決してスーパー台風ではなかった台風19号と防災・減災革命~令和の国づくりの柱に~松田学の論考 | 松田学オフィシャルブログ Powered by Ameba

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日本を夢の持てる国へという思いで財務省を飛び出しました。国政にも挑戦、様々な政策論や地域再生の活動をしています。21世紀は日本の世紀。大震災を経ていよいよ世界の課題に答を出す新日本秩序の形成を。新しい国はじめに向けて発信をしたいと思います。

 儀式の直前に晴れ上がり、虹までかかった10月22日のご即位の礼、晴れやかな新時代のスタートの中で、パレードが台風19号の影響で延期されたことは、令和の新しい国づくりに向けた最大の課題の一つが防災・減災であることを象徴するかのようであった。その後も豪雨災害が相次ぎ、「同時多発」の様相を呈している。政府や自治体がベストを尽くしたとしても、結局は、住民がいかに逃げる行動をとるか、その自覚と意識、さらには、それを日頃から醸成する仕組みにこそ、防災・減災の要諦があることも明らかになってきた。

 

台風19号、防災減災面からの評価と課題

 豪雨による洪水で甚大な被害をもたらした令和元年台風19号も、ひと言でいえば、日頃からの備えが不十分なことが露呈した台風…。東京を中心に関東ではこの数十年間で初めての事態と言われたが、冷静にみれば、こうした評価になるようだ。

 あれだけ猛威をふるいながら、この台風19号は懸念されていた「スーパー台風」ではなく、実は、大型ではあっても、並みの台風であった。中心気圧を示すヘクトパスカル(hp)が低いほど激しい台風になるが、900hp近くで瞬間風速60~70m/sなのがスーパー台風だ。

今回の台風19号は、上陸時は965hp、観測された最大瞬間風速は東京では概ね40m/s台前半だった。かつて、1934年の室戸台風は日本本土上陸時で911.6hp、77年の沖永良部台風は907.3hpで最大瞬間風速は80m/sに達していた。近年はむしろ、台風の規模自体は小さくなっていた中で、沖縄はスーパー台風並みの台風を何度も経験しており、防災は沖縄に学べとも言われる。

 いま懸念されているのは、海水の温暖化で台風のコースが変化し、東京にもスーパー台風がいつ襲うかわからない状況になっていることである。台風19号はそこまでではなかったにも関わらずの大被害だったことにこそ、大きな問題がある。

日本近海の海水温がかなり深くまで温かくなっているようであり、これが現在の日本列島が置かれている状況だと認識し、防災がすでに新しいステージに入っていることを前提に、それに合わせた対策が急がれる。

インフラ面では、各地で起きた堤防の決壊や停電が「コンクリートから人へ」の罪深さを露呈した。長年にわたる公共工事の削減は、いざというときに対応できる人手の深刻な不足ももたらしている。今回のような上中流での決壊がなければ下流での決壊がもっと大きな被害をもたらしたとの説もある。

「堤防神話」はもう過去のもの。豪雨の時は早めに逃げるなど防災意識の徹底が最も重要だ、行政主導の対策はハード・ソフト両面で限界だ、「自らの命は自ら守る」意識へと発想の転換を…多くの識者の意見である。

 

●多くの人々が実感したこと

 では、自助でできることは何なのか。以下、今回、多くの人々が実感したことから考えてみたい。

第一に、「テレビではハザードマップをよく見て…と放送されているが、実際にハザードマップを見てもよくわからない」

やはり体感しなければいざというときの行動に結びつかないのが人間というものであろう。地域ごとにVR(バーチャルリアリティ)を活用して防災教育を住民に徹底することが考えられる。これは筆者が現在取り組んでいる「ジパングプロジェクト」で各自治体に提案しようとしている防災減災パッケージの一項目である。

ただ、多くの人が自分の住む地域のことをあまり知らない。まず自分の地域を知る…「みんなで作るハザードマップ」運動が必要ではないか。

第二に、「スマホでは警報が何度も鳴り、どこかで堤防が決壊、浸水の恐れ、避難所はここ、と表示されるが、自分の家が該当するのかがわからない、警戒レベルが高くても、自分が当事者なのか判断できない」

本当に必要なのは、一戸ごとにテーラーメイドの避難情報が届けられる通信手段であろう。これも、ジパングプロジェクトにおいて開発中である。

ただ、今後、高度な情報技術の活用でそれが実現しても、やはり地域の事がよくわかっていなければ活用できない。分かっていれば、自宅避難も場合によっては立派な避難方法になる。無駄な動きが危険な行動になり、今回もそれによる犠牲者が出ている。

第三に、「避難所にはみんながクルマで駆けつけるので、渋滞や駐車場の問題になり、結局、避難所に入り切れず、クルマの中で過ごすことでエコノミー症候群が多発する。避難所の中は休まらない、プライバシーがなく、疲弊する」これは実際に台風19号が首都を襲う中で、筆者に届いたメールだった。

国際社会には、難民の人権を守る最低限の基準として「スフィア基準」がある。日本の避難所はそれすら満たしていない。1~2日は体育館などでやり過ごすとしても、その後は、「イタリア方式」のように、家族ごとにテントに分けて収容してプライバシーを守るなどの設営を導入すべきであろう。

第四に、「電柱が倒れて停電するリスクはどこに住んでいても存在する」

電力会社に頼らず、非常用電源を各戸ごとに、今こそ備えるべきであろう。

第五に、「コンビニに行っても食料が不足、懐中電灯は台風襲来前に既に売り切れ、買物パニックだ」

食料と水は最低限、一週間分を「ローリング備蓄」する、つまり、日頃食べている物で少し日持ちのする食料品を多目に備え、消費しながら補填していく方式である。水は一人一日3Lとされる。その他、調理用のコンロ(ポンピング式)、ダッチオーブン、ラップと銀ホイル、ブランケット…などが備蓄奨励品だというのが専門家の意見である。

 

常日頃からの自助と共助

 こうした個人の備えの一方で、やはり、日頃から地域の防災に関わっていないと、どう動けばよいかの判断は難しいのが実態である。地域全体での取り組みが不可欠だ。国民も企業も「わがこと」意識をもつことが大事であろう。

また、ソフト対策は自治体の首長によって巧拙が分かれる。住民は首長に注文をつけて緊張感をもたせるべきであろう。

自助、共助、公助のそれぞれの機能について概念図を描いてみたのが下図である。相互に重なり合う部分もある中で、国の役割については提言すべき課題も多いが、それは稿を改めて論じてみたい。

最悪の事態を平時に考え抜き、その内容を地域全体で共有することで、ハザードマップも単なる役所の作った地図から、「わが街」の危険から人々を守る道標になる。

「地方創生」が言われているが、そのカギを握るのは「防災コミュニティ」の構築かもしれない。そのインセンティブを自治体や住民にどう与えるか。これは国がサポートすべき部分だ。

それにしても、洪水による被災が事前に分かっていた場所に新幹線を駐機させていたとは…。そもそもBCP(災害時の業務継続計画)すらなおざりだったと一部の専門家から指摘されているJRだけでなく、今回、似たような事例はほかにも多数みられたようだ。

豪雨のときは一階で寝ないように…このことが共有されていれば救われた命もあった。

何より大事なのは、人々の日頃からの危機管理に対する「意識」ではないか。

防災減災革命は、社会システム全体と大きく関わるものであり、ハード・ソフト両面にわたる対策と社会システムづくりで、日本経済全体の再生への道筋も描かれてくるであろう。令和時代が本格化した今だからこそ、これを危機を新しい日本のチャンスにする道として、真剣に考えるべきであろう。

 

●ご参考 チャンネル桜 19年10月22日放映 松田学のビデオレター↓