米中両大国の狭間にあって日本は何をカードに自国の存在を築くのか | 松田学オフィシャルブログ Powered by Ameba

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日本を夢の持てる国へという思いで財務省を飛び出しました。国政にも挑戦、様々な政策論や地域再生の活動をしています。21世紀は日本の世紀。大震災を経ていよいよ世界の課題に答を出す新日本秩序の形成を。新しい国はじめに向けて発信をしたいと思います。

 麻生副総理とペンス副大統領をヘッドとする日米経済対話がスタート、第一回が4月18日に東京で開かれました。

 TPPの米国抜き11カ国での発効をめざし、米国が参加へと翻意するのを待つというのが今後の2年程度の日本の中期戦略だとすれば、当面の短期の対応は、この日米経済対話でいかに日米FTAなどを回避しつつ、米国との協力関係を強化するかでしょう。

 

●日本が対米交渉で持つカードは何か

 ここで日本に問われるのは、どう出てくるか予測困難とも言われるトランプ政権のディールにどう対応するか。

 先の米中首脳会談で、中国の為替操作国認定は回避されましたが、それは北朝鮮対策で中国からの協力を引き出そうとするトランプのディールでした。日本が今後、日米経済対話でトランプ政権とディールをすることになるとすれば、日本にはどのようなカードがあるのか。

 日本として交渉に臨んでいくに当たって、まず、日米経済摩擦が盛んだった1980年代に比して、米国の貿易赤字における日本の存在が極めて小さくなっているということがあります。米国の貿易赤字(2016年)は全体7343億ドル、うち対中国は3,470億ドルで47.3%と半分近くを占めるのに対し、対日貿易赤字は689億ドルと9.4%(うち自動車関連526億ドル)を占めるに過ぎません(対ドイツは648億ドルで8.8%)。

 ちなみに、対日貿易赤字が占める比率は1981年の70.8%がピークであり、当時に比べれば7分の1以下にまで縮小しています。まさに麻生副総理が日米関係は「摩擦から協力の時代に入った」と述べるだけの環境にあるはずです。

 加えて、対米カードになるのは、日本から米国への投資です。対日貿易赤字は、そのまま日本に対して米国が出している「ロス」(損失)などではありません。

 日本の対米投資で日本は米国で雇用創出に貢献している数字は、80万人とも150万人とも言われます。日本の対外直接投資の3分の1は対米投資です(2015年では、対世界1308億ドル、うち対米449億ドル)。

また、日本は世界の国々の中でも対米投資ではトップクラスの国です。ちなみに、2013、14年は世界首位、15年はルクセンブルクに次ぐ2位でした。米国内での日本の雇用面での貢献は、中国や韓国の約20倍(2014年)とされます。

 国際収支統計でみてみると、日本の対米金融収支(おカネのネットでの供給)は、米国の対日経常収支赤字を上回っています。日本の経常収支黒字は2015年では16.4兆円、金融収支(ネットでの対外資金供給額)は21.1兆円で、うち、対米国の金融収支は15.4兆円となっており、これは対米国経常収支黒字の13.3兆円を上回ります。

 つまり、日本は貿易などで米国から稼いだおカネを上回る額のおカネを米国に資金供給しているのであり、日米経済関係の中で裨益しているのは米国のほうだともいえます。

 こうしたポジションの活用が、日本が日米経済対話に臨むに当たっての基本路線もしれません。

 加えて、日本の対米投資によって生み出される米国製品は、米国の輸出にも大きく貢献していることにも留意すべきです。こうした関係は米中間にはあまりみられません。

 なお、中国との関係でも、米国の対中貿易赤字も、その相当部分を、米国資本による中国現地生産からの輸入が占めているとみられます。

日米も日中も、今や相互依存経済という状態にあるのであり、そもそも二国間貿易赤字を外交上の深刻な問題にすること自体が適切とはいえません。

 それよりも、グローバリゼーションによってここまで相互依存が進んだこんにち、そこに国際的な共通ルールを設定することこそが経済外交の優先課題であるはずです。

 「法の支配」のもとに自由で公正な経済取引を実現する。日本は世界の規範の先導者として、これをリードする。日本の対米交渉のもう一つのカードが「TPP11」(11カ国でのTPP協定発効)であることは言うまでもありません。

 

●巨大化する中国経済

 さて、もう一方の中国の経済は、これからの世界秩序を一変させることになります。

 次の図はOECDの長期推計ですが、購買力平価のGDP規模で、中国経済は米国を追い抜いたあと、2050年には米国を4割以上も上回る規模になります。かたや、いまは第3位の日本は中国の7分の1以下に。

 米中両大国の狭間にあって、日本は果たしてどのような存在を国際社会の中で築き上げていくのか、そんなことを考えさせられる数字です。

 中華人民共和国建国百年の2049年には、中国は米国を追い抜いて世界最高水準の国になる。それまでに中国は失った領土を全て取り戻す、2030年までには尖閣、南シナ海、台湾など、やることをやる、そうした長期展望のもとに中国は動いています。

 舞台装置として、後述の「一帯一路」構想や六大経済回廊、それを実現するための国際協力の枠組みを中国は次々と揃えてきています。

 ただ、その中国経済、足元は決して良好ではありません。最近、中国が人民元安や人民元の流出に悩む背景には、中国経済への不信があります。

 いまの中国経済は、公共投資でなんとかもっていますが、再び、信用膨張が起こっています。融資平台や理財商品も拡大しているようです。

 日本として困るのは人民元の暴落です。それを防ぐための中国当局による介入や資本規制もやむを得ないとの立場です。ただ、最近では、例えば対日投資でも不動産投資は規制され、日本の不動産を取得したい中国事業者は不動産を所有する会社のM&Aに活路を見出しているように、資本流出規制は相当効いているようです。人民元が暴落するような状況にはないという声が中国側から聞こえてきます。

 他方、不動産バブルや過剰設備、過剰債務ばかりが注目される中国経済にとって、今は、むしろ、人件費や不動産価格などのコスト高で、民間企業の事業が困難化していることが大きな問題であるようです。

 秋に中国共産党の人事が行われ、人が代わります。中国経済の先行きは、その人たちに構造改革への意思があるかどうかにかかっています。国営企業改革を本当にできるのか、国営企業の競争力を高められるような市場志向の改革に奏功するのかどうかです。

 

●中国の「一帯一路」構想にどう向き合うのか

 過剰設備や過剰生産能力のはけ口として中国が打ち出しているのが「一帯一路」構想です。中国を中心に、東は東アジアから西は欧州まで、北はロシアから南はインドや中近東までを、陸と海で結ぶ現代版シルクロードとして、インフラ整備を核に一大経済圏を形成しようとする、「偉大なる中国」に向けた習近平の野望です。

 

 先日来日したサウジアラビアのサルマン国王も、日本のあと中国を訪れ、習主席と会談、一帯一路に賛同すると表明しました。中国で生産過剰の鉄鋼やセメントを使い、サウジ関係の空港や港湾を整備しようと考えているものと推察されます。

 3つばかり、指摘しておきたいと思います。

 第一に、世界や国際社会にとって何のための「一帯一路」なのか?です。果たして、習主席は、その大義名分を国際社会にどのように言えるのか?ということが問われます。

 これだけの巨大地域を世界に生み出そうとするのであれば、市場経済化であれ民主化であれ、そこには世界全体に対して貢献する何らかの理念的価値が打ち出されるべきでしょう。そうであってこそ、国際社会と調和し、世界各国から受け容れられる現実的な構想になると思います。

 しかし、それが見えていません。

 恐らく、一帯一路構想それ自体は、中国の国益そのものでしょう。中国の本音は、上海条約機構を中心に安全保障の観点や資源確保の目的から中央アジアの国々を取り込むことにあるようです。

 もう一つ、人民元の国際化を、やりやすい所から進めるということもあるでしょう。中国はもともと、成長する東南アジアを狙っていますが、そこには南シナ海問題も絡み、複雑なので、まずはやりやすい地域からということがあるようです。

 第二に、一帯一路構想に対する日本の立場ですが、現時点では少し距離を置いています。日本政府筋の見方は、そもそも一帯一路は何をしようとしているのかよくわからない、5月に「一帯一路サミット」を開催し、世界各国首脳を招へいするようだが、これも何のことなのか、日本に対して何かを言ってきているわけでもない、というものです。

 日米の不参加で話題になっているAIIB(アジアインフラ投資銀行)も、「一帯一路」とは切り離されたというのが、日本の財務省高官の認識です。AIIBは一帯一路のためのものではないということが明確化され、一帯一路を担うことはやめた、一帯一路は中国の自分のカネでやるものだ、他の国際開発金融機関などとも無関係だという認識です。

 第三に、これが、広くユーラシア大陸に中国が主宰する国際秩序を形成しようとするものであるなら、日本としてどうするかという論点です。

 

●米中両大国の狭間にあって、日本の針路は?

 私は、だからこそ、日本はインフラ整備で「価値観外交」を主導すべきだと考えます。

 かつて第一次安倍政権のときに唱えられた価値観外交とは、「普遍的価値(自由主義、民主主義、基本的人権、法の支配、市場経済)に基づく外交」でしたが、第二次以降の安倍政権はこれを唱えず、現実主義と勢力均衡に徹してきました。

 トランプ大統領の誕生で、米国がこうした普遍的価値を世界に唱道する「ウィルソニアン」的米国ではなくなるとされ、その役割を米国に代わって日本が担うことが期待されるようになっています。

 ここで問われるのは、これまで米国との協調で発揮してきたルール形成やアジェンダ設定での指導力を、日本が自ら主体的に行使できるかどうかです。それは日本が、世界の経済システムを先導し、「なるほど、日本だ」と見られる国になり、世界かくあるべしとの「規範の先導者としての日本」になることを意味します。

 ただ、大事なのは、元は欧米が生み出した「普遍的価値」だけでなく、この際、そこに日本らしい何かを加えた新しい価値を普遍化する営みではないでしょうか。日本の国民性は特定の理念を押し付ける「宣教師」ではありません。

 一人一人の国民の営みがクールとして自然に受け容れられる形での国際的影響力こそが日本の強みです。日本は従来型の覇権国とは大きく異なる、新たなタイプの大国をめざす。

 日本の国民性に根差した日本型の価値、その最も具体的で分かりやすい分野として挙げられるのがインフラ整備です。

 日本が打ち出している「質の高いインフラパートナーシップ」の根本思想として、日本の国民性である「共に働き、共に分かち合う」を位置づける。相手国の目線に立って、日本ならではの質を世界にインフラと言う目に見える形で生み出していく。

 2016年のG7の場で、日本は、現地の民生向上、雇用創出、環境、社会との調和、持続可能性、ライフサイクルコストといった「伊勢志摩原則」を合意へと持ち込みました。こうして世界のインフラ整備に一定のスタンダードを設定する営みは、その根本にある、相手と同じ目線に立って共に公益を実現しようとする日本型協働の精神を普遍的価値として規範化するものといえます。

 このようにして生み出される「日本新秩序」を国際的なデファクトスタンダード化することで、「世界新秩序」形成を主導する国になる。そこに、米中両大国の狭間に立つ日本の存在や針路を見出したいものです。

 

松田まなぶのビデオレター、第60回は「相互依存の日米中と日本の針路」。チャンネル桜4月18日放映。