松田まなぶのビデオレター、G7と世界経済と財政政策 | 松田学オフィシャルブログ Powered by Ameba

松田学オフィシャルブログ Powered by Ameba

日本を夢の持てる国へという思いで財務省を飛び出しました。国政にも挑戦、様々な政策論や地域再生の活動をしています。21世紀は日本の世紀。大震災を経ていよいよ世界の課題に答を出す新日本秩序の形成を。新しい国はじめに向けて発信をしたいと思います。

松田まなぶのビデオレター、G7と世界経済と財政政策

 安倍総理は世界経済のリスクに立ち向かう立場から、消費増税の再延期を決断しました。
 確かに、日本の個人消費を腰折れさせるわけにはいきません。増税再延期は一つの判断でした。
 ただ、そのためであれば、G7の場で、世界経済の現状がリーマンショック前に比肩するような状況であることや、財政政策の協調まで合意する必要はなかったかもしれません。
 
 伊勢志摩サミットでは、そこまでの合意に至ったわけではありませんでしたが、世界経済のリスクはリスクとして、日本は日本として未来に向けてやるべきことをしっかりとやっていく。そのための財政政策を堂々と遂行したいものだと思います。
 
 今回のビデオレターでは、そもそもG7の役割とは何なのか、世界経済について日本にとって何が本質的に重要な論点なのかを論じてみました。
 松田まなぶのビデオレター、第37回は「価値観のG7と経済のG20、そして両方の日本は?」チャンネル桜、5月24日放映。
こちらの動画をご覧ください。


●G7では何が議論されているか
 1980年代から2000年代初頭まで、G7が世界のGDPに占めるシェアは7割近くでしたが、最近では50%を切っています(47~48%)。
 他方で、G20は世界のGDPの80~85%、人口の2/3を占めています。
 世界経済の運営ということになれば、GDPが世界第二位の中国が参加するG20が主流になりつつあるという見方もあります。
 ただ、自由主義や市場経済などの価値観を共有し、世界経済に対して強いメッセージを協調して発信できるG7の役割が大きく低下したわけではありません。

 今回の財務大臣中央銀行総裁によるG7、その後の伊勢志摩サミットでは、日本が主導して財政政策での協調を演出できるかが注目されました。
 ただ、マクロ経済政策については、既に2月のG20声明で金融政策、財政政策、構造政策の「3本の矢」が盛り込まれ、アベノミクスが国際スタンダードとして合意されていたといえます。

 そもそもG7は、マクロ経済政策以外にも、さまざまなアジェンダが議論される場です。

【世界経済】
 世界経済について関心の焦点は、やはり中国経済であり、そこにどういうメッセージを出せるかがG7では問われていたと思います。
 過剰設備、過剰債務など、構造問題をどうするか。中国は鉄鋼や石炭の分野は削減数値目標を出しましたが、他の分野についても削減数値目標を出してほしいというのが日本の立場でしょう。

【国際金融アーキテクチャー】
 国際的な議論の場では、IMFの役割が論点になっています。
 その使い勝手をよくする、債務危機への対応への役割分担をどうするか、例えば、アジアのチェンマイイニシアチブやヨーロッパのEMSなど、地域的金融安定メカニズムが存在しますが、これらとIMFとの関係をどう整理するか。ギリシャ危機にはIMFが関与しましたが、スペインには何もしていないなど、現状はすっきりしていません。
 
 ただ、国際金融の分野で日本にとっての大きな関心事は、資本フローの問題です。
 中国からの人民元の流出問題は、為替介入だけでは対処できません。
 日本の提唱により、資本流出規制措置が論じられるようになっています。

【開発問題】
 日本は中国主導のAIIBに対抗するかのように、1,100億ドルの「質の高いインフラパートナーシップ」を提唱しています。
 環境にやさしい、災害に強い、テクノロジー、ライフサイクルなど、一種の国際スタンダードを提唱することは、日本の世界への貢献であるとともに、日本自らの国益でもあります。

【国際的な金融フローの健全性】
 パナマ文書に関連して、今回も国際課税の問題がG7で議論されましたが、マネロン対策、テロ資金対策、金融規制改革も論点になっています。
 金融規制については、リーマンショック後、世界的に規制強化が進んでいますが、あまりやりすぎると銀行の機能を制約するというのが日本の立場です。

●財政政策について
 かつて石油ショック後のサミットの場では、日本と西ドイツに財政出動を期待する日独機関車論が出されたものでした。
 今は日中機関車論?なのでしょうか。
 世界の需要創出で期待されているのは、やはり中国のようです。

 中国は、2016~18年に道路、鉄道、飛行場などに計4.7兆元(約78兆円) を投じる計画を公表しています。リーマンショック後は4兆元でした。
 ただ、中国は債務問題を抱えるようになっています。
 いわゆるシャドウバンキングの温床は「地方融資平台」ですが、これは、地方政府が設立し、資金調達やインフラ投資を手掛ける企業です。
 4兆元の対策の際に相次いで設立され、土地の払い下げ収入を裏付けに債券を発行、財務内容が不明瞭で中央政府も把握せず、需要の低い公共インフラや不動産開発が山積しています。
 中国の政府債務のGDP比は40%強と、比較的低い水準ですが、この融資平台や国有企業が抱える債務は分かりにくく、いずれ財政問題に発展することが懸念されています。
 地方融資平台の資金調達は、銀行や信託会社が販売する個人向けの金融商品で、「理財商品」と呼ばれます。個人や企業は金利の高い理財商品に飛びつきました。
 かつて4兆元の対策のとき、うち3兆元は地方政府の分担とされ、各地方政府は実績をあげるため無理な資金調達をしました。
 こうした不動産投資などが不良債権化しています。シャドウバンキング問題が中国のバブル崩壊を起こしかねないとされています。

 かたや日本はどうか。日本はもう一つの機関車になれるのか。
 高齢化で社会保障に財源を奪われてきた結果、日本は先進国で最もおカネのない政府になっています。
 社会保障以外の財政支出の対GDP比は、いまやOECD諸国の中で最低水準です。
 だから、どうしても「緊縮財政」になってきました。
 主な原因は、増大する社会保障給付に比して消費税率が低すぎるため、全体的な国債発行抑制方針のもとでは、それ以外への支出に回す財源が圧倒的に不足してきたことにあります。

 だからといって、消費増税だけがソリューションになるわけではありません。
 そもそも日本は世界ダントツ一位の対外純資産国です。15年末で、その金額は339兆円と、二位のドイツ(195兆円)、三位の中国(192兆円)を大きく引き離しての一位です。
 日銀には異次元の金融緩和で200兆円をゆうに超える当座預金残高が積み上がっています。

 おカネは十分にあるのに、私たち日本人が納得できるような未来に向けた国内投資が十分に行われていない。
 財政政策を考える上で、これは大きな論点だと思います。