消費増税について(その3)~来年度予算の検証:目覚めよ保守派:反対派に敢えて問う~松田学の論考 | 松田学オフィシャルブログ Powered by Ameba

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日本を夢の持てる国へという思いで財務省を飛び出しました。国政にも挑戦、様々な政策論や地域再生の活動をしています。21世紀は日本の世紀。大震災を経ていよいよ世界の課題に答を出す新日本秩序の形成を。新しい国はじめに向けて発信をしたいと思います。

政府は来年度予算案を決定し、そこに今度の消費増税対策を盛り込みました。これまで2回にわたり消費税について論じてきましたが、前回、及び前々回については、下記をご参照ください。

(その1)

https://ameblo.jp/matsuda-manabu/entry-12429319601.html

(その2)

https://ameblo.jp/matsuda-manabu/entry-12429321106.html

●安倍総理の面目躍如?来年度予算と消費税

毎年、クリスマスの時期に財務省から発表される国民へのプレゼント?2019年度の予算の政府案が20181221日に閣議決定されました。ちょうどこの日に消費税の講演をする予定だった私は、その準備のため、いつも閣議決定直後に財務省HPに掲載される来年度予算の資料を見て、100兆円を超えていない?…。事前の報道では一般会計の総額で初の100兆円超えの大盤振る舞い予算とされていたのが、ギリギリ100兆円を下回る99.4兆円。


この微妙な?数字は翌日もほとんど報道されず、総額101.5兆円をベースとした報道ばかりでした。実は、99.4のほうは「通常分」で、101.5との差額の2兆円は「臨時・特別の措置」。財務省としては、この2兆円は来年10月の消費増税の時点で景気が悪化しないための、あくまで一時的な支出で、財政の真の姿は通常分のほうだと印象付けたかったはずです。

確かに、この2兆円の中身の柱の一つは、話題になっているポイント還元やプレミアム付商品券などで、その実施は来年10月から東京オリンピックまでの9か月間に限定されます。財源も預金保険機構からの納付金などの一時的な財源。世の中には消費税の減税を唱える論者もいますが、この期間に限っては、カードなどで支払える中小小売店で生活必需品を買うと、軽減税率で8%、そこから5%のポイント還元で、消費税は3%となり、1997年の増税以前の負担水準に戻ります。アベノミクスの面目躍如といったところでしょうか。


すでに(その1)でも述べたように、税収の全額が社会保障給付に充てられる消費税の場合、増税をしても、その分、社会保障給付が増えれば、国民から国民におカネが移転しているだけのこと、景気には影響しないはずです。しかし、これまでの長年にわたる増税先送りで、消費税の増収分の全てを支出増に回すことは困難です。

その2割だけが支出増に回り、残り8割は社会保障の財源が次世代への付け回し(赤字国債)となっている分を消費税に置き換えることに回すというのが三党合意でした。この8割の部分が景気にマイナスとなる部分です。


今回の2%の税率引上げで消費税収は5.7兆円増えますが、そこから軽減税率で税収は1.1兆円減り、4.6兆円になります。軽減税率に必要な財源としてたばこ消費税などで0.6兆円の増税をするので、国民の負担増は合計で5.2兆円。安倍総理は今回、4,6兆円の消費税増収分から、公約の教育無償化など、3.2兆円を支出増に充てることにしました。

つまり、支出増の部分を2割から7割に増やして、景気へのマイナス分を8割から3割へと減らしたことになります。

このマイナス部分が、負担増5.2兆円から3.2兆円を差し引いた2兆円として残ります。そこで今回、前記の2兆円の臨時・特別の支出をし、加えて住宅ローンや自動車関係で0.3兆円の減税をすることで併せて2.3兆円、負担増を相殺してお釣りがくる、景気への悪影響は無い。このクリスマスプレゼント、あっぱれと言うか、ここまでやるかと言うか…。


早速、206月にポイント還元などをやめられるのか、やめれば景気にマイナスだ、やめられなくて結局は財政拡大だ、財政再建にならない、何のための消費増税なのかといった批判が出ています。ただ、大事なのは、社会保障給付のための支出は何十兆円の規模で毎年度発生し続ける恒常的支出ですから、毎年度入ってくる税収を制度的に確保すること。

そうしないと、私たち世代は子や孫の世代の負担に依存した情けない無責任な世代になってしまうということです。消費増税は財政再建のためというよりも、このことを是正するために行うものであることは、(その1)でも述べました。

 

●国債のストック処理と「松田プラン」

 財政再建ということでいえば、(その2)でも述べたように、大事なのは赤字国債の残高を減らすことです。そもそも政府と日銀のバランスシートを連結させた統合政府でみれば、日本の財政はそれほど悪くありません。統合政府ベースでみれば、私の計算でも、1,000兆円をゆうに超える政府部門の債務は、負債から資産を差し引いたネットの純負債で100兆円程度へと縮小します。

しかし、それでも赤字国債を減らす必要があるのは、金利の問題もあるからです。国債残高がこれだけ大きな状況では、いずれ、金利が正常化した際に、国債利払費で財政が爆発します。現在は異次元の金融緩和でほぼゼロ金利という異常な状態のもと、9兆円に収まっているのが日本の国債利払い費。金利が正常化して3~4%程度までアップしたとき、利払い費の圧迫は2%の消費増税どころではないインパクトを日本の財政と経済の両面にわたってもたらし得るものです。

もし、国債残高を減らすのであれば、それは財政のフローのレベルで毎年度の国債発行額を減らすことでは、現実には到底困難です。むしろ、国債を財政のストックのレベルで消してしまうことが現実的です。会計的なストック処理です。

そのため、まずは、アベノミクスの異次元金融緩和によって日銀がここまで大量に国債を保有する前人未到の地にあることを奇禍として、日銀保有国債が満期を迎えるたびに、これを永久国債へと乗り換えることとします。そして、政府暗号通貨をもってこれを償還する。この「松田プラン」は、現在、国債発行残高の半分を日銀が保有していますから、国債残高を半減させるところまで可能な対策ということになります。

民間と政府との間で行われるさまざまな手続きは、政府暗号通貨に内蔵されたスマートコントラクトで行い、これと一体となった形で政府への納税や社会保険料などの納付ができる政府暗号通貨は、ブロックチェーンの社会実装により実現するトークンエコノミーとして、未来社会の基盤にもなるものです。こうした政府暗号通貨への民間からの需要は大きいでしょう。インフレも財政規律も心配不要です。

異次元緩和で膨らんだ日銀のバランスシートは、その過程で自然と縮小し、金融緩和の円滑な「出口戦略」にもなります。

この松田プランについて、詳しくは拙著「サイバーセキュリティと仮想通貨が日本を救う」の第8章をご参照ください。そこでは、永久国債の活用で消費税率の引上げに際して、国債発行額を増やすことなく、社会保障関係の支払に国民がいつでも使用できる「社会保障バウチャー」をマイナンバーカードに打ち込むという、新規財政財源案の提案も行っています。

 

●消費増税反対論者にあえて問う~保守派は目覚めよ

しかし、これで消費増税の必要性が消えるわけではありません。ここで以下、保守派の方々が主張する消費増税反対論の論拠について検討してみましょう。

よく、増税の前に政府資産の売却を、と言われます。確かに、統合政府ベースでは純負債は決して大きくなく、債務が巨額だと言っても、そのほとんどはバランスシート上、資産に裏付けられています。

しかし、資産の保有とキャッシュが回ることとは別問題です。道路や橋などのインフラなどをみても、政府が保有する資産は簡単に売れませんし、売れてもそれこそ、一回限りの臨時財源にしかなりません。社会保障給付は毎年度必要な恒久的な支出ですから、毎年度入る恒久的な財源が必要です。

政府が自ら事業収入を上げて産油国のように毎年度、恒久的なおカネが入るなら増税は不要ですが、それでは社会主義でしょう。共産党は金持ちに重税を課せば消費税は不要と言っていますが、いずれも、自由な経済活動を重んじる健全な保守の考え方とは相容れないはずです。

世の積極財政派の方々も、よく聞いてみると、永遠に消費増税が不要と思っているのではなく、デフレ脱却との関係で増税の時期の問題を論点としている方々が大半です。ただ、今回は、政府がこれだけの財政措置を講じますし、そもそも日本のデフレの原因は、多くの保守系論者が信じているような、97年の消費増税や緊縮財政が原因ではありません。

財政金融政策がデフレの原因と考えるのは、あまりに呑気です。詳細は別の機会に論じますが、ここ30年にわたる日本経済の不調には、もっと深刻な原因があります。

さらに保守派論客たちは、デフレが克服された暁には、社会保障財源は消費増税ではなく、社会保険料や累進所得税で賄うべきだと主張しているようです。しかし、若者世代にこれ以上の社会保険料負担を課してもよいのでしょうか。

また、累進所得税にせよ、法人税にせよ、資産課税にせよ、それはリベラル革新や共産党の主張ではないでしょうか。これ以上、やる気のある人材や雇用を生む生産現場が海外に出て行っていいのか、そもそも直接税には捕捉がスカスカという問題があり、金持ちからきっちりと税金を取るなら、彼らがおカネを使う段階で消費税で取ったほうが公平になるという現実もあります。


どうも、消費増税に反対することは、少なくとも保守の立場とは根本的に矛盾するものだと思います。

 

●日本は早く社会保障財源の問題にケリをつけて、次の段階へと進まねばならない。

どんな政策論も、まずは物事のメカニズムを正確に理解することから始まります。その上に立ってこそ、真の積極財政派の主張ができます。私は(その2)での主張をご覧いただいても分かるように、消費増税に賛成しても決して緊縮財政派ではなく、むしろ、積極財政派です。日本が早く積極財政に転じられるためにも、消費増税で、今は政府の財源をどんどん奪っている社会保障の財源問題にケリをつけるべきです。このことは、より戦略的な分野への資源配分へと財政の対応力を回復する上で、喫緊の課題ではないでしょうか。

むしろ、日本の国民に迫られているのは、これから将来に向けて、消費税率を10%からさらに引き上げなければならない中で、どうすれば引上げ幅を小さくできるかについての大きな選択です。私が消費増税に反対する保守派の方々に問いかけたいのは、そのために必要な具体的なソリューションは何なのかを示しているのかということです。

例えば、薬漬けの医療を変える、医療システムを電子化する等の改革によって、医療費は兆円単位で削減できるはずです。しかし、これは医療界の既得権益の前に、政治的に極めて困難です。こうした既得利権を敵に回すことを覚悟の上で、あるいは、例えば医療システムのブロックチェーン化に関する技術的なバックボーンに立った上で、消費増税は必要ない、と主張するのでなければ、現実的な議論にはならないのではないでしょうか。

消費税率をどこまで引き上げなくて済むようにできるのか、これは私たちがどのような社会やコミュニティ創りをめざすのか、科学技術の成果の社会実装も含め、まさに「新しい国づくり」に関わる重大な政治課題です。

10%への税率引き上げは少なくとも「マスト」であり、国民的な議論へと政治が意味ある選択肢を競うべきなのは、どのような共同体をどのような思想で構築すれば、消費税率はこうなるという姿です。


2018年は、国外では米朝会談や「米中冷戦」への移行、国内では外国人受入れからゴーン逮捕まで、これまでの秩序が大きく変動する予兆を感じさせる出来事が次々と起こった年でした。その中で、元号も変わり、参院選も行われる2019年は、日本が消費税問題を乗り越えて、いよいよネクストジャパンへと力強く踏み出せる年になることを祈るものです。

 

松田学のビデオレター、第102回は「閣議決定された来年度予算、先送りされなかった消費増税」

チャンネル桜20181224日放映。