☆Q&A4125 妊娠中の残留受動喫煙の影響は? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

Q 体外受精で妊娠6週目に入る事が出来ました。先生たちには感謝の気持ちでいっぱいです。

 

現在、仕事をフルタイムで行っているのですが自宅から最寄りの駅まで徒歩で20分以上かけて通勤しております。この厳しい暑さの中、悪阻もあり自力で出社するのが大変なので、近くに住む実父が車で送迎してくれる事になりました。そこで質問なのですが、父親はヘビースモーカーで車内がとにかくタバコの匂いがキツいのです。窓を開けてもタバコの匂いが鼻の中に入ってきます。こうした直接の煙ではなく車内に残ったタバコの匂いで胎児に悪影響が出る事はあるかが心配です。

①車内にいる時間は10分前後です。週に5日(朝のみの送迎)ほど車に乗りますが、これによって胎児が流産することはありますか。
②私自身、凝固因子に問題がありヘパリン注射とバイアスピリン内服をしています。この場合、残留受動喫煙のリスクは高くなりますか(血栓が出来やすくなるか)。
③残留受動喫煙に晒されるくらいなら時間をかけて徒歩通勤の方が良いでしょうか。

 

A 通常の受動喫煙を二次喫煙(second-hand smoke)と呼び、服や部屋についた臭いなどによる残留受動喫煙のことを三次喫煙(third-hand smoke)と言います。残留受動喫煙に関する論文は未だ少ないですが、ヒトでは残留受動喫煙を受けた妊婦では産後うつ病のリスクが増加するという報告があります。また、マウスで残留受動喫煙の化学物質のひとつであるNNAを用いた暴露試験を行ったところ、幼少期のNNA暴露により、卵巣重量や卵胞数の減少と卵生存率低下がみられました。NNA暴露のメスマウスの子どもの体重は著しく減少し、耳の開き、歯の萌出、目の開きが損なわれました。

 

①残留受動喫煙と流産に関する報告はありません。
②残留受動喫煙の血栓に関する報告はありません。
③残留受動喫煙による妊婦への影響はヒトでは産後うつ病だけです。妊娠マウスでのNNA暴露の研究はまだ行われていませんので、残留受動喫煙10分と徒歩通勤20分のどちらが良いかは現在のところ不明です。しかし、私なら(全くタバコのニオイを感じない)完璧防御のマスクを着用し、(自分の服にタバコのニオイがつかないよう)ビニールのレインコートみたいなのを着て、お父様の車に乗ると思います。

 

なお、このQ&Aは、約3週間前の質問にお答えしております。