成立した補正予算と経済対策の効果~財政再建の「不都合な真実」?~松田まなぶのビデオレター | 松田学オフィシャルブログ Powered by Ameba

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日本を夢の持てる国へという思いで財務省を飛び出しました。国政にも挑戦、様々な政策論や地域再生の活動をしています。21世紀は日本の世紀。大震災を経ていよいよ世界の課題に答を出す新日本秩序の形成を。新しい国はじめに向けて発信をしたいと思います。

 10月11日に国会では今年度2016年度の第二次補正予算が成立しました。

 これは今年8月2日に閣議決定された事業規模28兆円超の大型経済対策、「未来への投資を実現する経済対策」を実施するための、第一弾の予算措置です。

 アベノミクス3本の矢の一つ、「機動的な財政政策」のもとで安倍政権が景気対策を盛り込んだ5回目の補正予算による財政出動です。

 まず、今回の特徴を簡単に整理してみます。

 

●財政投融資を含めた「財政措置」

 一つは、今回の経済対策について、安倍総理が「財政措置」という言葉を使っていることです。いわゆる「真水」(後述)と言われる予算措置だけでなく、今回は、大型の「財政投融資」の追加が行われました。

 国債がマイナス金利となり、国債(財投債)を主な財源とする財政投融資は、長期固定の最も低い金利ですから、これを活用すれば採算の合う事業も出てくるという意味で、現在はチャンスということになります。

 経済対策の事業規模は全体で28.1兆円、うち「財政措置」は、「国と地方の歳出増」で7.5兆円、この財政投融資の追加6.0兆円を加え、13.5兆円とプレイアップしています。

 確かに、一般会計の補正予算規模だけでみると、表面上は3.3兆円に過ぎませんから、政府のおカネが出動する規模はそんなものではないと、アピールする必要があります。

 この「財政措置」と予算などとの関係はやや複雑なので、解説してみます。

 「財政措置」13.5兆円のうち、「国と地方の歳出」は7.5兆円、うち、国の支出が6.2兆円で、残りが地方、国については、今年度の補正予算では、一般会計の4.1兆円のほかに、特別会計の0.5兆円があります。国の6.2兆円の残りは来年度以降の予算で措置されます。

 もう一つの財政措置の財政投融資6.0兆円のうち3.6兆円が、補正予算とともに今年度の財政投融資計画の追加として措置され、残りは、来年度以降の財政投融資計画になります。

 内容面では、今回の経済対策の柱は4つです。

①第一に、安倍政権が掲げる「一億総活躍社会」の実現のため、子育てや介護、若者や女性といった項目が並んでいます。

②第二に、「21世紀型のインフラ整備」ということで、前記の財政投融資を活用して、リニア中央新幹線の開業前倒しや、整備新幹線の前倒し整備などが並んでいます。

③第三に、中小企業や地方創生などで、少し長いですが、「英国のEU離脱に伴う不安定性などのリスクへの対応並びに中小企業・小規模事業者及び地方の支援」と銘打っています。やはり、消費増税を延期したほど世界経済のリスクが高まっているということのアピールでしょうか。事業者の資金繰りを支援したり、生産性向上の施策などが並んでいます。融資枠の追加などを事業規模としていますので、財政措置は極めて小さな数字です。

④第四に、「熊本地震や東日本大震災からの復興や安全・安心、防災対応の強化」。

 

●規模と財源、国債追加発行

 今回の対策は安倍政権のもとで最大の規模です。過去最大は、リーマンショック後の麻生政権のときの事業規模56.8兆円ですが、安倍政権誕生直後の12年度(13年1月決定)の20.2兆円の大型対策を大きく上回ります。

 今回の対策のもう一つの特徴は、補正予算で国債を2.8兆円、追加発行することです。

 これは安倍政権第1回対策で5.2兆円の国債追加を補正予算で行って以来のものです。

 その後は、補正予算では国債の追加発行が行われてきませんでした。

 では、財源はどうしてきたのかといえば、アベノミクス初期段階の円安などが効いて税収が当初予算の見込みを上回ってきたことから、その上振れ分や、前年度の剰余金などを活用してきました。このほかに、当初予算での既定経費を削減して財源にしている分もあります。これは、超低金利のもとで、当初予算段階よりも国債利払い費が浮いた分が主たるものです。

経済対策で歳出を追加しても、うち、歳出削減分を財源にしている分があるので、補正予算全体の規模は、その分、縮小します。

 今回の補正予算でも、一般会計の歳出追加分は4.1兆円ですが、規定経費を8,300億円ほど削っていますので、一般会計補正予算の全体の規模は3.3兆円となります。

 この3.3兆円の財源は、税外収入と前年度剰余金受入を併せた5,400億円以外は、2兆7,500億円の国債追加であり、その全額が建設国債です。

 今回は、最近の円高もあって補正予算の財源を税収増に頼れませんでした。

 公共事業や出資金、貸付金の財源となる建設国債は、将来に資産を残す借金として財政法上、許されていますが、こちらは増やしても、財政規律の観点から、将来にツケだけを残す赤字国債については、補正予算で減額の努力がなされてきたことが、上図をご覧いただくとわかります。

 ただ、ことマクロ経済効果という観点からみると、国庫に入った税収は、これを使わずに貯めこんだり、国債の減額に充てたりすれば景気にはマイナスですから、これを使ったところで経済効果は中立的に過ぎないといえるかもしれません。

 国債を追加発行してこそ、政府部門はネットで支出増となり、マクロ経済効果も出てくるという理屈になりますが、確かに、国債追加発行なしの時は経済効果も小さかったようです。

 

●経済対策の効果と「真水」の議論

 国債発行を追加した12年度の第1回対策では、下図のとおり、その経済効果は主として13年度に発現し、政府投資が大幅に伸びて、GDPを押し上げました。

 国債発行残高は増大し続けていますが、その年度全体での純増額も、12、13年度は30兆円台後半の高い水準でした。

 

 しかし、補正予算で国債を減らした14、15年度は、国債発行残高の純増増も30兆円前後と低く、対策の効果もパッとしていません。特に14年度は消費増税で国債発行の増え方のペースダウンは大きく、緊縮財政策となってしまい、経済はマイナス成長に陥りました。

 今回の対策を策定する直前の本年7月時点での政府見通し(年央改定試算)では、実質経済成長率は、16年度は0.9%、17年度は1.2%と想定されていましたが、それが国債追加発行に再び踏み切った今回の対策で、どれ位アップするかが注目されます。

 さて、ここで不思議なのは、経済対策のGDP押し上げ効果についての政府発表の数字が、経済対策の事業規模に比して極めて小さく、控えめな数字になっていることです。

 安倍政権第1回、第2回の対策では、事業規模の数字の半分、あるいは3分の1程度しか、GDP効果にカウントされていません。今回はもっと控えめです。

 ここで常に出てくるのが「真水」の議論です。つまり、国の措置として公共事業などの「やりっぱなし」の予算支出だけが確実にGDPを押し上げる「真水」であって、他は「泥水」であり、実際の効果は不明か、無いという見方です。

 私はかつて、大蔵省から経済企画庁に出向していた際に、経済対策のたびに、その効果の政府発表試算値を出すことも担当していましたが、当時から真水論は甲論乙駁でした。

 その賛否両論については下図のとおりですが、より少ない財政負担で対策の効果をアピールしたい大蔵省と、エコノミスト達とが、これを巡っていつも、対立していました。

 

 ただ、財政投融資のように返済が必要なおカネでも、民間では提供できない長期固定低利の資金が供給されれば、それによって可能になる事業も出てきますし、そこに協調融資で民間からも資金が出てきて、実際に事業が遂行されれば、事業規模に相当するGDP押し上げ効果はあるはずです。

 確かに、前述のように、事業規模と財政支出の間には大きな差がありますが、経済対策の効果が予算支出分だけというのも言い過ぎでしょう。

 経済対策と財源との関係を示したのが下図ですが、財源が税金であっても、金融市場からの資金調達であっても、それで出てくる事業規模が実際にどれぐらいかというのが、GDP効果であるはずです。

 

●経済対策のGDP効果はなぜ大きくないのか

 しかし、それにしても、これだけの事業規模なのに、実際に、GDP成長率がそれだけ高まっていないのも事実です。せっかくの大型対策なのに、効果はどこに行ってしまうのか。

 そもそも根本的に、政府が「笛吹けど」、民間は「踊らず」ということがあります。

 GDPに占める個人消費は約6割、民間設備投資は14%、両者併せて4分の3、政府が景気対策で直接コントロール可能とされる政府投資は、GDPの20分の1足らずです。

 ただ、根本的な問題として、経済全体のマクロバランスでみた場合、財政再建は、そのものが景気を悪化させる要因であるという「不都合な真実」があります。

 もし、財政政策をマクロ的な景気浮揚策に使うなら、マクロ的には、財政赤字が拡大しなければ効果がないことになります。

 つまり、これは国民経済全体で常に成り立つ恒等式になるものですが、貯蓄投資バランスというものがあります。

 一国全体の貯蓄と投資は事後的に必ず一致します。経済を民間部門と政府部門に分ければ、民間部門の貯蓄超過の幅と、政府部門の赤字の幅は必ず一致することになります。

 民間部門の貯蓄超過とは、民間貯蓄から民間投資を差し引いた数字です。

 政府部門の赤字が縮小すれば、民間部門の貯蓄超過が縮小するような調整が、マクロ経済には起こりますが、それが民間部門の投資が増える形で行われない場合、民間部門の貯蓄が減る方向に経済が動きます。

 貯蓄は所得の一定割合ですから、理屈からいえば、貯蓄を減らす方向に経済が動くということは、国民所得が減る方向に経済が動くということになり、GDPには下方圧力がかかり、景気が悪くなります。

 借金の返済は、貯蓄の増大です。民間部門が不良債権を処理すれば、民間貯蓄が増大し、それに見合う民間投資の増大がなければ、貯蓄よりも低い水準にある民間投資とバランスするよう、貯蓄が減る方向に経済の調整が起こり、上記と同じように国民所得への下方圧力→不況、ということになります。日本で長年続いてきたデフレの原因です。

 政府が借金を返せば、これも民間貯蓄を増大させ、同じような現象が起こります。

 以上は経済のいわば「生理現象」です。

 財政の「不都合な真実」といえば、普通は、財政再建(増税)を先延ばしすればするほど、いずれ、国民は気の遠くなる負担増を余儀なくされることを意味しますが、財政再建はデフレ効果をもたらすということも、逆の意味での「不都合な真実」といえます。

 要するに、財政再建は、民間経済の勢いが十分に強くて、それによるデフレ効果を相殺できるだけの民間投資の増大が生じているような局面においてしか、できるものではないということになります。

 これは逆にいえば、景気対策のために財政拡大をする場合、それが効果をあげるためには、財政赤字の拡大を伴わなければならない、つまり、国債の追加発行などで国債残高の純増額が前年度よりも拡大しなければ、マクロ経済的には効果がないことを意味します。

 もちろん、財政赤字が拡大しても、財政出動が民間投資を刺激して、民間投資の増大が税収を増やして財政赤字を縮小させるまでの規模で生じれば、財政再建には矛盾しないでしょう。

 財政のプライマリーバランス目標のもとで、アベノミクスの第二の矢、「機動的な財政政策」に問われるのは、それがそこまでの民間投資刺激効果をもたらすに足るだけの内容のある財政支出なのかどうかだということになります。

 これは結構、大変なことです。

 やはり、景気と財政再建の「二兎を追う」ためには、財政金融政策にもう一工夫が必要です。

 これが、私が「永久国債オペ」(政府と日銀との間のデット・エクイティー・スワップ)を提唱する理由でもあります。

 このことについて、さらに論考を深めていきたいと思います。

 

 松田まなぶのビデオレター、第47回は「成立した補正予算とその財源」、10月11日放映。