大谷選手で思うこと | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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米大リーグ(MLB)もシーズン大詰めで、今年は打者として大活躍中の大谷選手から目が離せません。この大谷フィーバーで思うことを書いてみたいと思います。

 

高校3年生の大谷は、野手としても投手としても期待が高く、大谷自身も野手と投手のどちらに専念するか決めきれていませんでした。一方、北海道日本ハムファイターズの栗山英樹監督と山田GMは、ドラフト交渉権獲得後、大谷は投打どちらにも決められないと「二刀流、two-way player」の方針を示しました。当時複数のMLB球団と交渉していた大谷は、そもそも二刀流を考えておらず、その提案に懐疑的でした。大谷は、米国で長くプレイするためには最初からMLBに行った方が良いと考えていましたが、栗山監督から「誰も歩いたことのない道を歩いてみませんか」と言われ、日本ハムで二刀流への挑戦を決意しました。2013年から「二刀流」選手として試合に出場し、11勝+10本塁打で日本プロ野球史上初となる「2桁勝利+2桁本塁打」を達成し、2016年にはMVPを受賞しました。

 

2017年、ポスティングシステムでMLBロサンゼルス・エンジェルスに移籍。2018年に新人王、2021年にMVP、2022年ベーブ・ルース以来約104年ぶりのMLB「2桁勝利+2桁本塁打」を達成しました。また、2023年のワールド・ベースボール・クラッシックでは、日本の優勝に貢献しMVPを受賞しました。MLBでは2023年にもMVPを獲得しました。ロサンゼルス・ドジャースに移籍した今年の活躍は皆さんご存知の通りです。また、大谷選手の登場により、2020年にMLBのルール改定がなされ「投手として故障者リスト入りし、マイナーリーグ公式戦でリハビリ登板しながら、同時に野手(指名打者)としてMLB公式戦に出場する」ことができる二刀流が可能になりました。

 

確かに、今年の大谷選手は指名打者として2024年のMLBで最も活躍している野手ですが、そもそも二刀流だった選手が、腕の故障のため投手としては故障者リストに入っている「リハビリ中」の選手です。近代プロ野球ではシーズン通して投手と野手を兼任する「二刀流」は極めて稀です。どちらかに特化しなければプロでは通用しないのが常識だったからです。大谷選手は「二刀流」でも超一流、「一刀流」なら超超一流になるのは当たり前かもしれません。大谷選手の試合を見ていると、観客も選手も、敵も味方も全てが大谷選手の一挙手一投足から目が離せず、誰もが熱い視線と声援を送っています。まさに、大谷選手は野球界の宝と言えるでしょう。相手チームの選手からサインを求められ、気安く応じている姿もしばしば見ます。終始笑顔の大谷選手がとても印象的です。相手チームのファンからも「MVPコール」が鳴り止みません。敵味方なく応援されるスーパースターとして、しばしば思いだされるのは、米国バスケットボール(NBA)のマイケル・ジョーダン選手です。シカゴ・ブルズでの神がかり的なプレーは誰をも魅了しました。当時、私はシカゴのお隣の州であるインディアナ州に留学しており、毎日マイケル・ジョーダンの試合を見ていました。インディアナ州にもNBAのチーム「インディアナ・ペイサーズ」があり、結構強かったので応援していましたが、地元のチームの応援とは別格でマイケル・ジョーダンの素晴らしいプレイに魅了されていました。そんな野球界の神がかり的な存在である大谷選手が、私たちと同じ日本人であることに不思議な高揚感や達成感を感じているのは私だけではないと思います。おそらく、日本人だけではなく、米国人も他の国の方も皆、同様な感覚を持っているのではないかと推察します。また、大谷選手はお金は当然使えないくらい沢山持っていますが、それを全く感じさせない庶民的な感じも好感度アップの一端を担っていると思います。おそらくご本人は、野球に全力を尽くすことが最大の楽しみであり、その他の些細なことには何の興味もなく、普通にしているだけだと思いますが、そのストイックな感じも魅力的です。

 

記録づくしの今年の大谷選手ですが、MLBではどのチームもどの選手も大谷選手に真っ向勝負する姿がとても印象的です*。日本のプロ野球では、個人タイトル(ホームラン王や打点王など)を球団がらみで取らせる方向に動く姿がしばしば見られますが、とても興醒めします。例えば、自分の球団にホームラン王のNo1打者がいて、相手チームにNo2の打者がいる場合に、全打席敬遠することがあります。大谷選手に対する投手や監督は「打たれなければもちろん嬉しいけれど、全力で勝負した球が結果的に大谷選手に打たれても仕方ないし達成感がある」と言います。この「達成感」は非常に重要で、不妊治療でも「如何に納得した治療が行えるか」が重要だと思います。もちろん、全ての方に赤ちゃんを授かって欲しい思いで一杯ですが、もし上手くいかなかったとしても、全力を尽くしてやり切った感があれば、その後の人生も前向きに過ごしていけます。私も決して順風満帆な人生だったわけではなく、辛いことも何度かありました。そこを乗り越えていくためには、気持ちの切り替えや、やるだけやった感が必要だと思います。リプロダクションクリニックでは、治療に年齢制限を設けていません。妊娠するためには、年齢だけでは測れない要素が多々存在するからです。年齢やAMH値やその他の条件がどうあれ、皆さんの可能性はゼロではありません。大谷選手が二刀流を諦めていたら、二刀流の可能性はなくなっていました。栗山監督の言う「誰も歩いたことのない道を歩いてみませんか」を私なりに言い換えるなら、「あなたの妊娠の可能性をとことん追求してみませんか」と声をかけたいと思います。

 

*真っ向勝負する理由の一つには、敬遠しても結局盗塁してしまい(成功率90%以上)、長打を打ったのと同じになってしまうため、やむなく勝負しているという考えもあります。