新しい国づくりへ、「真」3本の矢、新政界往来誌に掲載、松田まなぶの国力倍増論第4回 | 松田学オフィシャルブログ Powered by Ameba

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日本を夢の持てる国へという思いで財務省を飛び出しました。国政にも挑戦、様々な政策論や地域再生の活動をしています。21世紀は日本の世紀。大震災を経ていよいよ世界の課題に答を出す新日本秩序の形成を。新しい国はじめに向けて発信をしたいと思います。

 安倍政権は「新」3本の矢を打ち出していますが、その成功のためにも、今の日本に求められる経済政策とは、かつて安倍総理が唱えていた「戦後レジームからの脱却」なのではないか。
 松田まなぶが打ち出している「真」3本の矢、新政界往来誌12月号に提言としてまとめました。


 キーワードは、チャレンジ、自主憲法、不確実性の軽減、未来へのストーリー、セーフティーネット、そして「設計」です。
 


 以下、記事の全文を掲載します。

―日本新秩序へ― 松田まなぶの国力倍増論
第4回 新しい国づくりへ、「真」3本の矢

松田政策研究所代表 東京大学大学院客員教授 前衆議院議員 松田まなぶ


 安保法案審議で低下した支持率を回復すべく、安倍政権は当面、「経済の安倍」に集中するとされている。国民に夢を与える大きなタマが必要だ。出てきたのはアベノミクス「新3本の矢」。東京五輪の二〇二〇年に向けて、第1に、GDP六百兆円を目指す「希望を生み出す強い経済」。第2に、出生率1・8を目指す「夢を紡ぐ子育て支援」。第3に、介護離職ゼロを目指す「安心につながる社会保障」。早速、これは「矢」ではなく「的」だ、大事なのは的を射るための具体的な「矢」の中身だ、などと批判されているようだ。

「一億総活躍社会」

 ただ、「的」としてみれば、第1の矢が名目GDP目標となったこと自体は評価できる。従来のインフレ率2%目標だと、円安による生活物資の価格上昇でも原油高でも、何が何でも物価が2%上がれば良いということになり、景気と矛盾する事態も生じてしまう。大事なのは名目GDPだ。困難な目標ではあるが、もし目標達成に必要な名目3%成長の持続が実現すれば、今後の財政再建努力が実を結ぶための前提条件も整うことになる。

 では、「矢」としての具体策は何か。担当大臣はこれら3つの矢に共通するテーマを「一億総活躍社会」で説明している。つまり、基本思想は「チャレンジ」にあり、06~07年の第一次安倍政権のときも「再チャレンジ」を掲げていた通り、安倍総理の一貫した理念はこの点にある。高齢者も女性も身障者も…一億国民の誰もがチャレンジできる社会を創る。

 筆者も、「自らの夢を持ち、夢に向けて挑戦する人を応援する社会」を理念に掲げ、そのために、人々の挑戦を妨げる軛(くびき)にも化した「戦後システム」を組み替えて、日本の全体システムを時代にふさわしい持続可能なものに再設計することを提案してきたところである。

 かつて安倍総理が唱えた言葉に「戦後レジームからの脱却」がある。第二次安倍政権以降、総理の口からその言葉はあまり聞かれないが、そもそもは、安全保障体制の立て直しと憲法改正を9条も含めてやり遂げるとの意味で捉えられてきた。

 だが、今回の平和安全法制で現行憲法下でも集団的自衛権の限定行使が可能になった。そして、そこから先の集団安全保障や制裁戦争への参加などにまで日本が踏み込むことは、総理自らが封印した。9条の改正であれば、現政権として改憲を急ぐ必然性は薄れているかにもみえる。

 では、「戦後レジームからの脱却」とは何だったのか。それはむしろ、前述のような戦後システムの再設計にこそ重点を置くべきものなのかもしれない。広く日本人に挑戦を促す国家設計を組み立てるために、日本はこれからどのような「新しい国づくり」を目指すのか。

 その合意形成は今の政治に問われる喫緊の課題であるはずだ。安倍政権が当面は経済に集中するのであれば、その意味をこのような文脈で捉えたい。日本の国柄を踏まえた国づくりのあり方や国益の再定義に向けた国民的論議を経て、国民が自ら投票で自国の憲法を選択する。それこそが本物の「自主憲法制定」になる。

経済政策に必要なのは不確実性の軽減

 ここで、持続可能な成長へと国民に夢を与える経済政策を考える場合、これまで飽きるほど唱えられ続けてきた「改革」という言葉に代わる新しい言葉として、「設計」を据えてみたい。今の日本経済が置かれている状況は、多くの「改革」論者が想定してきた市場競争型の新自由主義的な設計思想では対処できない。むしろ、現状はケインズ的状況だろう。

 ケインズ経済学が向き合ったのは「不確実性」だった。これは「リスク」とは異なる。リスクならサイコロの目の如く確率計算ができ、市場経済で処理できる。これに対し、同じ不確定性でも、合理的な確率計算も市場メカニズムも超えた不確定性、つまり、いかなる事態が生じるかすら予測できない漠然たる将来不安のようなものを「不確実性」と呼ぶ。

 そもそも人間の行動は全て、不確定な未来に向けたリスクテイクだ。自分のおカネを支出して投資や消費をするのもそうである。不確実性が増大すれば、リスクテイクが委縮し、代わりに貨幣に対する愛着が増大する。ケインズはこれを「流動性選好」と呼んだ。つまり、投資や消費よりも貨幣(金融資産)を持つことのほうを人々が選択しようとする状態であり、これが経済停滞の原因になる。

 対応策は、政府が民間のリスクをシェアすることだ。伝統的なケインズ政策である財政出動も、中央銀行が民間から金融資産を購入する非伝統的な金融政策である量的拡大策も、一定のリスクシェアリング効果がある。アベノミクスもこれら2つは「矢」として放った。期待された効果が実体経済に及んでいないのは、もう一つの第3の矢の成長戦略が不確実性の問題に正面から向き合っていないからだろう。

 そこで筆者は、人々を覆う不確実性を軽減する、次の「真3本の矢」を提言したい。

日本の新しい物

 第1の矢は「日本のこれからのストーリー…未来を描く」。人は何かの物語の中で自分が何かの役割を演じていると思うときに、安心して前に進むことになる。自分の国は、自分のカイシャは、社会は、地域は、家族は…、どこに向かっているのか。社会システムや人生経路への人々の信頼性が確保されることで不確実性が軽減され、「流動性選好」が低下し、日本が有する3、300兆円もの金融資産が投資や消費へとフロー化する。

 例えば、超高齢社会など世界に先駆けて人類共通の課題に直面する国として「世界の課題解決センター」を目指すことを、日本の新しい物語とすることが考えられるかもしれない。

 第2の矢は「人々のチャレンジを促す社会システムへの転換」。戦後の日本社会の様々な仕組み、大企業を中心とする「組織本位制」社会の硬直性、新しいバリューや技術ではなく担保価値しか見ない銀行融資、完成度は高いものの縦割りでガチガチの官僚主導の制度・政策レジーム、一億総無責任体制…などを組み替える。

 日本は「明治大正経済システム」という、今の米国よりも流動性が高く、自主独立でチャレンジ精神に満ちた経済社会を営んだDNAを持つ国である。

 第3の矢は「万般にわたるセーフティーネット」。サーカスの綱渡りも、下に安全ネットがあってこそ可能になる。国民負担率は7割近くの高さでも、一人当たりGDPは日本を上回るデンマークでは、解雇されても不安のない社会保障のおかげで、企業は生産性の高い分野に思い切って特化できる。

 日本の場合は国民負担ではなく、持てる民間ストックの活用で日本型互助を組み立てることが可能だろう。格差や貧困の問題解決や公平で安心な社会の実現は、社会システムの設計如何である。個人番号制の導入に至った日本は、システマティックな全体設計によって機能的な社会基盤を構築し得るステージにようやく辿り着いた。課題となる分野として、社会保障のほかに、租税基盤の整備、子を産み育てることに伴う様々なリスクの軽減、コミュニティーの再生、サイバーセキュリティー、食料やエネルギーも含めた国家総合安全保障、防災安全国家の建設などを挙げておきたい。

 結局、景気や経済の不調の問題は、市場経済の外側にある社会の枠組みの再構築によって対処するしかない。それ自体が、日本の「新しい国づくり」なのである。