松田まなぶ 欧州出張報告③ | 松田学オフィシャルブログ Powered by Ameba

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日本を夢の持てる国へという思いで財務省を飛び出しました。国政にも挑戦、様々な政策論や地域再生の活動をしています。21世紀は日本の世紀。大震災を経ていよいよ世界の課題に答を出す新日本秩序の形成を。新しい国はじめに向けて発信をしたいと思います。

第3回 デンマーク~高度な福祉国家が取り組む医療へのチャレンジ~

 8月25日の午後、私たち議員団一行はデンマークのコペンハーゲンに到着、そのまま市内観光をいたしました。日曜日ですから訪問先はすべて休んでおり、この日ばかりは私たちの仕事も休むしかありません。午前はエストニア共和国でタリン市内を散策し、午後はこの北欧の街の名所を訪ねて回るという休暇の日となりました。

●まずは北欧の街を歩く。
 全体として今回の出張では、観光という要素は仕事の合間に街を見て回るのが精一杯で、皆さん、わずかな時間を使って少しでも街の様子を知ろうと早朝から散策し、旅先の食事でどうしてもオーバーしてしまうカロリーの消化に務めていましたが、恐らく、このコペンハーゲンが最も散策の歩数か多かったと思います。それでも、私たちの皮下脂肪の増大には追いつけませんでしたが…。
 この日はまず、ローゼンボー離宮を訪れ、かつてのスウェーデン王室の生活の様子や遺品などを見させていただきましたが、通常、ヨーロッパ旅行といえば必ず観光客が訪れるこの手の場所は、今回の出張ではここだけでした。ヨーロッパ各国各所の宮殿や美術館を総なめ的に訪れていたかつての自分を思い出しました。そういえば、この離宮も、30年ぐらい前のドイツ滞在時に来たことがありました。
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「コペンハーゲンのローゼンボー離宮を訪問」
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「ローゼンボー宮殿内」

 その後、円形の天蓋を下から見上げると、天井から差し込む陽光に聖者たちの姿が整然と並ぶフレデリック教会を訪れ、そこから冬の王宮であるアマリエンボー宮殿(デンマーク王室の居所)の4つの瀟洒な建物が囲むラウンドアバウトを通り抜け、対岸にオペラハウスの見える海岸沿いの道に出ました。シドニーのオペラハウスと同様、海を挟んで臨む建物は立派ですが、残念ながらヨーロッパはどこも夏はオペラもコンサートもシーズンオフ。
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「フレデリスク教会」

 このオペラハウス対岸の位置から人魚姫の地点まで海岸沿いの道を歩くと約30分なので、大使館職員からバスに乗ることを勧められましたが、平井委員長は「歩こう!」。結構良い運動になりました。途中、すぐ左手に見えてきたのが、私が財務省で関税関係の仕事をしていたときに対日要求でよく悩まされた、かの世界最大手の海運会社マースクの本社、それを過ぎると、牛に鞭を打つ女神ゲフィオンの像がある噴水「ゲフィオンの泉」に出ますが、観光解説によると、「その昔、一晩で耕せるだけの土地を与えようと約束したスウェーデン王の言葉を信じ、女神ゲフィオンが自分の息子4人を牛に変えて必死に耕した結果、スウェーデン領土だった島を獲得したのがコペンハーゲンのあるシェラン島だという伝説があり、水しぶきを上げながら邁進するゲフィオンと牛の表情は圧巻」とされています。
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「対岸にコペンハーゲンのオペラハウス」
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「ゲフィオンの泉」

 そこからさらに歩を進めて見えてくるのが、「世界三大がっかり」の一つ、人魚姫の像です。がっかりとは、世界的に有名で観光客が多い割には、あまりに簡素で小規模で、過剰な期待を裏切るとされる場所のことですが、あとの2つは、シンガポールのマーライオンとブリュッセルの小便小僧だとされています。私もかつて、どのようにカメラを向けても対岸の工場地帯が写真に入ってしまうという意味で、この人魚姫像にはがっかりしたことがありましたが、今回は、よく見ると意外と「いい女」にも見えました。
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「一応取りました、人魚姫」

 休暇はここまでで、このあと、大使公邸に向かい、美しい高級住宅地区にあって広大な庭を備えた立派できれいでゆったりとした公邸建物の中で、佐野大使からデンマークの経済や医療・社会システムなどについて、日曜日ではありながらみっちりとレクチャーを受けることになりました。
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「北欧の港町の風情」
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「大使公邸にて佐野大使によるデンマークに関するレクチャー」

 そして、翌日の8月26日の丸一日と27日の昼まで1日半、デンマークのGDPの約2割を生み出しているとされるメディコンバレー(ライフサイエンス・クラスター)の運営機関であるメディコンバレーアライアンス(MVA)の事務局、国民の遺伝子情報を保管管理するバイオバンク、医療など個人情報の管理運用に預かるデータ保護庁、そしてデンマーク国会と、メディコンバレー関係企業であるルンドベック社を訪問しました。

●バイオテクノロジーや医薬・医療のクラスター、メディコンバレー
 まず、メディコンバレーですが、これは、デンマークとスウェーデンを結ぶオーレスン大橋の建設が計画された1990年代より、デンマークのコペンハーゲンエリアと、スウェーデンのスコーネ地方に広がったライフサイエンスの研究・産業クラスターのことです。26日に訪れたMVAは、そのセンター的機能を担っており、ライフサイエンスに参画する企業や研究所、大学などを相手に様々なアレンジメントやビジネスマッチングをしています。
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「デンマークが誇るメディコンバレーにて」

  現在、MVAは「Beacon(灯台)イニシアチブ」に取り組んでいますが、その柱は、①Drug Delivery(世界トップレベルの薬品搬送センターという意味と、薬効が体内で患部に確実に届くという意味の両義があるように聞こえました)、②Independent Living(患者の在宅化:在宅患者がインターネットでeヘルスセンターにつながり、さらにデータベース、そして医師につながっているという仕組みなど)、③Immune Regulation(免疫の制御:バイオテクノロジーによって人間が持つ免疫力を最大限に活用した医療を実現)、④Systems Biology(CPRという社会保障番号によって蓄積された膨大な医療サンプルデータを活用して、個々人の特性に合わせたテーラーメイド医療や病気の原因解明を推進)の4つです。今後の課題は、デンマークやスウェーデンのデータを集中し、個々の遺伝子データ、病院のデータ、特定人口に関するデータを総合して何を生み出すかであるとしていました。
 MVAの事務局長は、日本について、会社の構造の違いや労働市場の流動性などの柔軟性の欠如、文化の違いなど、イノベーションを起こす上での日本の欠点を長々と論じ、そうした議論を日頃から何度も聞かされている我々にとってはやや辟易した面もありました。私が一点、関心を持ったのは、日本では官民の協調体制が不足しているとの指摘でした。確かに私自身、高度成長を導いた官民協調体制が90年代に崩壊し、その後、新たな協調の仕組みが組み立てられていないことが、必要以上にリスクテイクを停滞させていると感じていますので、これについて突っ込んでみたところ、答は曖昧なものでした。
 私たち一行は、翌27日には、このメディコンバレー関係企業としてデンマーク有数の製薬会社であるルンドベック社も訪問して説明を受けましたが、そこで私の関心を惹いたのも、政府ファンドの役割でした。日本でも現在、「官民ファンド」の乱立が話題になっていますが、ファンドというからには、「官民協調」の視点から、その財源構成や運用形態が問われるはずです。私から質したところ、財源は政府からの補助金ということで、では、ファンドとしての運用成果が問われないのかというと、なんと、「ファンド拠出先の企業やその従業員から得られる税収の増加分が、その企業への拠出金の額を上回っている」との説明でした。確かに、一定の財政支出によって、それを上回る税収増が実現するかどうかというのは、政府投資を評価する際の判断基準となり得るものかもしれませんが、いまの日本で、特定の民間企業を対象にそうした判定をするという説明をすれば、どのような反応があるか、興味深い点です。
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「デンマーク昼食のサンドイッチ、ニシンの酢漬けが載っていたものと記憶。」

●個人番号制度ですべての国民の遺伝子情報まで管理。
 MVAでも取り組んでいる課題とされた遺伝子情報ですが、私たち一行が26日の午後に訪れたのが、バイオバンクでした。これは医療検体等に関する情報の登録機関で、デンマークの保健管理システムによって収集された約1,500万の検体(血液、細胞、DNA等)にアクセスが可能です。デンマークでは、どの国民も生誕時に、自らの血清データが国に登録されます。それを保管・管理するとともに、自らも研究機能を有するのがバイオバンクで、個々の国民の遺伝子情報が冷凍保存されている部屋に私たちは案内されました。引出しを開けると、氷った白い煙が漂う中、担当者がサンプルを取り出してくれました(写真)。これも重要な個人情報ですから、新生児の親が国への登録を拒否する権利はないのかと、ある議員が尋ねたところ、560万人のデンマーク国民のうち、456人だけが拒否しているとの答が返ってきました。1万人当たり1人未満です。
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「遺伝子バンクの中には各国民の情報が冷凍保存」

 ここで、CPR(Central Persons Registration)番号と呼ばれる個人識別番号について触れてみたいと思います。デンマークは共通番号の早期整備によって電子政府化戦略に成功した国です。デンマーク国民はポータルにアクセスすることで自らの情報の確認や各種申請手続を行っており、この番号とパスワード入力によるデジタル署名によって個人認証を行っています。同国では、1924年から全国民の名前、住所、家族構成、生誕地などの記録が登録され、当初は地方自治体により管理されていましたが、その登録情報の利用需要が増え、個人IDの必要性が高まったため、1968年にCPRが導入、それまで地方自治体が手動で管理してきた登録情報がすべてCPRに移行され、国民全体の登録情報が一元的に管理できるようになりました。導入当初は、例えば、税の徴収事務に納税番号として使われるなど公的利用のみが想定されていましたが、その後、医療、健康分野、国民生活全般にわたる行政サービスへと利用が広がり、個人証明としても利用されるようになったものです。
 国民の遺伝子情報も、このCPRによって蓄積・管理されています。医療との関連でいえば、CPRはバイオバンクとEHR、その他の登録情報と結びつく形で、研究機関などに情報提供されています。EHRとは、Electric Health Record(電子健康記録)のことで、電子カルテを中心とした医療情報をネットワーク経由で複数の医療機関で情報共有する仕組みです。かかりつけの病院にある患者個人の医療情報は、どの医療機関でも見られることになります。もし、これを日本でも導入できたら、全国どこにいても過去の自分の病歴や既往症に応じた、無駄のない医療サービスを受けられるようになるでしょう。

●個人データは保護を超えて活用へ、イノベーションの源泉となる社会インフラに。
 私たち一行がバイオバンクのあとに訪れたのは、デンマークのデータ保護庁という役所でした。法務省と提携する、2000年に設立された独立の機関で、委員会(代表は裁判官、医師などの専門家がメンバー)と34名からなる事務局で運営されています。機能は、個人テータをどう扱うかという相談に対してアドバイスしたり、データの管理、監査、情報処理に許可を与える機能だということです。基本法はデンマークでも個人情報保護法であり、医師による処方やバイオバンクも同法に基づいて管理されているそうです。
 ちなみに、デンマーク国民には必ず「かかりつけ医」がおり、そのようなファミリードクターが最初に診察しなければ、病院等では受診できない仕組みが徹底しています。当然のことながら、そのようなシステムを支えるのは個人の医療情報を医療システム全体で共有することです。本人同意などの手続きを前提に、医療関係の各機関の間で医療情報が行き交うことで、高い医療効率と効果が実現しているのがデンマークだとされています。
 デンマークでも日本と同じく、通常の場合は、個人情報の他の目的での利用については本人の同意が必要である一方で、研究目的での利用については特別のルールがあり、本人の同意は不必要で、特に健康関連は規制が緩く、研究者は全国の膨大な医療データへのアクセスが許されています。この点で、個人情報管理のあり方も個人情報保護に神経質な日本とは異なるようです。そもそもデータ保護庁自体が、個人データの利用について承認された研究事業に対し、検体を提供する機関として、プライバシーの観点からの人権保護よりも、個人情報の円滑な利用の促進に軸足を置いた機関であるとの印象を受けました。
 これからの「官民協調」のあり方の一つの方向は、官が個人情報などのデータベース・インフラの基礎的部分を整備し、それを民の様々なシステムとも接続、活用しながら官民で共有していくことで、社会の課題解決に向けて「健康」などの21世紀型バリューの創造に向けたイノベーションを起こしていくということなのかもしれません。
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「コペンハーゲンらしさはやはり、このような場所。」

●高福祉・高負担でも一人当たりGDPが日本より高い理由。
 ただ、私がデンマークで最も関心を持ったのは、同国の社会保障負担の問題でした。同国は社会保障支出の対GDP比ではOECD諸国で最高位(2010年で33.7%、日本は24.1%で16位)であり、2010年の国民負担率(税金と社会保険料負担の国民所得に対する比率)は、なんと68%に達しています(うち65%と、そのほとんどを占めるのが租税負担率)。ちなみに日本は、2010年度の国民負担率は38.5%(うち租税負担率では約22%)ですが、65歳以上の高齢世代が人口に占める比率である高齢化率では、2010年度の数字で日本はデンマークの16.5%を上回る23%に達しており、今後、人類史上例を見ない超高齢化社会へと突入していきます。日本は高齢化率ではデンマークを上回っているのに、国民負担率はデンマークよりずっと低い。これが何を意味するか、じっくりと考える必要があると思います。
 この世界に冠たる高福祉・高負担国家のデンマーク、さぞや高福祉が経済に重い負荷を課し、国民が負担にあえいでいるのではないかというと、そうとも言えません。2012年の同国の一人当たりGDPは56,210ドルと、46,720ドルの日本よりもずっと高い水準です。
 その理由は、一つは労働市場インフラにあります。手厚い失業手当と職業教育訓練プログラムを背景として、解雇や雇用がしやすい流動性の高い柔軟な労働市場となっています。多くの職業に資格制度が採用され、生涯に6~7回、職を替えて、長期的な「適材適所」が図られています。雇う側の企業としても、思い切ったリストラで生産性の高い分野へのリスクテイクがより行いやすいことになります。
 社会の少子化や高齢化に対応した労働力確保策にも成功しています。70.4%という高い女性就業率(OECD平均で56.7%、日本は60.3%)を実現しており、女性が職業を持ちつつ育児を可能にするための手厚い保育・学童制度など、女性の社会進出とライフワークバランスを支える様々な仕組みを背景に、女性が社会でめざましく活躍しています。ちなみに、デンマークの22人の閣僚のうち10人が女性です。一般的な退職年齢の規定はなく、高齢世代もほぼ67歳まで就労しています。
 デンマークの産業構造において、多くの企業が生産性の高い分野に集中していることも、一人当たりGDPが高い理由の一つです。北海道とほぼ同じ人口の国ですが、競争力が高くニッチな世界企業が多数存在し、中小企業も輸出志向が高く、国際競争力を有する企業が多いようです。ただ、これは人口の少ない小国のメリットであり、多くの人口を養わねばならない大国の場合、生産性の高い分野だけでは雇用は吸収しきれず、低生産部門も広く国内に温存しなければならないことから国全体としての平均的な生産性は低くならざるを得ない面があり、小国の事例を直ちにモデルとするのは困難なことにも留意する必要があるでしょう。
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「コペンハーゲン市庁舎」

 もう一つ、デンマークに経済活力をもたらしている要因として、高福祉制度ということを無視することはできません。教育、医療、介護が基本的に無料であるなど、国民の将来への経済的な不安が少ないため、デンマークは貯蓄率が低く(2011年でマイナス0.55%)、消費性向の高い国になっています。前述のように雇用のセーフティーネットが整備されていることも国民の安心につながります。経済学でも、不確実性が高い状況では人々のリスクテイクが低迷し、経済が停滞するとされています。
 デンマークは、高負担の国であっても、全体として高い社会保障水準が、不確実性を軽減し、経済を活性化するということを体現した国だといえます。

●消費税率で示される将来の国家選択
 いま日本では消費税率の引上げが議論されていますが、私が繰り返し強調してきたように、計画されている5%程度の消費増税は、世界一の超高齢化社会に突入している日本にとって、社会保障財源の不足分の一部を補うものに過ぎず、いわば出血状態に少しでも止血を施すものであって、そこには選択の余地はありません。選択肢はその先にあります。現在の日本の社会保障水準を維持するだけでも、さらに5%程度の消費増税の引上げは不可避です。
 その際、公的健康保険の存在しない米国型の自助・自立を徹底し、政府の社会保障給付を大幅に減らして、将来的に消費税率は10%程度半ばまでに抑えられるようにする道を選ぶのか、あるいは、デンマークは日本の消費税率に当たる付加価値税率が25%ですが、そのような国をモデルに「公助」の充実で安心社会を築くことで経済活力を図るのか、あるいは、その両者を両極とする中間の形態として、政府に拠らずに民間の「共助」(助け合い)の仕組みを組み立てることで、消費税率を20%以下に抑える道を採るのか、まさに、これからの日本に問われるのは、このようなレベルでの国家選択だと思います。
 私は超高齢化社会での「安心」の答は、必ずしも高負担の北欧型にあるとは考えていません。その際、参考になるのが、デンマークのソーシャル・クラブという社会システムです。同国ではどの国民もが、職業人である前に、各地域に根差す社交やコミュニティーの場としてのソーシャル・クラブの成員だそうです。職場では残業がほとんどなく、午後4時半頃になると帰り支度をする風景が見られるそうですが、皆さん、その後はソーシャル・クラブでの活動が待っていて、そちらの方をもっと重視している人が多いということでした。職を失ってもこのような「居場所」があるということも、安心社会の一つの背景のようです。日本も地域や非営利の場などにさまざまなコミュニティーを創出し、日本型の「共助」を組み立てる道を追求していかないと、デンマーク以上に進む超高齢化社会を活力ある社会にしていくことはできないでしょう。
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「デンマーク国会の本会議場」

●超高齢化社会のソリューションはDNA情報の活用にあり。
 ただし、このデンマークでも、重い国民負担を見直そうという動きがないわけではありません。私たち一行は27日、デンマーク国会議事堂に保健委員会の議員を訪ね、社民党の女性議員であるカーン・クリント氏と意見交換をしました。現在は社民党を中心とする中道左派の連立政権ですが、保守の側からは 国民負担軽減の主張もなされているようです。
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「デンマーク国会の保健委員会、クリント議員と会談」

 ちなみにデンマークでは、どのような先端医療技術であっても、医療はすべて公的保険でカバーされています。例えば、米国で高度な先進医療の治療を受けた場合でも、その医療技術をデンマーク国内では享受できないことさえ示せれば、同国の公的保険で賄われるそうです。医療技術の進歩で医療費が経済成長率を上回るテンポで増大していくことは、各国とも共通に抱える悩みだと思います。その中で、デンマークのようなことをしていると財政は破綻するのではないか、この点に関する財政の将来見通しはどうなっているのかと、失礼ながら、私は思わずクリント議員に質してしまいました。これに対する答は、「予防医療の発展などで国民の健康増進を図り、医療費を節約していく」というものでした。
 どこかの国でも聞いたことのある理屈です。近年の日本では「メタボ対策」という言葉もよく聞きます。それは確かに重要なことですが、超高齢化社会の進展で医療需要が増大する中では「焼け石に水」なのではないかと思ってしまいます。しかし、先にみたように、国民の遺伝子情報までが徹底管理されているデンマークの姿を目の当たりにすれば、それはもしかすると現実的なソリューションになるのかも知れないと思ってしまいます。
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「デンマーク国会もさまざまな運営合理化策を推進。」

 よく、遺伝子を解析すれば、その人が何歳でどのような病気になるのか、何歳まで生きるのかまで分かると言われます。予防医療を徹底するなら、遺伝子レベルでの解析に基づいたテーラーメイドの健康増進や治療ということに行き着くことは容易に想像されることです。もしかすると、遺伝子技術を駆使してヒトの運命まで変えてしまう。そこまで行くと神の領域であり、バイオバンクでも、そこまではまだ考えていないという説明でしたが、ヒトという生物が例えば100年前と比較しても別の生物に変化したといわれるほど世界的に長寿・高齢社会が進展していく21世紀にあっては、社会システムの持続可能性を担保するために必要なソリューションは、生命倫理や神の領域にまで人智を及ぼしていくことに求められてくるのではないか。
 これがデンマークの徹底した個人医療情報管理システムに触れた私の感想でした。
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「デンマーク国会議事堂前にて」

 8月27日の午後、私たち一行は、詳細な説明を尽くしてくれた佐野大使に見送られて、次の訪問国ドイツの首都ベルリンに向けて、コペンハーゲンの空港から飛び立ちました。