☆自然排卵周期移植 vs. ホルモン補充周期移植:妊娠成績とリスク その1 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

今年の9月中旬に、Webセミナーで最新の生殖医学領域の論文を紹介する企画があり、今月は(いつもより)たくさん論文を読んでいます。その中で、自然排卵周期移植とホルモン補充周期移植について、新たなトレンドが見えてきましたので、2回に分けてご紹介させていただきます。今回は前半部分をご紹介します。

 

論文①Fertil Steril 2018; 109: 768(ASRM)doi: 10.1016/j.fertnstert.2018.02.135

要約:自然排卵周期移植とホルモン補充周期移植について、2018年の米国生殖医学会(ASRM)の見解は下記です。

1 臨床妊娠率、妊娠継続率、出産率に有意差はありません。

2 費用に有意差はありません。

3 自然周期移植における最適な最小限のモニタリングレジメンは確立されていません。

4 自然周期移植における黄体期サポートの使用の有益性は示されていません。

5 E2製剤とP製剤の最小限の投与期間については、さらなる検討が必要です。

6  E2製剤とP製剤の様々な投与経路を比較するさらなる検討が必要です。 

 

論文②Hum Reprod Update 2023; 29: 634(オランダ、ニュージーランド)doi: 10.1093/humupd/dmad011

要約:自然排卵周期移植とホルモン補充周期移植について、2022年10月までの30論文、113,676名メタアナリシスを実施しました。なお、エビデンスレベルは、低〜中等度でした。結果は下記の通り(有意差のみられた項目を赤字表示)。

 

    ホルモン補充周期と比べた自然周期のオッズ比(95%信頼区間)

出生児体重     -26.35g(-11.61~-41.08)

LGA>90%      0.88(0.83〜0.94)     

SGA<10%      0.99(0.90〜1.10)

巨大児        0.81(0.71〜0.93)     

低体重児<2500g   0.81(0.77〜0.85)     

流産         0.73(0.61〜0.86)     

早産<37w      0.80(0.75〜0.85)     

早産<32w      0.66(0.53~0.84)     

妊娠高血圧症候群   0.60(0.50~0.65)     

新生児死亡      0.80(0.56〜1.13)

妊娠糖尿病      1.01(0.85〜1.19)

先天奇形       0.86(0.66〜1.11)

妊娠高血圧腎症    0.50(0.42~0.60)

前置胎盤       0.84(0.73~0.97)

産後出血       0.43(0.38~0.48)

 

この結果から、ホルモン補充周期と比べ自然周期移植は、1000例あたり4〜22例の有害事象の予防が可能であり、排卵周期を有する女性では、自然周期移植を推奨します。

 

論文③Cochrane Database Syst Rev 2025; 6: CD003414(Cochrane)doi: 10.1002/14651858.CD003414.pub4

要約:自然排卵周期移植とホルモン補充周期移植について、2022年12月までのランダム化試験32論文、6352名メタアナリシスを実施しました。全ての項目で、妊娠成績に有意差はありませんでした。

 

自然周期 vs. ホルモン補充周期    エビデンス

出産率    1.18(0.67~2.08)   低い

流産率    0.10(0.01~1.90)   低い

多胎妊娠率  1.26(0.58~2.75) 非常に低い

 

自然周期 vs. 修正自然周期*      エビデンス

出産率    0.97(0.65~1.45)   低い

流産率    0.83(0.43~1.61)   中程度

多胎妊娠率  1.14(0.52~2.52)   低い

 

修正自然周期* vs. ホルモン補充周期  エビデンス

出産率    1.26(0.90~1.77)    低い

流産率    0.51(0.14~1.87)  非常に低い

多胎妊娠率  1.05(0.46~2.42)   低い

*修正自然周期=トリガーを使った場合

 

解説:2018年の段階では、論文①に示すように、自然排卵周期移植とホルモン補充周期移植に優劣はありませんでした。しかし、2023年に論文②が発表されるや否や、ホルモン補充周期のデメリットが強調されるようになりました(胎児発育、妊娠高血圧症候群、胎盤関連の異常など)。ただし、2025年の論文③にあるように、妊娠成績に優劣はありません。論文②③ともにほとんど同じ時期に調査したメタアナリシスで、エビデンスレベルが低い論文がほとんどであるため、現段階では優劣をつけることができません。しかし日本では、論文②がSNSで幅広く取り上げられているようであり、自然排卵周期移植の方向へ誘導されているように思います。次回は後半部分をご紹介します。

 

下記の記事を参照してください。

2025.8.12「☆自然周期移植における黄体ホルモン補充の有無と周産期予後

2025.7.14「☆黄体(排卵)数で周産期リスクが変わる!?

2023.8.4「☆ホルモン補充周期移植と修飾自然周期移植の出産率は同じ!?

2022.5.30「☆ホルモン補充周期 vs. 自然排卵周期:妊娠成績と妊娠合併症

2022.5.30「Q&A3312 41歳、ホルモン補充周期と自然排卵周期のどちらが良い?

2022.3.4「Q&A3225 ホルモン補充周期?自然排卵周期?

2018.10.10 「凍結胚移植:ホルモン補充周期vs.自然排卵周期