人種と不妊治療について | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

米国生殖医学会(ASRM)の月刊誌(Fertil Steril)では、時々「暗示(Inklings)」というコーナーがあります。今回ご紹介するのは、人種と不妊治療についてです。

 

Fertil Steril 2024; 122: 40(米国)doi: 10.1016/j.fertnstert.2024.02.012

要約:全米ART登録システム(SART CORS)では、2014~2019年の人種と民族に関するデータの欠落が36%ありました(過去20年で最大48%)。米国では、ほとんどの州で不妊治療が保険でカバーされていないため、ART治療費の大部分は患者が負担しています。2019年のART治療費は1周期あたり22,000ドル、出産1回あたりの平均総費用は50,000ドルを超えています。不妊の問題を抱える可能性が高い低所得の有色人種の女性は不妊治療を実際あまり受けていません。欠落データが多いと、ART治療における医療格差を軽減することはできません。SART CORSの人種と民族の登録では、「正く記載する」か「尋ねられなかった」「拒否した」「不明」にチェックを入れます。2021年の登録状況を見ると、大多数のクリニック(>75%)が、報告の50%以上で後者3つのいずれかにチェックを入れていました。これらすべてのデータを収集するのは大変に思えるかもしれませんが、人種と民族に関する情報を確実に収集し、単なる願望にとどまらないようにすることが私たちの目標です。

 

解説:ほぼ単一民族である日本と異なり、世界中から様々な人種が集まる米国では、人種と民族の把握が、不妊治療も含め疾病の予防、治療、健康維持に重要です。これは、人種と民族により、疾患罹患率や治療戦略が異なるためです。