松田まなぶの論点 社外取締役と日本型資本主義 | 松田学オフィシャルブログ Powered by Ameba

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日本を夢の持てる国へという思いで財務省を飛び出しました。国政にも挑戦、様々な政策論や地域再生の活動をしています。21世紀は日本の世紀。大震災を経ていよいよ世界の課題に答を出す新日本秩序の形成を。新しい国はじめに向けて発信をしたいと思います。

~4月16日衆院法務委員会での質問のポイント(対谷垣禎一・法務大臣)~

〇日本は自らの強さに立脚した戦略を立てるべき。

・産業技術のあり方としての「寄せ集め型」と「すり合わせ型」
  ⇒日本は人々の協調による現場での協働作業でぴったりとした製品を作る「すり合わせ型」技術に強み。その典型が乗用車。
⇔対するのは、汎用的な部品等をあちこちから寄せ集めて組み立てる技術類型である「寄せ集め型」でITがその典型。米国(中国も)がこの面で強み。
・それぞれの国の歴史や国民性を反映。1990年代のIT革命は「寄せ集め型」を世界の産業の主流に。すり合わせ型の日本は「失われた20年」に。
・日本企業の特色は、「強い工場と弱い本社」。工場などの現場は「道場」。
・寄せ集め大国の米国型(中国も同様)あるいはアングロサクソン型…儲かるなら現場を持つ、儲からないなら現場は持たない(売却する、借りる)。
・日本はまず現場。「道場」でとにかく稽古する。結果はあとでついてくる。
・長期的人間関係、長期取引、終身雇用。
・ハリウッドは優れたプロデューサーが多い(世界中から寄せ集めて新たなバリューへとプロデュース)。日本は優れたディレクター(現場監督)が多い。
・確かに、現在は社外からプロデューサー型人材を投入することが必要な時代。
・ただ、それが取締役である必要があるのか。アドバイザーや顧問でも。
・日本の特有の強さを見失ってはいけない。

(問)日本の製品競争力の強さの特性(現場でのすり合わせ型)などを踏まえると、日本企業の場合は、執行も監督も意思決定は現場を知悉した役員が担う必然性があるのではないか。



〇松田まなぶの社外取締役としての経験では…、
・私は財務省を辞めてから当選するまでの間、ある上場企業の社外取締役をしていたが、それが実に機能しない仕組みであることを実感した。
・月に一度の取締役会で第三者の目で意見を述べられる範囲で述べたが、本当に大事なことは常勤でないとわからない。例えば中国工場の実態はどうかといった現場をある程度知悉していないと、プロパーを凌駕するような知見は得られないし真に有効な意見を、自信をもって言えるわけではない。
・かと言って、世界各地の工場を見て回りたいと言えば、会社に余計な負担をかけることになる。
・その会社での業務経験がないと、単なるお飾りに。会社の事業やリスクに精通するには限界。社外取締役の適材は不足しているはず。コストもかかる。
・それほど多くの報酬をいただいていたわけではなかったが、申し訳ない気持ちだったので、経営をチェックするというより、せめて任命してくれた社長の役に立とうと努力したぐらい。そちらに気持ちが向くことになる。

〇企業の経営革新
・安倍政権では、社外取締役の導入促進を成長戦略に。
・日本再興戦略(25年6月):「外部の観点から社内のしがらみや利害関係に縛られず監督できる社外取締役の導入促進。攻めの経営を後押しすべく、社外取締役の機能を積極活用。」
・産業競争力の強化に関する実行計画(26年1月):「内外の投資家の日本企業に対する信頼を高め、その投資を促進し…コーポレートガバナンスの強化。」

・ある調査では、独立取締役の比率:米国7割以上、日本1割に満たない。
取締役の過半数が独立取締役の企業の比率:米国9割以上、日本はほとんどない。どの国もが、この中間に入る。
・ここまで差があると、日本にはよほどの事情がある。

(問)今般、監査役設置会社、指名委員会等設置会社の次の第三の類型として「監査等委員会設置会社」が設けられるのは、民の選択肢を増やすことであり評価。ただ、これまで第二の選択肢だった指名委員会等設置会社が占める比率が1%台から2%台と、極めて低い(全体で2.2%、東証一部で2.5%)理由は何だと考えられるか。この第三の選択肢をとる企業の比率はどの程度になることを期待しているのか。



・元マッキンゼー日本支社長の横山禎徳氏は、日本のほぼすべての業種について日本を代表する企業のコンサルタントをした方だが、日本の大企業の社長50人のうちなるべくして社長になった適格者は2人ぐらいだと述べていた。
・日本人は会社しか自分の人生のない「カイシャ人間」。会社にしがみつく。
・自分を会長、相談役として遇してくれる後継を社長に指名することに。
・役員や社長の報酬も他国に比して低く、悠々自適の生活への恐怖感。
・CEOの報酬比較で日本は米国の10分の1ぐらい、英国の5分の1ぐらい
・役員報酬は従業員給与の何倍か…日本:東証1部上場についての調査では平均23.0倍(最大は日産の142倍)⇔米国:売上高上位350社では労使格差272倍。
・表に現れている矛盾の背後にある「主要矛盾」にこそ着目すべき。
・単に社外取締役が少ないからと言って、問題の裏返し(社外取締役を増やす)に答はない。

(問)そもそも執行と監督が分離している英米(独立取締役の比率は米国が約80%、英国が約60%)と日本(社外取締役約13.5%2013年)とでは、企業統治や会社の概念、風土が大きく異なっており、日本再興戦略等で謳われているような目的達成のためには、社外取締役等の形式面ではなく、日本企業の経営や人事のあり方など、もっと実態面から改革を促す措置が必要なのではないか。

〇日本型資本主義の理念
・会社のあり方は日本の国の国家観とも関わる問題。
⇒会社法改正に当たる谷垣大臣の国家観に関係する質問をしたい。
・報道によれば、谷垣大臣は、集団的自衛権に係る政府解釈について「論理に飛躍がある」とし、砂川事件の最高裁判決についても集団的自衛権行使容認の根拠とする点で安倍総理と同じ立場を示したとされている。
⇒「改革保守」の維新にとっては心強い

(問)谷垣大臣は集団的自衛権に関する内閣法制局の憲法解釈について「論理に飛躍がある」と批判したと報道されているが、これは事実か。また、砂川事件判決は集団的自衛権行使容認の根拠になりうると考えているか。

・日本の戦後システムにおいて自民党は保守というよりも、実質的には「社民主義」に傾斜。ナショナルミニマム分配型国家。日本を世界一の実質社会主義国家に。
・「会社」をどう捉えるかで、ひとつの政治の軸が見えてくる。
・企業は誰のもの? 会社は誰のため? 何のため?
この問から、株主資本主義(アングロサクソン)、国家資本主義(中国など)、公益資本主義(多様なステークホルダー)の3つの立場が分かれてくる。
・価値観の多様化した成熟社会での一つの答は多様なステークホルダーの道。
・その意味で考えれば日本型企業統治を「公益資本主義」へと昇華させていく上で「社外取締役」は一定の役割を果たすのではないか。
・単なる株主の立場ではなく、多様な立場。
 (注) 企業の社会的責任英語:corporate social responsibility、略称:CSR)

(問)社外取締役に期待される役割、立場としては、企業の社会的責任(CSR)も含まれると考えているのか。



・企業のいかなる理想像を実現しようとするに当たっても、そこに持っていく手法においては軸があり、立場は分かれる。
⇒国家制度(システム)の強制によるか、自由放任・マーケットに委ねるか
・自立を旨とするかつての本来の「保守」であれば、社外取締役を置くかどうかは企業の自主的選択で判断すべきもの。それはマーケットが評価。その評価に自らどう対応するかを考えるのが自立。
・もし、社外取締役を置く企業で市場を創りたいなら、それもいまや民営化された各証券取引所の自主判断であるべき。

(問)社外取締役設置を推進するのは国の制度としてではなく、各証券取引所が自らの市場をどのようにしていくかを自立的に判断して決めるべきものであり、それは自主規制のレベルに委ねるべきである。今般の法案にそのような考え方は反映されているのか。

・政府介入かレッセフェールかのほかに、もう一つ、第三の道として「ゆるやかな介入主義」がある。これは政府が民間主体に多様な選択肢を与える道。
☆ゆるやかな介入主義の事例
 これからの政策や、制度、規制、仕組み、行政の在り方を設計する上で、「ゆるやかな介入主義」(行動経済学から帰結される政策)への発想の転換が重要。人々の自立的選択の結果として社会や経済が望ましい方向に向かっていくように、政府はベンチマークを設定したり、選択肢を与える役割を担うという方向。
・防災対策としての住宅政策:現行の建築基準法は最低基準であり、耐震としては不十分(しかし、それが望ましいものだと受け止められている)。→建築基準法そのものを厳格化するのではなく、建替え時の選択メニューとして建築基準を上回る耐震性を「標準仕様」として設定。結果として、個々人はコストをかけても「標準仕様」を選択することになるケースが多い。
・今回、各企業に社外取締役を導入しない選択肢を与え、「説明責任」を設けたのは、このような第三道として一定の評価。

〇戦後の日本の大企業の行動原理
・横並び。中国進出なら一斉に中国。かえってリスク拡大。多様性こそリスク軽減の道であるはず。
・日本企業は外国で企業同士が競争、ナンバーワンは目指してもオンリーワンはめざさなかった。
・バブルの時は「赤信号みんなで渡れば怖くない」。バブルが崩壊して不良債権処理モードに入って以降は「青信号みんなが渡らないから自分も渡らない」。
・いまの日本には「コンプライアンスからコアコンピタンス(自らの独自性を創造し続ける力)へ」こそが問われているはず。
・コンプライアンスが企業の目的ではない。それは新たな形式主義、思考停止で、価値判断をしない弊害に。
・細かい制度構築にソリューションを求めることは回避すべき。
・明治大正経済システム⇒そこには戦後の日本とは全く異なる風景の日本があった。独立自尊、銀行ではなく株式による資金調達、資本家の存在、労働市場の流動性、地方の自立、いまの米国よりも資産格差が大…。
・戦後経済システムの弊害はサラリーマン経営者。「資本家」の概念なく、その不在がリスクテイク沈滞の原因。
・リスクテイクには個人で決断できる「資本家」が必要。

(問)リスクテイクを促すためには、日本にアントレプレナーシップと真の「資本家」を取り戻すという視点から、会社法を含め、経済関係の法制度を組み立て直すことが重要ではないか。そのような視点からみて、今回の会社法改正はどのように評価されることになると考えているか。

〇社外取締役を免罪符にしてはいけない。
・私の経験…結局、「わが社は財務省出身者を社外取締役に入れている」という、企業の信用アップに利用されていただけであることに、最後に気が付いた。
・社外取締役を導入さえすればいいという形式主義や、それ以上の経営改革に向かわない思考停止を招くことになってはいけない。企業のコンプライアンスの免罪符にしてはいけない。
・各人が個別の価値判断をし、それに自ら責任を持つ。各人が責任をもっとリスクをとる社会を。
・日本の悪いクセとして、何か起こると、志の低いところに基準を置いて色々な規制を課し、結果として志の高い者が十分に活躍できなくなることが繰り返されてきた。
・何事も一律規制は良くない。これでは志を評価しない国になってしまう。
・谷垣法務大臣におかれては、日本の法制度を構築していくに当たって、ぜひ、志を評価する国ということを念頭に置いてほしい。