣であれ、預金のような台帳方式のお金であれ、中央管理者がしっかりしていることで担保されている共同幻想が、お金に対する人々の信頼の拠り所になっているわけです。

●仮想通貨の技術基盤としてのブロックチェーン

こうしたお金の歴史のいちばん最初にあるのは、実は、貝殻や石などの貨幣方式ではなく、台帳方式でした。これは最近の考古学の研究でわかったことです。ヤップ島という所で、古代の人々は固い石板に、経済的な価値のやりとりを刻み込んでいました。これが人類史上で最初のお金だとされています。

当時は、誰も改ざんができないように固い石板に彫り込んでいたのと同じことを、現在の高度な情報技術で再現しているのが、ビットコインで知られる仮想通貨(暗号資産)なのです。この情報技術として現在使われているのが、電子データを改ざん不可能な形で記録し、保存し、管理することができる「ブロックチェーン」と呼ばれる仕組みです。

しかも、この仮想通貨は、電子データを台帳方式で管理する点で、私たちがお金として使っている銀行預金とも同じです。ただ、銀行預金は国や銀行といった中央管理者によって管理、運営される中央集権的な仕組みのもとに置かれた台帳です。そして、そうした中央管理者への信頼で成り立っているお金です。

これに対し、仮想通貨は、そうした中央管理者が存在しません。取引に参加する個々の参加者同士が、中央管理者を介さずに、経済的な価値をやりとりし、その正しさを参加者みんなで確認するかたちで運営される台帳です。これが、参加者どうしが直接、P2P(peer-to-peer)でやり取りする「分散型」と呼ばれる仕組みです。

つまり、銀行預金は中央集権型の仕組みであり、中央管理者への信頼で成り立っているのに対し、仮想通貨に使われているブロックチェーンは、分散型の仕組みであり、技術への信頼で成り立っていることが大きな違いです。

●仮想通貨の真正性が担保される仕組みとは?

信用できるのは国や銀行などの管理者なのか、それとも技術なのか、どちらを選ぶかは価値観の問題かもしれません。ただ、国は経済政策に失敗することがあります。銀行も経営が行き詰まることが絶対にないとはいえません。それよりも、時間や空間を超えて真理であり続ける技術のほうを信用するという人がいてもおかしくないでしょう。

では、ブロックチェーンという技術はどうして信用できるのか…。

ここでブロックチェーンの仕組みを解説しなければなりませんが、実は、これを一般の方々にわかりやすく説明するのは至難の業なのです。ある地方公共団体の職員研修で、この分野では日本の第一人者である大学教授が解説していたときに私も講師として同席していましたが、皆さん、チンプンカンプンでした。むしろ、私のような技術の専門家ではない「文科系」人間のほうがわかりやすく説明できるかもしれません。でも、以下が本当にわかりやすいかどうか、自信はありません。がんばってみます。

ビットコインを例に解説を試みてみますと、ある人がある人にビットコインで送金する取引をします。そうした取引をまとめて電子的に記帳して、一つのブロックをつくります。ブロックとは、取引(トランザクション)をまとめたものです。

このブロックをつくることをマイニング(採掘)と言います。ブロックをつくるためには、ハッシュ値とかナンスと呼ばれる数値を計算する必要があります。この計算は、前のブロックに記帳された数値情報や、まだどのブロックにも属していない取引を集めて行う計算です。これに成功すれば、新たなブロックが配信されます。この計算はコンピュータを用いて行う、とても複雑な計算です。参加者たちが競争して計算します。

この数値計算の複雑さをイメージさせる説明方法として、よく素因数分解が挙げられます。30を素因数分解すると、2×3×5、であることはすぐに計算できますが、これが何十桁の素因数分解となると、無数にある素数を一つずつあてはめて計算するしかありません。いっぺんに素因数分解ができるような方程式などが存在しないからです。こうした数値のあてはめ作業のようなことで、コンピュータによる膨大な計算が必要になっています。

最初に計算結果を出した人が、このゲームの勝利者です。勝利者がつくるブロックに、新しい取引が記帳されます。勝利者はご褒美(報酬)として、ピッコインを受け取ります。これがビットコインのマネーサプライ(新規に生み出されるお金)になります。

このマイニングの競争に参加している人たちを「マイナー」と呼びます。このゲームに世界中のマイナーが参加することで、常時、世界中の膨大な数のコンピュータが回っています。それにかかる電気代は、アイルランド一カ国分ともいわれ、膨大な電力を消費しなければならないことが難点です。だいたい10分に一つずつ、新しいブロックがつくられています。前のブロックが、そのブロックに基づいてつくられる新しいブロックとつながり、さらに次のブロックへとつながっていく。ブロックが次々と鎖(チェーン)のようにつながっていることから、ブロックチェーンと呼ばれます。

取引の正しさは参加者みんなで確認しています。どこかのブロックに記帳された取引データを改ざんすると、次のブロックと数値が合わなくなってしまいますから、不正がバレてしまいます。どこかのブロックの数値から前のブロックの数値を計算してブロックを再現することもできません。数値計算の方法がそうなっているからです。

こうして、この台帳のデータは正しいものとして改ざんができないようになっています。暗号技術によって、昔のヤップ島の石板が電子的な台帳のかたちをとって、より高度な方法で再現されて進化したのがブロックチェーンだと言ってよいかもしれません。

以上、ブロックチェーンについて、おわかりいただけたかどうかわかりませんが、イメージはつかんでいただけたでしょうか。

●21世紀は分散型社会に変化

そもそも、これまで人類の文明は、中央集権的な仕組みを高度化させることで発展してきたと言っていいでしょう。銀行や金融だけでなく、どの社会の仕組みも、それぞれを管理運営する中央管理者への信頼で成り立ってきました。実は、ブロックチェーンとは、仮想通貨の基盤としてだけでなく、社会のさまざまな仕組みに実装されることで、人類社会それ自体を、中央集権的な社会から分散型の社会へと変革するとされているものなのです。

21世紀はブロックチェーン革命が進行して、分散型社会に変化していくとも言われます。

さて、いまの仮想通貨は、このブロックチェーンと呼ばれる電子的な台帳に記載されたデータに過ぎません。国や銀行の信用の裏付けのある法定通貨とは異なり、電脳空間に存在するまさに「仮想」的なお金に過ぎないのではないかと指摘されてきました。ブロックチェーンを活用したビットコインの生みの親とされるサトシ・ナカモト論文でも、それは空気のような存在とされているようです。

つまり、そこに経済的な価値があると参加者のみんなが思っているから、経済的な価値があるとみんなが思っている、という共同幻想そのものです。しかし、そもそも人類社会におけるお金というものが共同幻想の産物であるということは、ここで述べてきたとおりです。技術に対する信頼さえあれば、お金としての信用は成り立つ…。

●仮想通貨の問題点

 ただし、21世紀の人類社会を変えると言われるブロックチェーンも、仮想通貨の基盤として使用するにはさまざまな難点があるのは事実です。

当然のことながら、これがインターネットとつながっていないとビットコインなどの仮想通貨の取引はできません。ブロックチェーン自体は安全だとしても、インターネット自体にセキュリティ(安全性)が完全ではないという問題があります。そこで、ハッカーによる攻撃を受けて、仮想通貨が流失してしまう事件が相次いで起こってきました。

セキュリティの問題以外にも、より本質的なブロックチェーン固有の問題点が指摘されています。この仕組みは、参加者がみんなで取引を確認し合うことで信頼性を担保する仕組みですから、巨大なデータのコピーをみんなで共有することになります。

そのため、極端に膨大なデータ容量が必要になり、参加者が増えていくと実用性が低下し、いずれ限界に直面することになるとも言われています。すでにビットコインでは、参加者が増えて取引量が膨大になることで、ブロックに入れられることを待機している取引が増え、取引が遅くなり、手数料も上がるといったことが起こっているようです。

これでは、仮想通貨のメリットそのものが小さくなってしまいます。そもそもビットコインが誕生した頃には、仮想通貨取引への参加者がせいぜい1,000人程度の規模が想定されていたものだったという指摘もあります。

また、新たなハッシュ値の計算はだんだん難しくなっていきますから、コンピュータの側の作業量も膨大化していき、電気代など新たなブロックをつくるマイニングのコストも上がっていくことになります。ところが、ビットコインなど仮想通貨の価格は投機的に乱高下しがちですので、常にマイニングコストを十分に上回る価格が保証されているものではありません。

コストより低い価格となれば、マイナーたちがマイニングから撤退し、ビットコインの新たな「マネーサプライ」も起こりにくくなることになります。一時、ビットコインの価格が低迷していた頃、もうビットコインは終わるなどと、一部でささやかれていました。

そのほか、取引の匿名性が高いためマネーロンダリング(テロや犯罪の資金の隠匿)に使われたりもするなど、色々な問題が言われていますが、大事なのは、指摘されている問題点の多くが、イノベーションによって克服されていく流れにあるということです。

●イノベーションによって進化し続ける仮想通貨

先に、ビットコインは何の価値の裏付けもない空気のような存在だと述べましたが、実は、特定の価値や信用をバックにブロックチェーンを使って発行されるお金も誕生しようとしています。たとえば、中国が発行を計画しているデジタル人民元は法定通貨として国の信用がバックになりますし、いま話題のリブラも、ドルなどの法定通貨で運用する金融資産がバックになることが考えられています。

また、ブロックチェーン技術の使われ方も、現在のような分散型の仕組みではなく、デジタル人民元やリブラのような中央管理型の仕組みとして使われるケースも、これから出てくると思われます。

このように千変万化の可能性を秘めたブロックチェーンですが、これから考えるべき重要な論点としては、第一に、仮想通貨の基盤として使用するのに本当にふさわしい技術なのか、第二に、広く社会実装に使う上で社会を変革するだけの大きなメリットが見込まれるものの、ブロックチェーン技術自体が現段階では黎明期であり、現時点での実用性は明確に見えていない面が多い、といった課題があります。

実は、ブロックチェーンはまだ、これから発展していく技術なのです。お金の基盤としては、日本でも、現在のブロックチェーンを超える技術基盤が開発されてきています。また、社会実装のチャレンジは日本ではこれから始まるものです。

この点はさらに広がりのある議論になりますので、稿を改めてお伝えしてまいります。