永久国債とヘリコプターマネー、松田まなぶのビデオレター、日銀当座預金(ブタ積み)の誤解も正す
「永久国債の研究」の著者でもある松田まなぶが、ビデオレターで、いま話題のヘリコプターマネーを取り上げました。
この「ヘリマネ」、実は、国債の貨幣化という意味ではすでにアベノミクスが実践しています。これは政府の負債を日銀の負債、すなわちマネーへと変換するオペレーションです。
日銀の国債購入によって政府と日銀との間で債権債務をチャラにし、その分が日銀の負債としてマネーになる。元利返済負担が必要な国債を、金利ほぼゼロの無期限日銀債務に切り替える。
そこに永久国債を組み合わせるとどうなるか…。
●ヘリコプターマネーとおカネ
このブログでも先日ご紹介しましたが、2009年発刊で今は絶版の著書「永久国債の研究」が、発刊時1,000円程度がアマゾンで一時10万円の値をつけるなど、俄然注目を浴びています。
これは、米国バーナンキ前FRB議長が日本の首相官邸を訪問した際に、ヘリコプターマネーだげでなく、永久国債に言及したことが契機になったものです。
政府は8月2日に約28兆円余りの大型経済対策を決定し、その直前の7月29日には日銀は金融政策決定会合で「金融緩和の強化策」としてETF(上場投資信託)の買入を現行の3.3兆円から6兆円とすることなどを決定しました。
財政と金融が一体となってデフレ克服の決定打になることが期待されていますが、金融政策については2%のインフレ目標からはほど遠く、金融機関から国債を「爆買い」する異次元金融が行き詰っているとの懸念も強まっています。
確かに、日銀はすでに国債発行残高の1/3を保有するに至っており、ネットで年間80兆円、満期償還分の補填も含めればグロスで120兆円と、年間の国債の市中発行額に近い額の国債購入を続けています。
今年2月に打ち出したマイナス金利も評判が悪く、これ以上、国債爆買いとマイナス金利の両者を深堀りするのは限界との指摘もあるなかで、さらなる大型の緩和策としてマーケットの一部などから注目されているのがヘリコプターマネーです。
そもそも「ヘリマネ」とは何なのかは上図をご覧ください。
かつてM.フリードマンが、空からお札が降ってきたら物価は必ず上昇すると言った通りなのですが、具体的な実行方法は2つあり、そのうちの一つ、「公的債務の貨幣化」は、実は、安倍政権がアベノミクスですでに実施しています。
よく、いまの異次元緩和で日銀は「お札を刷りまくっている」と言われますが、それは必ずしも正しくありません。
「おカネ」には2種類あり、一つは、私たちが手にするおカネ(市中マネー、マネーストック)で、これは、現金と民間銀行の預金です。
もう一つは、日銀の負債で、これを「マネタリーベース」と言います。
これはお札(現金)と日銀当座預金です。日銀当座預金は民間金融機関が日銀に持っている預金口座で、その一部が「準備預金」(銀行が現金での支払いのために備えて持つ日銀預金)です。
いま日銀が行っているのは、民間金融機関から国債を買うことで、その代金が自動的に民間金融機関の日銀当座預金口座に振り込まれることによって、日銀当座預金が拡大する形でマネタリーベースを増大するというオペレーションです。
●日銀当座預金と市中のおカネ
ここで大事なのは、私たちが手元で持ち、使用している市中マネー(マネーストック)を創っているのは日銀でなく、民間銀行だということです。これを信用創造と言います。
多くの方々が誤解しているのは、異次元緩和で積み上がった日銀当座預金が日銀のバランスシートに貼り付いたままになっている、銀行はこれを取り崩して市中でもっと運用し、市中マネーを増やすべきだが、現状は日銀当座預金が「ブタ積み」状態になっている、という主張です。
銀行が十分な信用創造を行っていないのは事実ですが、本来、日銀当座預金は、それを取り崩して市中におカネを回すという性格のものではありません。
基本的に日銀券(お札)と同じ性格のもので、両者は代替関係にあります。
日銀当座預金は、銀行が、他の銀行や日銀や政府との間の決済をする口座です。
これが全体として増減するのは、①日銀が債券(国債など)銀行との間で売買するとき、②銀行と同じく日銀に口座を持つ政府との間で資金のやり取りがなされたとき(日銀当座預金と日銀政府口座との間の資金移動)、③日銀券(お札)に振り替わったとき、の3つのケースだけです。
では、異次元緩和で何が期待されているのかというと、銀行は、基本的に金利ゼロ(準備預金分はゼロ、過年度に積まれた超過準備分は0.1%、今年2月からはマイナス0.1%)の日銀当座預金を巨額に持てば持つほど、全体としての資産収益率が低下します。
それではとても儲からないということになって、より利回りが高いはずの市中運用を増やすだろうということです。
これを「ポートフォリオ・リバランス効果」と言います。
銀行は、貸付をする、つまり、融資先の銀行口座におカネを振り込むことで自ら信用創造ができる存在です。日銀当座預金が信用創造の財源ではありません。
市中の銀行預金が増えることが、私たちが手にするマネーが増えるということです。
実際には、このポートフォリオ・リバランス効果が十分に発現せず、市中マネーの増え方が不十分、2%のインフレ目標達成にはほど遠い、そこで日銀は、マイナス金利の導入で日銀当座預金の不利性をさらに強め、銀行がもっと市中での有利運用を増やそうとするインセンティブを強めているわけです。
日銀が心配するのは、将来、インフレ目標2%が達成され、さらにインフレが進むと予想される事態になり、金融引き締め政策に転換しなければならなくなったとしても、マネタリーベースを簡単には縮小できないのではないかということです。
これは2%目標が達成される暁に、異次元緩和からの「出口」策を講じる際に、早速直面する悩みです。
なぜなら、拡大したマネタリーベースはポートフォリオ・リバランス効果を発揮し続けますので、これを抑制する段になれば日銀当座預金の縮小が必要になりますが、そのためには、日銀が保有する国債を市中に売却しなければならなくなるからです。
そのとき、金利が急騰し、国債価格の暴落が起き、金融市場にも経済全体にも、そして国債の利払い負担が急増する財政にとっても、大変な事態が生じる懸念があります。
そこで、「出口」では、よりスムーズで緩やかなマネタリーベースの縮小ということで、日銀保有国債を売却するのではなく、保有国債のうち満期が到来した分について、新たに国債を買ってそれを補填することをやめて、自然に保有国債が減少するに任せるという方策が考えられます。
その場合、日銀の資産の側では満期到来国債の分が資産の減少となり、他方で、日銀の負債の側では、マネタリーベースが同額、縮小することになります。
なぜなら、満期到来国債の償還のために政府は借換国債を発行し、それを金融機関が購入することで、日銀当座預金から日銀の政府口座へと資金が、その分だけ移るからです(上図参考)。
もしこれが永久国債の日銀による永久保有であれば、こうした縮小効果は起こりません。
●アベノミクスは実は財政再建に貢献。
アベノミクスで懸念されているのは、異次元緩和による国債「爆買い」はいつまでもできるものではない、出口では金利急騰を制御できないか、インフレにつながる、力づくでの異常な低金利で財政は助かっているが、それは一時的なモルヒネであり刹那的である、ということでしょう。
日銀の国債等保有残高は16年3月末時点で364兆円、残高全体に占める割合は33.9%になりましたが、異次元緩和を始める直前の13年3月末は13%でした。2018年中には国債発行残高の50%に達する勢いです。
これに対し、米国FRBの国債保有残高は本年3月末時点で2.4兆ドル(270兆円程度)で、国債残高全体に対する割合は12.8%に過ぎません。
ただ、このオペレーション、発想を少し変えて、政府と日銀を同じ公的部門として連結し、「統合政府ベース」でバランスシートを組めば、別の姿が見えてきます。
15年末において、日銀保有国債は328兆円、日銀券残高は96兆円、日銀当座預金248兆円でした。
他方で、日本の政府部門全体を連結したバランスシートである「国の財務書類」(財務省作成)は2014年末までの数字しかまだありませんが、そこの「連結貸借対照表」では、政府部門全体の負債は1371.5兆円、資産は932.1兆円、純負債▲439.4兆円でした。
ここにさらに日銀を連結して「統合政府ベース」でみると、政府の負債のうち日銀保有国債は、政府と日銀との間で債権債務が相殺されてチャラになります。
政府の純負債は、年度は違いますが、14年末の政府の純負債439.1から、15年末の日銀保有国債328兆円を差し引いて、100兆円台程度に過ぎないということになります。
ここで重要なのは、アベノミクスの異次元緩和政策によって、上図でいえばAの金額分、政府の負債が減り、日銀の負債が増え、統合政府ベースでの負債は一定だということです。
政府債務の減少とは、財政再建そのものであり、それと同額、日銀の負債(マネタリーベース)が増えるということは、成長通貨の増加です。
つまり、財政再建か経済成長かという、常に二律背反で捉えられてきた難しいテーマを、アベノミクスでは両方の同時達成を遂げているということになります。
これは安倍政権の成果です。
日銀の負債とは、日銀券と日銀当座預金です。それも債務ではありますが、償還期限も利子も基本はゼロ、元利償還を税負担で行う公的債務(国債)とは性格が異なります。
しかも、日銀は資産の側で、政府からの国債金利収入が得られる一方、それと見合いの負債の側は金利がつかない負債(ただし、金融引き締めの時は日銀当座預金に付利をするでしょう)ですから、その金利差分だけ利益を得ます。
これを「通貨発行益」と言いますが、日銀から国庫納付されて政府に戻ってきますから、政府の国債金利負担も日銀による国債保有でチャラになります。
政府にとっては、利払いが「行って来い」で返ってきます。政府は、利払い費削減と言う形で通貨発行益を享受します。
さて、ここに永久国債というものが登場するとどうなるか。
「ヘリマネ」の第二の手法である政府紙幣を考えると、政府紙幣そのものが「無利子永久国債」であり、それを日銀が引き受けても、日銀券(お札)そのものが無利子永久日銀債務ですから、つじつまが合うという発想にもなるのでしょう。
上図でいえば、Bがバランスシートに付け加わるということですが、実は、永久国債のことをよく研究すると、バラマキの安易な方法ではない財政財源の余地が出てきます。
重要なテーマですので、機会を改めて論じます。
松田まなぶのビデオレター、第42回は「永久国債とヘリコプターマネー」チャンネル桜、8月2日放映