松田まなぶのビデオレター、第20回は「中国に対抗するインフラ整備と国際通貨戦略」 | 松田学オフィシャルブログ Powered by Ameba

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日本を夢の持てる国へという思いで財務省を飛び出しました。国政にも挑戦、様々な政策論や地域再生の活動をしています。21世紀は日本の世紀。大震災を経ていよいよ世界の課題に答を出す新日本秩序の形成を。新しい国はじめに向けて発信をしたいと思います。

アジア太平洋地域では中国が主宰する国際秩序形成がどんどん進んでいるのではないか、その手段はAIIB、BRICs銀行、シルクロード基金であり、人民元の国際化ではないか。では、日本はどうするのか。チャンネル桜のビデオレター、今回は、中国主導の資本金1,000億ドルのAIIBに対抗するかのように、日本政府が打ち出し始めた1,100億ドルの「質の高いインフラパートナーシップ」の中身について解説し、いま話題となっている人民元のSDR入りとは何なのかを解明しました。日本がしたたかに国益を実現する国になるために。

第20回「中国に対抗するインフラ整備と国際通貨戦略」チャンネル桜、10月20日放映。
こちらをクリックすると、今回の松田まなぶの動画を見ることができます。




日本政府が1,100億ドル規模で打ち出そうとしている「質の高いインフラパートナーシップ」とは、覇権的パワーを背景とする「安かろう、悪かろう」の中国主導のインフラ整備に対抗すべく、これまでの日本からの援助がそうだったように、アジア諸国と同じ目線に立って、高い技術と運営能力とクォリティーを誇る信頼性の高いインフラ建設、すなわち、日本ならではの社会建設をアジア地域に伝播させていく上での一つの有力な手段となる可能性があるものです。

これまでこうした日本の潜在力を発揮する上で必ずしも十分ではなかったのが、日本の政策金融機能でした。現在、これを強化しようとする本構想の中身の詰めが日本政府で検討されています。

本構想の柱は、①JBIC(国際協力銀行)の法改正と予算出資、②JICA(国際協力機構)とADB(アジア開発銀行)とのコラボによる共同投資スキームの設置、の2つです。

まず、①については、JBIC内で勘定を分離し、そこに政府の産業投資特別会計から出資を行います。その規模は、2016年度財政投融資概算要求に450億円、計上されたところです。その趣旨は、JBICがこれまで以上にリスクを取れるようにして、海外のインフラ整備に日本の技術を乗せていけるようにすることにあります。リスクテイク機能の強化のため、来年の通常国会に法案を提出することになっており、現在、その法案の中身を詰めているところです。
具体的には、今般、JBICに「一般勘定」と区分した「特別業務勘定」を設置し、同勘定を通じて、これまで以上のリスクテイクを伴う投融資がなされるよう、以下を確保しようとしています。

第一に、「特別業務勘定」において、JBICによる現地金融機関からの長期借入を可能にし、これにより、途上国のインフラ事業で必要な現地通貨建ての融資を拡大。

第二に、「特別業務勘定」においては、個別融資案件ごとに償還確実性を求めず、勘定全体でのリスク管理を可能にする。

第三に、「特別業務勘定」創設時における「一般勘定」からの純資産の移転を可能にすることで、リスクバッファーを十分に確保。

特に狙っているのは、民間の資金・ノウハウを活用した海外のインフラ・プロジェクト(PPPインフラ・プロジェクト)などに対して、これまで以上のリスクテイクを伴うJBICによる投融資を促進することです。

次に、②については、JICAには「海投」(海外投融資等:本邦企業または現地企業が開発途上国で実施する開発 事業に必要な資金を. 同企業等に対し融資または出資する業務)があり、出資機能を担ってきましたが、全て失敗し、最近では停止状態になっていました。JICAにその能力がなかったためです。今般、そこにADBの知恵を借りようということになりました。

恐れられている中国主導のAIIB(アジアインフラ投資銀行)は、2016年から業務を開始する予定ですが、来年中はせいぜい小さな案件が数件ではないか、金利も高く、最初の数年はそのような状況が続くだろうという見方があります。

インフラの質の高さでも、資金調達の有利性の面でも、中国を凌駕しているはずの日本は、これまで、財務的な規律にこだわるあまり、リスクテイクに委縮し過ぎてきたきらいがあります。この面でもっと融通のきく国になることで、日本の強さを活かしていくべきでしょう。

ただ、大局的にみると、現状の延長で例えば30年後の将来のアジア太平洋地域を予測すると、そこに成立しているのは中国が主宰する秩序であり、日本がそのパーツとして組み込まれている姿かもしれません。かつて鳩山政権が「東アジア共同体」や「アジア共通通貨」を提案しましたが、それを最も喜んだのは中国だったと思います。日本はアジア太平洋の中国秩序を支えてくれる、その時の共通通貨は人民元だ、中国がそう考えたとしてもおかしくありません。

そこにおいて、日本は円ではなく、中国人民元を使う国になる。ちなみに、中国では人民元の表示は「\」であり、「元」は「yuan」です。以前、北京において政府に近い中国の国際金融の専門家たちと議論したことがありましたが、その際に私の脳裏に思わず浮かんだのは、そのような悪夢でした。最近の「一帯一路」構想にも、元の国際化を図る意図があります。

ここで、最近、よく話題になっている人民元のSDR構成通貨入りについて触れておきますと、そもそもSDRとは、IMF(国際通貨基金)における「特別引出権」(Special Drawing Right)と言われるものです。1969年に、金やドル等の既存の公的準備資産を補完するために創設されたものでした。

IMF加盟国は、各国が保有するSDRと交換で、その時のレートで換算された自由利用可能通貨(米ドル、ユーロ、ポンド、日本円)を、他の加盟国から取得できます。SDRは通貨そのものではなく、加盟国の公的主体に保有が限定された「通貨提供請求権」です。その価値は、米ドル41.9%、ユーロ37.4%、ポンド11.3%、日本円9.4%の加重平均により決定されます。

構成通貨や構成割合は5年ごとに見直すこととされており、本年の2015年は見直しの時期に当たります。本年末にかけて、そのための公式理事会がIMFで開催される見込みです。
中国が、このSDRの構成通貨に人民元を入れることを求めていることが、中国の経済覇権を強めるものとして、日本でも警戒する向きが多いようです。

まず、SDR構成通貨になるための要件として、①過去5年間の物品・サービス輸出額が最も多い加盟国・地域の発行通貨であること、②「自由利用可能通貨」であること、という2つの要件が定められています。自由利用可能通貨(Freely Usable Currency)とは、加盟国通貨であって、(ⅰ)国際取引上の支払いを行うため現に広範に使用され、かつ、(ⅱ)主要な為替市場において広範に取引されている、と、IMFが認めるものです。2010年のSDR見直しでは、人民元は②の要件を満たさないとされました。つまり、要件②(自由利用可能通貨)が不合格でした。

しかし、IMFの公式な立場は、こうした問題は関係なく、技術的に決めるべきものということであり、人民元はいずれ、SDRに入ることになるだろうというのが、日本の財務省の見方です。

ただ、人民元がSDRに入ったところで、それによって民間経済で広く人民元が使われるようになるのかといえば、必ずしもそういうことではないかもしれません。効果としては、むしろ、中国の改革を促進することになる。中国がSDR入りを望んでいるのは、ただの面子の問題に過ぎず、それで人民元の国際化に寄与する効果はない。むしろ、人民元の国際化が進めばSDR入りになるというものであって、因果関係が逆である。

こうした日本の財務省の見方を裏付けるかのように、中国側には慎重論もあるようです。なぜなら、元のSDR入りで、中国には、自国の金融資本市場が「自由利用可能通貨」の市場となるよう、性急な改革が迫られるからです。



いずれにしても、もし人民元がSDR構成通貨になるのなら、日本としては、中国の金融資本市場がそれにふさわしい市場になるよう、さらなる改革を迫るべきでしょう。

大国としての責任を果たせと中国に迫り、そこから自国の国益を引き出すことを考えるしたたかさが、日本には必要だと思います。