アベノミクス異次元緩和による財政再建効果を永久国債で確定させるために必要な3つの原理原則 | 松田学オフィシャルブログ Powered by Ameba

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日本を夢の持てる国へという思いで財務省を飛び出しました。国政にも挑戦、様々な政策論や地域再生の活動をしています。21世紀は日本の世紀。大震災を経ていよいよ世界の課題に答を出す新日本秩序の形成を。新しい国はじめに向けて発信をしたいと思います。

アベノミクス異次元緩和による財政再建効果を永久国債で確定させるために必要な3つの原理原則

 このところ、松田まなぶのビデオレターでは「永久国債とヘリコプターマネー」をテーマに取り上げていますが、いずれも劇薬です。劇薬はそのままでは服用できません。
 デフレを克服するなら、おカネを刷ればいいんだ、そのような床屋談義がなぜ、現実の政策にならないのか、ヘリコプターマネーを本当にやるなら、原理原則の設計が必要だからです。政治家がそのような次元で議論するようになってこそ「経世済民」が実現すると思います。

●通貨発行益による財政再建
 すでにこのブログでも論じたように、「統合政府ベース」で考えると、日銀が国債保有を増やせば、その分、政府の負債は減少し、それは日銀の負債(マネタリーベース)に置き換わります。アベノミクスの異次元緩和は、財政再建と成長通貨供給を同時達成していることになります。


 加えて、政府の金利負担も事実上、軽減されます。
 日銀が保有する国債について、政府は日銀に金利を支払いますが、この国債と見合いの日銀の負債は日銀券と当座預金です。
 それも債務ですが、償還期限も利子もなく、公的債務とは性格が違うものです。
 日銀は、この金利差、つまり、[政府からの国債金利収入]-[基本的にゼロ金利]の金額だけ、収益を得ることになります。


 日銀の負債のうち当座預金の金利は、準備預金はゼロ、過去の超過準備は0.1%、本年2月のマイナス金利導入以降の超過準備はマイナス0.1%ですし、金融引き締め時にはこれら当座預金の金利を引き上げることも考えられますから、正確にいえばゼロではありませんが、基本は日銀券と同様、ゼロとみなされています。

 ですから、日銀は保有国債についての金利分だけ収益を得ることになります。
 これを「通貨発行益」と言います。
 日銀の収益は国庫納付されます。
 すなわち、日銀は、国債の保有で政府から受け取る金利収入をほぼ丸ごと、政府に納めることになります。
 政府からみれば、国債の利払い費が「行って来い」で返ってくることになります。
 
 2016年度予算では、一般会計96.7兆円のうち約10兆円(9.9兆円)で約1割(10.2%)を占めるのが国債の利払い費です。
 これが、異次元緩和が出口を迎えて、現在の異常な低金利から金利が正常化し、金利が上昇すれば、利払い費の財政負担は劇的に増加していきます。
 今年度末で国債発行残高は838兆円ですから、金利が現在よりも2%アップすれば、国債が新しい金利で借り換えられていくことで、単純計算で838×2%=約16兆円も、この利払い費が増えることになります。
 日銀が国債を持てば持つほど、この利払い費を節約できることになりますので、金利上昇時に向けた備えになります。

●政府貨幣の通貨発行益
 さて、通常、通貨発行益でイメージされるのは、政府が貨幣を発行できる特権を行使すれば、それがそのまま財政収入になるということです。
 通貨発行益とは、貨幣の額面と製造費用との差額です。1万円紙幣の製造費は20円程度ですから、1万円札を発行すると9,980円が利益として生み出されます。
 かつて徳川幕府の265年間で金貨の改鋳は9回、小判に含まれる金の含有量は慶長小判の15グラムから万延小判の2グラムにまで減少しました。
 額面との差分がお上の財政収入になったわけです。
 紙幣の製造コストはほとんど無視できるので、政府は政府紙幣の発行で、発行額面金額とほぼ同額の財政収入を得られます。

 日銀が永久に国債を保有すれば、日銀の国債保有による金利差で得られる前記の通貨発行益は、この政府紙幣の通貨発行益と数学的に一致します。
 永久国債を日銀が永久保有すれば、そうなります。

●何事にも規律、disciplineが大事
 だったら、何も永久国債などめんどうなことは考えず、政府紙幣を発行して国民に配れば、国民はすぐに通貨発行益を購買力の増加の形で享受できるではないか、そのほうが「ヘリマネ」として分かりやすいということになるでしょう。
 また、もし永久国債を使うなら、政府が永久国債を新規発行して日銀に引き受けさせ、それと見合いの金額を国民各人の預金口座に振り込めばいいではないかということにもなるでしょう。
 しかし、この議論には致命的な欠陥があります。
 それはマネーを無限に生み出せる「打ち出の小槌」が一国の経済にビルトインされてしまうことです。

 確かに、通貨価値が高まりすぎているデフレ局面では、おカネの増発で通貨価値を毀損する政策は方向としては正しいでしょう。
 しかし、この装置が一旦発動されると際限がなくなり、単にインフレの原因という以前の問題として、経済的な側面から捉えた人間という存在から、およそ規律というものを喪失させることになります。
 制約あってこその創意工夫です。希少性あってこその効率的かつ有効な資源配分です。政治的にもパンドラの箱を開けることになります。
 このような単純なヘリマネ論であれば、あえて論考する必要はありません。

 何事もdiscipline、規律や原理原則が必要です。
 それなくしていかなる提案も、現実的な政策には近づきません。
 だからこそ、どのような規律を組み立てれば、いま話題のヘリマネ論が意味ある政策に近づくことができるのか、それを考えるところに「解の存在する空間」があり、私が「永久国債とヘリコプターマネー」をあえて論じる理由があります。

●3つのdiscipline
 そのような基本的なdisciplineとして、ここでは次の3つを設定したいと思います。
[discipline①]…局面の区別。
 政府と日銀が合意するインフレ目標(今の2%なら2%)を境に、次の2つの局面を明確に区別する。
<デフレ克服期> 統合政府ベースで財政金融政策を一体運営する局面。第二次大戦後、世界経済ではインフレが続き、経済政策も諸制度もインフレを前提に営まれてきた。デフレ局面では、従来の政策の常識を転換し、ときには逆転させることが正解になる。
<マイルドインフレ期> 日銀の独立性を確保する。従来の経済政策の常識に回帰。

[discipline②]…範囲の限定。
 デフレ克服期に採られる措置は、マイルドインフレ期の政策を大きく制約しない範囲にとどめる。

[discipline③]…財政規律。
 そもそも財政規律とは何をめざすものかの原点に立ち返ると、それは、各世代ごとに受益と負担が極力、バランスするよう図ることにある。将来世代に資産を残す建設国債とは異なり、ツケ回しだけを残す赤字国債(財政法で禁止)までもが60年償還ルール(後述)のもとで次世代、次々世代に元利返済の負担を課すのは罪深い。赤字国債の償還負担を抑制あるいは削減することをもって、財政規律とする。


●日銀保有国債を永久国債に乗換えると…
 さて、日銀による国債保有は、統合政府ベースでの政府の負債を削減するとともに、通貨発行益を通じて国の利払い費を実質的に削減することになりますが、いずれ今の異次元緩和政策が出口を迎え、日銀が保有国債を売却するようになると、こうした財政再建効果は消滅してしまいます。
 金利は民間(統合政府外)に支払うことに逆戻りしますし、マネーは政府債務に戻ってしまいます。

 アベノミクスの財政再建効果を持続的なものへと確定させるためには、異次元緩和で積み上がった日銀保有国債は満期まで売却せず、満期が来たら同額の国債を購入して乗り換えることを続けていく必要があります。

 ならば、日銀保有国債は、満期が到来したものについては、その都度、政府が永久国債を発行して日銀に引き受けてもらうことで、順次、永久国債に乗り換えていき、これを日銀が半永久的に保有すればよいということになります。
 これで財政による金利負担が永久に浮くだけでなく、永久国債は元本を返済しなくてもよい国債ですから、その分、元本償還のための負担も消えます。
 2016年度予算に計上されている債務償還費は13.7兆円と、全体の14.2%を占めていますから、これが大幅に軽減されることになります。

 ちなみに、先の利払い費と併せた国債費は、一般会計の約4分の1を占めるに至っており、いずれ将来、この比率が3割、4割、5割と上昇していけば、日本の納税者にとっては、過去の世代が残した借金の元利返済のために血税を納める度合いが高まっていくことになります。
これをいかに軽減するかが、将来世代に対する私たちの責任です。

 日銀保有国債を永久国債に乗り換えて日銀が永久保有する。
 このオペレーションの対象となった政府の負債は、日銀に封じ込められて世の中から消え、完全に処理されます。
 究極の財政再建措置といえるでしょう。
 ただ、これだけでは現実の政策論にはなりません。
 次回のビデオレターでは、日本の国債償還制度と関係づけながら、この点に踏み込みます。

松田まなぶのビデオレター、第43回は「永久国債で担保する財政規律」チャンネル桜、8月16日放映