松田まなぶの「TPP興国論」、その意味を包括的に論じた動画をお届けします。 | 松田学オフィシャルブログ Powered by Ameba

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日本を夢の持てる国へという思いで財務省を飛び出しました。国政にも挑戦、様々な政策論や地域再生の活動をしています。21世紀は日本の世紀。大震災を経ていよいよ世界の課題に答を出す新日本秩序の形成を。新しい国はじめに向けて発信をしたいと思います。

 松田まなぶはTPP参加の是非をめぐって国論が二分していた当時の2012年春に、「TPP興国論」(kkロングセラーズ新書)を上梓し、以来、TPP賛成派として保守派の方々から批判を受けながらも、一貫してTPPに向き合うことで論ずべき日本の国益について、機会ある度に議論を発信してまいりました。



 その論旨は、無批判的にTPPに賛同するものではありません。
 主軸はあくまで国益の所在です。TPPを恐い恐いと逃げ惑う論者に対し、強い国ニッポンの実現に挑戦することが本物の保守ではないかと主張してきました。
 TPPが大筋合意に至り、その展開も結果も、ほぼ私の予想通りのものとなりました。

 松田まなぶは勉強会の講師としてどこでも出かけています。12月20日には「あてな倶楽部」にて、このTPPについてどう考えるべきなのかを幅広く論じました。

 世界で経済秩序の再編が進む中にあって、日本は、そして日本のみが、その扇の要の位置にいます。世界新秩序への日本のチャンスです。
 動画では最初の勉強会主催者の栗原さんの挨拶のあとは、私が1時間以上にわたって一人でしゃべり続けています。
 ふだんよりお時間のある年末年始、どうか、最後までお楽しみください。こちらです。



以下、この場で松田まなぶがTPPについて話した論点の一部をポキポキとご紹介いたします。

<TPPの性格>
〇TPPの日本にとっての意味は、決して日本の「開国」などではない。ここに根本的な誤解がある。逆である。アジア太平洋諸国を日本に対して開国してもらうことが日本にとってのTPPの意味。日本の海外での事業機会を増やし、投資利益を保護することが主眼。そもそも日本は、世界で最も開かれた市場が中心の国家である。むしろ開かれ過ぎている。

〇日本のインテリは問題点の指摘をすることで、自らの賢さを誇っている。大事なのは答を出すことである。もし、TPPに反対なら、ではどうやって日本の繁栄を築くかについて、代案を提示すべき。

〇TPPとは、日本の輸出の4分の3を占めるAPEC地域で経済圏を構築する第一歩という位置づけ。それは恐らく、世界の経済秩序のモデルとなるであろう。国際経済は日進月歩だ。将来のルールづくりの基本形の策定に参画した国が、今後、強いポジションを得ることになる。

〇TPPはこれまで各国と締結してきたFTAやEPAでは日本が勝ち取れなかったものに再挑戦するという意味もある。TPPは包括的な内容だが、これまで日本が結んできたEPAも基本的には同じ。線から面へと展開するものに過ぎない。

〇近年、米国の輸出における日本のシェアは低下し、5%に過ぎない。参加国が9か国だったとき、米国の他の8カ国に対する輸出のシェアは7%で、日本を抜いていた。しかも、日本とは違って、それら国々は成長している。米国のTPP参加はオバマ政権が米国の輸出倍増を唱えたことも契機の一つだったが、対日輸出を増やしても「輸出倍増」はできない。対日輸出の大半は工業製品であり、それらに対してすでに日本は関税はほとんど無い。日本は人口も減少している。TPPは米国が日本を狙ったものというのは、日本経済がそれだけの位置を占めていた時代の発想から未だに転換できない「自意識過剰」である。

〇TPPとは国際ルールを策定し、各国がお互いに義務を負い合うもの。日本の米国従属ではない。負った義務には各国で反対派がいる。米国でもTPP反対勢力は強い。これは米国も義務を負って血を流している証し。

〇中国が主宰するアジア太平洋秩序が形成されようとしている。中国はベトナムなど周辺諸国と積極的にFTAを締結。最近では「一帯一路」、「新型の大国関係」を打ち出している。これにどう向き合うかという問題。

〇日本が交渉に参加せず、日本の国益が全く反映されていないTPPが出来上がってから、日本がそれを受け入れざるを得なくなる事態のほうが、より大きな国損。
〇日米2国間のバイの交渉では負けるが、TPPには多国間のマルチの交渉の場が有する特性がある。小国でも大国と同じ一票。国連、WTP、気候変動COPなどもそう。

<農業>
〇農業は徹底的に保護すべし。問題は、農業保護の手段。日本農業の高齢化、耕作放棄地などの衰退現象は、これまでの保護政策の結果である。

〇農業はTPPで日本が最も大きなメリットがあった業界だという見方がある。確かに、日本の農産品に対する各国の障壁は大幅に軽減されたし、日本の農産品関税の引下げの多くも、例えば10年という年月をかけてソフトランディングが図られている。

〇農業保護政策は、関税などの水際規制方式という開発途上国型のものから、農家への直接支払という財政方式に転換すべき。欧米はその転換を果たしている。10年かけて生産性と競争力を高め、それに応じて関税を引き下げ、それでも残るハンディは財政方式でカバーする。それで滅びるような農業生産なら、最初から見込みはない。

〇財政方式への転換こそ弱者対策。高い食料品価格は消費者の負担による農業保護。価格を高くするために減反奨励金など、こちらは税負担。日本の消費者は二重の負担。水際では自由化し、海外と価格競争が困難な部分は財政方式でカバーし、食料など生活必需品の価格水準が下がれば、国際経済との調和、農業保護、弱者対策の「一挙三得」となる。

〇財政方式への転換は、農村の「戦後システム」の見直しにもつながる。地方の篤農家たちが支える地域社会への回帰が図られる。これは、零細農家を中心とする農協社会主義という「戦後レジームからの脱却」でもある。

〇かつて日本の農村には「経営者」がいた。農業は孤立した産業ではなかった。酒造りや金融なども。戦後、農業は耕作だけで自立しなければならなくなった。

〇農協に新しい役割を構築する。目前の「小さな幸せ」にしがみつく人々に対し、「大きな幸せ」を描く。10年後の農業農村の姿を描くことが最も大事。

〇食料自給率は、関税水準ではなく、産品の国際競争力で決まる。米国のほうが農業関税は低いが輸出。米国には自動車関税があるが日本から輸入。

〇最大の食料安全保障とは、農産物の輸出である。

<誤解>
〇TPPについては、誤解が多かった。しかも、「風が吹けば桶屋が儲かる」式の脅威論が横行してきた。仮定に仮定を積み重ねて、あたかもそれが蓋然性が高いものであるかのように論じる傾向が強い。TPPとは無関係のものと結び付ける議論も多い。

・サービス産業での交渉は、内外無差別の原則の徹底にあり、各国が独自に規制をどうするかは交渉対象ではない。

・もともと、政府が提供するサービスはWTOの対象外であり、政府が提供する金融サービスである公的医療保険制度は、TPP参加国間のFTAでも対象外。日本は営利目的の医療機関を認めていないが、これ自体は内外無差別。TPPで医療の国民皆保険が崩壊するなどというのは暴論。

・多くの論者が恐れたISDS(投資家-国家間紛争解決)の対象は、政府による直接収用(財産の没収などの権利移転)と、間接収用。間接収用とは、規制の導入や変更によって外国企業が被害を受けるもの。投資前から存在している規制の不合理性は対象外。問題となるのは外国企業に対する恣意的で差別的な措置。米国はISDS条項をNAFTA締結後に修正。仲裁による裁定で国内法の修正は求められないことになった。安全保障、信用秩序維持、公衆衛生、環境などは例外になった。

<TPPの本質と日本の進路>
〇日本は、世界中から異質の要素を「寄せ集め」、それを「すり合わせ」て日本独自のものへと作り変え、「新結合」して世界にバリューを提供する国であり続けてきた。TPPを迎えて行うべきなのは、「自国のあり方の再定義」。

〇米国がTPP、すなわち、APECワイドの将来のFTAAP(アジア太平洋自由貿易圏)で狙うのは、成長するアジア太平洋地域。その中で日本の存在は縮小してきた。この米国の狙いと同じ立場に立つのが日本であり、日米はこの点で利害を一にしている。FTAAP、すなわちAPEC地域は、21か国・地域、世界の人口の4割以上、GDPでは6割近く。TPPはGDPでは世界の4割。

〇TPPの本質は「法の支配」。力にはルールで対抗する。それがTPP。

〇直接投資に対するパフォーマンス要求(部品調達の現地比率や投資、雇用面で現地を優遇する規制など)を排するのがTPP。今後、海外投資で生きていく日本にとって、TPPは不可欠。

〇ザイン(存在…事実はこうである)とゾルレン(当為…かくあるべし)は区別すべきもの。グローバリゼーションはザインであり、グローバリズムはゾルレンである。「弱肉強食」のグローバリズムの強食にもルールの網をかけるのが法の支配。すべてのパワーを国際的に合意されたルールに従わせようという志向がTPP。

〇いま日本は、世界のグローバリゼーション秩序の扇の要の位置にいる。TPP、RCEP(ASEAN+中国を含む6か国)、日・EU間のEPA、いずれの巨大経済圏にも属するのは日本だけ。これは世界新秩序の形成に向けた日本のチャンスでもある。